中国の電気自動車(EV)用バッテリー企業は、巨大な国内市場で力をつけ、輸出でも存在感を高めている。西側諸国が自国市場を守ろうとしても、もはや手遅れかもしれない。
中国企業は既存および将来の輸入規制を回避するため、欧州内や米国の自由貿易相手国に大規模工場を建設することを検討している。ちょうど日本の自動車メーカーが1980年代に米国でしたように。
中国汽車工業協会(CAAM)によると、プラグインハイブリッドを含む新エネルギー車の新車販売台数は1~9月に前年同期比37%増加した。輸出も大きく伸び、中国は現在、EV輸出で世界首位だ。
これは中国のバッテリー業界にとっても追い風となっている。EV向け電池大手の寧徳時代新能源科技(コンテンポラリー・アンペレックス・テクノロジー、CATL)とEVメーカーの比亜迪(BYD)はすでに、EV用バッテリーの生産で世界トップ2だ。
中国以外の市場では、中国のバッテリーメーカーはいまだ韓国勢に後れを取っている。だがもしCATLが今年のペースで伸び続ければ、早々に勢力図が書き換わる可能性もある。
中国バッテリー大手の世界進出、すでに回避困難か© The Wall Street Journal 提供
SNEリサーチによると、韓国バッテリー最大手LGエナジーソリューションは、1~8月の中国を除く販売量が前年同期比60%増加。一方、CATLは国外販売量が2倍以上に膨らみ、中国を除く市場のシェアはLGと拮抗(きっこう)し、両社はいずれも28%程度を占める。韓国2位のSKオンの販売量は16%増にとどまった。
HSBCによると、欧州市場におけるCATLのシェアは2023年が24%と、20年の10%から拡大。米テスラの上海工場からCATL製バッテリーを搭載したEVが輸出されていることが理由の一つだ。CATLはほかにも、ステランティスやメルセデス・ベンツなどの欧州自動車大手にバッテリーを供給している。
中国国内で競争が激化する中、中国バッテリーメーカーにとって国外販売量の重要性が増すかもしれない。ゴールドマン・サックスは、中国バッテリーメーカーの国外利益が大きく増加していると試算。独フォルクスワーゲン(VW)のサプライヤーである国軒高科について、利益に占める輸出または国外生産の割合が25年までに70%程度に達するとみている。同社は今年、ドイツ工場が生産を開始したほか、米イリノイ州にも20億ドル(約3000億円)規模のバッテリー工場を建設している。
地政学的問題は国外市場拡大への大きなリスクだ。米インフレ抑制法は、EVの補助金受給条件として、バッテリー材料の一部を米国または自由貿易相手国産とすることを義務付けている。一方、欧州連合(EU)は中国からの輸入EVの補助金に関する調査を開始したほか、クリーン技術の域内生産率を30年までに40%に引き上げる目標を掲げる。
だが中国のバッテリー業界はすでに規制回避に動いている。ゴールドマンによると、中国企業が発表したバッテリーや素材分野への国外投資額は2000億元(約4兆1300億円)を上回る。このうち80%以上は欧州向けだ。
中でもハンガリーに投資が集まっている。CATLは同国に77億ドル相当を投じ、大規模なバッテリー工場を建設する計画だ。ハンガリーはEU諸国の中では親中的で、人件費も比較的安い。
EUと米国の両方と自由貿易協定を結んでいるモロッコも恩恵を受けそうだ。国軒高科は、バッテリー工場設立を検討することで同国政府と合意。実現すれば、投資額は64億ドルに上る可能性がある。また、中国鉱業大手の華友は韓国LG化学と共同で、同国にリチウム精製やカソード材料製造用の工場を建設する。
中国が国外で繰り広げるバッテリー競争に障害がないわけではないが、大手はそれを回避する態勢を整えている。米国と、それ以上に欧州にとって、これは一長一短だ。長期的には、バッテリーに関する中国のノウハウが欧州のサプライヤーに浸透し、テスラやアップルが中国のEVやスマートフォン分野の技術向上に貢献したように、現地のエコシステム構築に役立つかもしれない。
だが短期的には、米国や欧州でCATLの代わりになる企業が台頭しにくいかもしれない。