敬老乗車証の利用者負担引き上げ 仙台市、将来の事業費増に危機感 他政令市でも見直す動き

仙台市が70歳以上を対象とした敬老乗車証制度の自己負担割合の引き上げ方針を固めた背景には、今後も増加が見込まれる関連事業費への危機感がある。20年後に第2次ベビーブーム(1971~74年)に生まれた世代が70歳に差しかかり、制度が立ち行かなくなる恐れがあるためだ。同様の制度を導入する他の政令市でも、財政状況の悪化を理由に見直す動きが見られる。(報道部・竹端集)

新潟市、名古屋市は利用上限を設定

 仙台市の2021年度決算で高齢保健福祉費は246億1400万円。うち市独自の施策に活用した裁量的経費は27億6700万円で、69・8%は敬老乗車証制度の経費が占める。現行の制度となった12年度から6・2ポイント伸びた。

 市の一般財源支出額の予測はグラフの通り。利用者の負担金を含む敬老乗車証の総事業費は、26年度に30億4500万円に達する見通し。それ以降も上昇カーブを描くとみられ「他の施策に影響が出かねない」(市関係者)という。

 負担割合を検討する市社会福祉審議会の専門分科会も「見直しは致し方ない」との前提で議論を進めた。市は20~30%の引き上げが妥当とする分科会の意見を尊重。24~33年度の平均支出額の予測が19年度(26億6300万円)を超えないラインを見極め「25%」と設定したとみられる。

 市によると、今年6月時点で、20政令市のうち15市が高齢者の健康増進を図る公共交通利用の負担軽減策を採用する。年々膨らむ事業費が財政を圧迫する状況に多くの市が頭を抱える。

 新潟市は21年度、65歳以上対象の「シニア半わり」に利用上限額(月7000円)を設けた。市都市交通政策課の担当者は「『半わり』(半額)として認知されてきた割引部分以外を変更することで落ち着いた」と振り返る。

 名古屋市は21年度、65歳以上の市民が負担金を支払って利用する「敬老パス」に、利用上限回数(年730回)を追加した。市高齢福祉課の担当者は「年間2000回使う人もいれば、数回の人もいた。財源確保に加え、公平性の観点からも検討が必要だった」と説明する。

「現状維持を」「仕方ない」…賛否さまざま

 仙台市に暮らす70歳以上の2人に1人が利用する敬老乗車証制度は、買い物や趣味の活動で外出する際に欠かせない存在になっている。自己負担の引き上げ方針を固めた市に対し、当事者の受け止めはさまざま。負担割合を巡る認識は年代によって異なり、子育て世代も関心を寄せている。

 「現状を維持してほしい。利用者負担に手を出すのは最終手段だ」。泉区南東部に暮らす無職松坂尚さん(86)は、利用上限額の引き下げの方が先だと反発する。

 視界がぼやけだした2年前、運転免許証を自主返納した。「家の周りは坂道だらけ。遠出にこんな苦労するとは思わなかった」。今は市バスだけが頼りだ。

 物価高の影響で生活は厳しさを増す。「負担が増えれば、ダブルパンチどころではない。とどめのパンチだ」と語気を強める。

 一方、理解を示すのは青葉区郊外に住む主婦郷古みち子さん(71)。「財政的に厳しいなら仕方ない」と言う。週3、4回は市バスや地下鉄でボランティア活動に出かけ、JR仙台駅近くで友人と会食することもある。

 「乗車証のおかげで、60代の頃と変わらない頻度で外出ができている」と感謝しつつ「若い世代に負担をかけたくないとの思いもある」と打ち明ける。

 市が昨年実施した敬老乗車証に関する調査で、60歳以上の7割が「現在の負担などが適切」と答え、「今より重くても良い」との回答は1割にとどまった。

 20~59歳は「適切」との回答が4割で、「重くても良い」は3割。世代間で認識の違いが鮮明になった。

 青葉区のパート従業員伊藤知子さん(42)は夫と小学生の3兄弟との5人暮らし。移動の時にかさむ交通費は悩みの種だ。「長男は来年から中学生で大人料金になる。高齢者ばかりの優遇ではなく、全世代のことを考えた負担にしてほしい」と注文を付けた。

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