「ホンダ電動モトクロッサーが全日本選手権で初の実戦投入」トップクラス450ccエンジン車と混走で2位の実績を残す!

ホンダ「CRエレクトリックプロト」が国内モトクロスのトップクラスIA1(4スト450cc単気筒)に正式参戦

ホンダの電動モトクロッサー「CRエレクトリックプロト(CR ELECTRIC PROTO)」全日本モトクロス初参戦で2位獲得

ホンダの電動モトクロスバイク「CRエレクトリックプロト」は2019年からデモ走行や各種ショーでの展示によってその存在は認知されてきました。また昨年・2022年のHRC体制発表会で2023年中のレース参戦を表明し、その動向が注目されていました。 【画像7点】ホンダ電動モトクロッサー・CRエレクトリックプロトを写真で解説「ハンドルスイッチ類も特殊なものが!?」 そして、ついに実戦投入へ! CRエレクトリックプロトが参戦したのは2023年10月29日に埼玉県川越市のオフロードヴィレッジで開催された「D.I.D全日本モトクロス選手権シリーズ2023 第8戦 埼玉トヨペットCUP」のIA1(アイエーワン)クラス。 ライダーは元AMAチャンピオンで、現在はアメリカホンダのテストライダーのトレイ・カナード選手です。 IA1クラスは国内モトクロスの頂点で、参加車両は4スト450ccの単気筒エンジンを使用します(最高出力は60~70psを発揮していると言われます)。つまりガソリンエンジンのレースに電動モーター車が走るわけですが、開催に先立って主催団体のMFJが競技規則を改訂しこの参戦が実現しました。 世界でも類を見ない世界トップのバイクメーカーによる「ガソリンエンジン対電気モーター」という夢の対決です。 ホンダの電動バイクによる公式レースへの参戦は今回が初めてです。CRエレクトリックプロトはホンダと電動レース車両で開発や参戦が先行していた無限(株式会社M-TEC)と共同研究したもの。ホンダからスペック等の発表はありませんでしたが、ホンダの技術をフルにつぎ込んだファクトリーマシンです。しかもMotoGPマシンと違って、いつかは一般ユーザーに市販されるかもしれません。

レースに参戦した実車からわかること

大きなジャンプを跳ぶCRエレクトリックプロトとカナード選手。エキパイ一式が無いので軽快なイメージ

CRエレクトリックプロトを観察すると、フレームはこのマシンのために特別に制作されたものですが、その形状は概ねホンダCRFシリーズと同様です。後輪を駆動するドライブスプロケットもエンジン車のCRFとほぼ同じ位置についています。フロントサスペンションから前方とスイングアームから後方はHRCのエンジン車CRF450R/250Rと同じ仕様に見えます。 HRCのCRFシリーズは世界的に見ても最上級のモトクロスマシンですから、CRエレクトリックプロトにもそのノウハウを生かし高性能な走りを実現していると思われます。 肝心のモーター部分ですが、水冷式のモーターとインバーターが上下に並んだ一体式のユニットとなっています。インバーターはモーターの回転などを制御する電源回路で電動車のキモとなる大事な部品。モーターの最高出力は不明ですが、レースで競り合ったヤマハYZ450Fに乗るジェイ・ウィルソン選手は「パワーは自分のYZ450Fと同じくらいだった」と語っています。一方、カナード選手の希望で「フルパワーではパワフル過ぎるので少しマイルドにした」という情報もありました。 シフトペダルとクラッチレバーはなく、ギヤは1速のみだと推測できます。今回のコースでは4スト450ccエンジンでは3つのギア(2速から4速)を使って走行していると思いますが、CRエレクトリックプロトはそのギアの幅を1速の回転域でカバーしているわけです。 オートマチック的とも想像できますが、クラッチの滑りがあるとその分だけ電気を消費するので、ギヤは直結しているかもしれません(当然、ギヤによる減速でモーター回転数よりも後輪の回転数は少なくなります)。 スタートではシフトアップがないので途切れない加速をします。ここは電動車が有利な部分で、CRエレクトリックプロトは3ヒート中2ヒートでホールショット(スタート時に1コーナーをトップで通過すること)を獲得しています。 一方、エンジン車はジャンプ中に空中でエンジン回転を上げることである程度は姿勢を回復したり安定を得たりする事ができます。しかしアクセルを開けると即最大トルク発生というモーターの特性は、ジャンプ中のアクセル操作に対し前後バランスがシビアに反応し過ぎるという情報もありました(カナード選手はジャンプは必ずアクセル全閉)。 レースに参戦するとテストでは再現できない事が起きます。今回は特に土曜朝に豪雨となり、コースには無数の轍がありました。全日本選手権ならではのIAクラスなどのトップライダー達がコースの端から端までのべ何百回と刻んだ深い轍が、ドロドロから徐々に乾いて硬くなっていきます。レース参加が初めてのCRエレクトリックプロトはこういった条件に適応することも開発のステップだと思います。 この様な路面状況では「半クラッチを使って少しだけ、あるいは徐々に後輪パワーをかけたり、逆にいきなりフルパワーにしたり」エンジン車のモトクロスはそういうテクニックが普通です。ホンダならCRエレクトリックプロトにクラッチを付けることは簡単でしょうが、限られたバッテリー容量でできだけ長く走行できるようにクラッチの無いシステムにトライしているのかもしれません。 一方、ハンドルの左手部分にクラッチレバーはありませんが、トルク(トラクション)コントロールと出力特性のマップ切り替えのボタンと思われるものがあります。

「即、最大トルク」のモーター!スタートダッシュの勢いはさすが

決勝レースは15分のレースが3回行なわれる3ヒート制で行われます。第1ヒートはヤマハ YZ450Fのウィルソン選手とホンダ CRエレクトリックプロトのカナード選手の一騎打ちとなり、2秒ほどの差をキープしたまま周回が続きました。その間に3位以下の日本人選手は大きく引き離されています。終盤のラスト2周からカナード選手が失速。バッテリーを最後まで持たせるペースに切り替えて2位のままゴール。 第2ヒートはホールショットで飛び出したCRエレクトリックプロトとカナード選手。出遅れたヤマハのウィルソン選手もすぐに2位に上がります。ところが2周目に入ったところで2名は接触転倒してしまいます。 ウィルソン選手は再スタートしましたが、その際にCRエレクトリックプロトの電源遮断スイッチ(ストラップでライダーと繋がっており、装着が競技規則で定められている)を後輪に巻き付けしまいました。CRエレクトリックプロトとカナード選手は再始動できずにそのままリタイヤとなります。 第3ヒートでは再びCRエレクトリックプロトがホールショット。電動モーターが先頭でレースを引っ張りました。しかし2周にカナード選手が単独で転倒。右手を痛めてリタイヤとなってしまいました。この転倒の際にバイクもダメージを負ってしまい再スタートはかないませんでした。 2つのリタイヤは残念でしたが、2位入賞が1回と2度のホールショットとトップ走行もあり、CRエレクトリックプロトの実力を感じることができました。完成度よりも可能性に期待が膨らみます。 今回の「CRエレクトリックプロト」という名称を見ると「数年内にCRシリーズの一台として市販するための先行開発車」という風に見えます。ガソリンエンジンでも電動車でも行き着くシーンはユーザーのライディングプレジャーだと思います。カナード選手は「電動車に乗るのは本当に楽しい」と教えてくれました。CRエレクトリックプロトはいつどんな風に我々を楽しませてくれるのでしょうか。 レポート&写真●柴田直行 編集●上野茂岐

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