優秀な部下が、突然「辞める」と言い出す理由を人事評価の面から分析し、評価の伝え方のポイントについても紹介します(写真:kouta/PIXTA)
「成績トップで素晴らしい! 来期もこの調子でがんばってほしい!」
そんな声をかけていた優秀な部下が、突然「辞める」と言い出しました。上司としてはまったくの想定外でした。理由を聞くと、「環境を変えて、新しいチャレンジをしたい」と言います。
『マネジャーのための人事評価で最高のチームをつくる方法』を上梓した川内正直氏は、このような離職は、「今の自分に満足してしまった」ことが原因だと言います。
評価が高い部下に対しては、大丈夫だろうと安心している管理職も多いのではないでしょうか。しかし、調子が良い部下こそ注意が必要です。今回は、評価の伝え方のポイントについて川内氏にうかがいました。
評価の伝え方で部下のモチベーションは大きく変わる
「評価の伝え方」は、目標設定の方法や評価点の付け方などと比較し、軽視されやすい。しかし、評価の伝え方1つで部下のモチベーションが大きく変わることは意識しておきたい。
例えば、チーム内での営業成績が10位になってしまった部下に対して、「最下位で残念だったな……反省してほしい」と伝えるか、「1位と違って、10位は上を目指せる。これをきっかけにすれば、必ず成長できるぞ!」と伝えるかで、部下の印象は異なるだろう。
評価面談の場は、単に評価点を伝える場ではなく、部下のモチベーションを上げる場だと認識してほしい。
ただし、上司と部下では見えている世界が大きく異なっている。ここでは、それに起因する、部下のモチベーションを上げきれない要因を2つご紹介する。
「評価」のギャップから生じる「4つのモード」
1つ目は、「上司評価」と部下の「自己評価」の間に生じるギャップだ。上司評価と自己評価の高低に応じて、4つのモードに分類できる。いずれの場合も、モードに応じて評価を伝えることで、さらなる成長を促すことができる。
(画像:『マネジャーのための人事評価で最高のチームをつくる方法』)
▼「充実モード」も注意が必要!
上司からの評価も、本人の自己評価も高いのが充実モードだ。結果が出ていて、部下自身もそれを認識している状態なので理想的に見えるが、注意点もある。
例えば「絶好調だね! そのままがんばって!」と褒めるだけではNGだ。自己評価が高いときは、「もっと基準を上げていこう」という話をしやすいタイミング。にもかかわらず、次のステップに触れることなく手放しで褒めてしまうと、「自分はこれでいいんだな」と現状の基準で満足してしまい、成長が止まってしまうリスクがある。
充実モードの部下に対しては、「なぜその結果が出たのか?」という要因分析を促すことが重要だ。部下自身が成功要因を言語化できると、成長プロセスの再現性を持つことができる。そうなると、さらに高い目標設定をしても自信を持ってチャレンジできるようになるだろう。
▼「天狗モード」はギャップの原因究明を
上司評価は低いが、自己評価が高いのが天狗モードだ。部下は自分に自信を持っているが、過大な自己評価で、実際の評価が伴わない。上司と部下で評価の基準にズレがあり、部下が勘違いをしている状態とも言える。
天狗モードから脱却するためには、勘違いの原因を突き止めることが重要だ。上司が評価基準を曖昧にしていたために勘違いが生まれた可能性もあるし、調子に乗せようとおだてすぎたことで勘違いしてしまったのかもしれない。コミュニケーションを見直そう。
▼「卑下モード」は自己信頼を高めることから
上司の評価は高いのに、自分自身の評価が低いのが卑下モードだ。「どうせ」「私なんか」が口癖になっていたり、何らかのコンプレックスを抱えているケースも多い。卑下モードから脱するためには、第一に「なぜ、自信を持てないのか?」を探る必要がある。そのうえで、上司は「なぜ、私はあなたを評価しているのか?」という理由を説明することが重要だ。
