火力発電〝脱炭素化〟に向けた挑戦 東北電が水素混焼試験

火力発電所の脱炭素化に挑戦する東北電力は、新潟火力発電所(新潟市東区)で、クリーンエネルギーとして注目される水素を燃料の液化天然ガス(LNG)に混ぜて燃やし、通常通り発電できるかどうかの試験を実施している。商業運転中のコンバインドサイクル発電設備で水素混焼試験を行うのは国内で初めてだ。試験の現場を見てきた。

水素混焼試験が行われているのは、新潟火力5号系列1号機(出力5・45万キロワット)と呼ばれるコンバインドサイクル発電設備。LNGを燃やしガスタービンを回転させて発電し、その際の排熱で蒸気をつくり、蒸気タービンでも発電する高効率な設備だ。

燃料のLNGを供給する設備に、新設した水素供給設備を接続。一定量の水素をLNGに混ぜて燃やし、発電に影響が出ないか試験を行っている。

混ぜる水素量は体積比で全体の約1%。これによりLNGの使用量を0・3%削減でき、発電時の二酸化炭素(CO2)排出量も0・3%減るという。

東北電の清野幸典・東新潟火力発電所長兼新潟発電所長は「当社が水素を燃料に使うのは初めて。まずは水素混焼に関する知見を得るため、少ない混焼率から始めた」と説明。今後は、試験結果や水素の調達可能量などを勘案し、水素の割合を増やすかどうかを検討するという。

■試験現場

混焼試験は10月からスタート。2回目の試験が行われた同月19日、現場を見てきた。

水素混焼試験を行っている新潟火力発電所5号系列1号機=新潟市東区(本田賢一撮影)
水素混焼試験を行っている新潟火力発電所5号系列1号機=新潟市東区(本田賢一撮影)

発電所の外に設置された水素供給設備。10人ほどの職員が、水素を流す配管に窒素を充満させるなど準備を進めていた。「配管内に空気が入った状態で水素を流すと、爆発性が高まるおそれがある。そのため窒素で満たしている」(新潟火力発電所幹部)という。

発電所の中央制御室からの指示で、水素ガスを流す配管のバルブが開けられ、試験は始まった。

中央制御室の職員が端末を見ながら、「14時3分、混焼開始」、「ガスタービンの燃焼状態、異常なし」など、現場や周囲に状況を知らせていた。

試験では、混焼によって発電出力に影響が出ないかや、ガスタービン、LNG流量、燃焼温度での異常の有無などを確認。いずれも問題は見つからず、約1%の水素を混焼できることが分かった。

試験は令和7年3月まで行う予定で、水素の性質や混焼に関する知見を深めていく。清野所長は「将来的には、実証で得られた知見をもとに、大型のコンバインドサイクル発電設備での混焼のほか、水素や、水素と結合したアンモニアだけを燃焼させる発電方式の導入に道を開くことができれば」と話す。

■水素調達が課題

最大の課題は、発電用の大量の水素をどのようにして調達するかだ。国は民間企業とともに、海外で水素を製造してタンカーで日本に運ぶなど、水素サプライチェーン(供給網)の構築を目指しているが、実現には時間を要しそうだ。

清野氏は「海外調達と自前での製造を組み合わせるなど、自社の水素サプライチェーン構築について検討を進める」と語る。

また、水素を貯蔵するにはマイナス253度まで冷却する必要がある。貯蔵にどのような低温技術を使うかも課題だ。

清野氏は「やるべきことは多くあるが、乗り越えることができるハードルだと思っている」と話す。

水素混焼発電をめぐっては、沖縄電力が今年度末から来年度上期までの実験開始を見込むほか、関西電力も実験を計画している。(本田賢一)

■一定量の利用不可欠

化石燃料(石炭、石油、天然ガス)を燃やした際の燃焼ガスや蒸気の力で発電タービンを回し、発電するのが火力発電所だ。天候、時間帯に関わらず発電できるなど供給安定性に優れる一方、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)排出が多く、脱炭素の流れから使用に逆風が吹いている。

最近は、ロシアのウクライナ侵攻などで燃料価格が高騰し、関心が薄れているものの、天候により発電量が変動する再生可能エネルギーを支える上で、一定量の利用は不可欠。電力業界では、原子力回帰もさることながら火力発電の高効率化を着々と進めている。

資源エネルギー庁が昨年9月に発表した大手電力の火力発電所一覧によると、国内で大手電力の火力発電機は約200機ある。なかでも東北電力は、八戸(青森県八戸市)、秋田(秋田市)、新仙台(仙台市)、東新潟(新潟県聖籠町)、上越(新潟県上越市)、能代(秋田県能代市)、仙台(宮城県七ケ浜町)、原町(福島県南相馬市)、新潟(新潟市)の9カ所に火力発電所を持つなど火力依存度が高い。いずれも地域経済を支える重要な発電所となっており、上越火力発電所1号機が世界最高の発電効率63・62%を達成するなど効率化に向けた技術開発を続けている。同機は、新潟県内や東北地方を中心に約80万世帯分の電力を供給している。(飯田耕司)

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