また、上司からだけでなく、周囲のメンバーから賞賛を受ける機会を設けるのも有効だ。周囲から褒めてもらうことで、「みんなもそう思ってくれているのか」と認識を変えやすくなる。
▼「停滞モード」を抜け出すカギは、成功体験の創出
上司評価も低く、自己評価も低いのが停滞モードだ。これは、本連載の1回目『「職場が”ゆるい”から」と若手が辞める2つの背景』で解説した、成長曲線における「プラトー」の状態にあることで、一時的に成長が止まって見えることが原因のことが多い。
停滞モードを抜け出すためには、上司が目標を細かく刻み、やるべきことを限定してあげることが有効だ。「まずはこれをやってみよう」「ほら、できたじゃないか」という経験を繰り返しながら、部下が成長実感を感じられる状態を作ろう。
モチベーションの上がる言葉が異なる「4つのタイプ」
2つ目は、モチベーションが上がる要因は人によって異なることにある。「一生懸命伝えたつもりなのに、なぜか響いていない……」という場合、そもそも部下が「何によってモチベーションが上がるのか?」を把握できていない可能性がある。
何によってモチベーションが上がるかを分類すると、大きく4つのタイプに分けられる。
(画像:『マネジャーのための人事評価で最高のチームをつくる方法』)
■勝ち負けや損得で動く「アタックタイプ」
自力本願でありたいと思う人はアタックタイプだ。「成功を収めたい」「周囲に影響を与えたい」という気持ちが強い。「この目標を達成できれば、過去最高記録を更新だな」といった声かけなどによって闘志を燃やすタイプだ。
■善悪や正邪で動く「レシーブタイプ」
「人の役に立ちたい」という思いが強く、他者との戦いよりも協調を大切にする人はレシーブタイプだ。「いつも周囲を気づかってくれて感謝してるよ」といった言葉でモチベーションが上がる一方で、「1位を目指そう!」といった激励は逆効果。「別に1位になりたくて成長しているわけじゃないし……」とモヤモヤさせてしまうだけだ。
■真偽や因果で動く「シンキングタイプ」
「さまざまな知識を得たい」「複雑なものごとを究明したい」というように、論理的志向が強い人はシンキングタイプだ。このタイプの部下の背中を押すためには、「なぜその仕事をしてほしいのか?」「どんな力に期待しているのか?」などを整然と伝えることが重要だ。
「この仕事を通して○○の能力が高まったから、△△ができるようになったね」というように、能力向上への評価はモチベーションアップにつながりやすい。
■美醜や好嫌で動く「フィーリングタイプ」
「新しいものを生み出したい」「自分の個性を理解されたい」と考える人はフィーリングタイプだ。「これを実現できたらおもしろいよね」「このアイデアって斬新だよね」など、感覚に訴えるのが有効だ。逆に、ルールで縛り、手順どおりに仕事をすることばかりを評価しているとモチベーションが低下してしまう。
決めつけが評価者の目を曇らせる
上述した4つのモードも4つのモチベーションタイプも、場合や状況によって変化することがある。
例えば、普段はレシーブタイプで縁の下の力持ちとしてがんばることに喜びを感じている部下が、どうしても勝ちにこだわりたい状況になったとき、アタックタイプに変わることもある。
そのため、「この人はこういうタイプだから」と決めつけるのは避けたい。普段から、部下の「今」の状態を把握するとともに、モードやモチベーションタイプの変化に気づけるコミュニケーションを行うことが大事だ。
評価を伝えるタイミングは、部下が気持ちを新たにできる重要な節目である。このときの「伝え方」次第で、部下の成長意欲やモチベーションは大きく変わってくる。部下のモチベーションを最大化する伝え方に向けて、まずは部下のモードやモチベーションタイプを把握することから始めてほしい。
(川内 正直 : リンクアンドモチベーション 常務執行役員)