ヒグマの出没が相次ぐ北海道で、狩猟免許試験の事前申請の抽選に落ちたものの追加で受験できるようになったと、X(旧ツイッター)上で投稿があり、注目を集めている。
抽選になったのは、若者などの希望者が以前より多かったためと、北海道の野生動物対策課が取材に説明した。なぜハンターを目指す人が増えたのか、関係者に取材した。
ハンター目指す若者が増えた?(写真はイメージ)
「人的被害、農業被害が大きいため、ハンターを増やしたい」
北海道や東北を中心に、クマの出没が相次ぎ、地元の猟友会などが駆除に追われている。エサとなるブナの実などの凶作が原因だともされた。
その一方、クマが可哀そうとのクレームが多く、ハンターらは苦慮しているとも報じられている。
そんな中で、北海道在住という若い女性「日報」さん(@nippou_)は、クマなどから自分の畑を守りたいと、狩猟免許の取得を目指した。しかし、2023年10月26日のX上の投稿で、試験の事前申請で抽選に落ちてしまったと嘆いた。
第3希望まで外れ、来年頑張るとしていたが、11月12日になって、抽選に落ちた受験希望者全員が受験できると通知が来たとX上で報告した。日報さんは、「頑張りましょう受験者の皆様!!」と意気込んでいる。
この投稿は、5万5000件以上の「いいね」が押されており、ハンターの不足や高齢化が話題になっているだけに、大きな反響を呼んだ。
狩猟免許試験を担当する道の野生動物対策課は13日、J-CASTニュースの取材に対し、猟銃2種類と罠、網の4つの試験があり、23年度後期の12月と24年2月の試験は、今回初めて事前申請を実施し、全体の定員1212人をオーバーしたため、一部で抽選を行ったと説明した。
うち札幌・旭川両市の会場を第1志望とした137人が抽選に漏れてしまったが、全員を対象に3月に新たな試験を実施することを決めた。
その理由としては、クマも含めて鳥獣による人的被害、農業被害が大きいため、保護管理の担い手となるハンターを増やしたいからだと説明した。
「身近な被害を食い止めたい気持ちからの志望増加では」
北海道の狩猟免許試験では、20年度から新型コロナウイルス対策として3年間、収容人数を抑える定員制にしていた。23年度は、コロナ対策は止めたが、定員がなかった時代は、技能試験が順番で夜遅くなるケースに苦情が相次いだことから、定員制は続けて試験の回数などを増やした。
ところが、コロナ前の19年度の受験者757人より倍近い希望者が殺到して、会場によっては抽選となってしまったという。
「40代以下の若い人たちの受験が増え始めています。受験者には、女性の名前もけっこういますね。コロナ禍での定員制で受けられなかった人が多かった可能性もありますが、増えた理由については、こちらでは分かりません」
前出の日報さんは、若者らの受験希望が増えたことについて、こんな見方を示した。
「マンガやジビエ人気の影響ではなく、身近な被害を自分たちの手で食い止めたい気持ちからの志望増加ではないかと思います。私も、猟友会の方の高齢化や狩猟人口の減少などのニュースを見て、暮らす地域の野生生物対策をいつまでも人任せにしていてはいけないなという気持ちで受験を申し込みました」
とはいえ、免許を取って猟銃などを所持しても、クマを捕獲できるまでにはハードルも多い。
「今増えた若い受験者が、将来的に実効性のある狩猟者になるにあたって、昔に定められた制度の見直しをお願いしたいです。例えば、わな猟の際、罠に自分の住所と氏名を添える決まりなど。現代においては個人情報を人の目に触れる屋外に掲示しっぱなしというのは、違和感があります。特に若い女性ハンターは個人情報掲示に抵抗があるのではないでしょうか」
地元の猟友会「ハンターになるには、覚悟が必要」
現場のハンターは、若者の狩猟免許希望者が増えたことをどのように見ているのだろうか。
北海道猟友会旭川支部長の高梨秀二さん(73)は11月13日、取材に対し、次のような見解を述べた。
「クマやシカが徘徊しているとマスコミが報道していることで、関心が高くなっているのではないでしょうか。マンガなどの影響だけではなく、人がケガをしたり、農作物が荒らされたりして、ハンターの社会的なニーズが上がっているのだと思います。人に頼っても守ることができないと、自衛意識が出てきています」
旭川支部で行っている試験の予備講習には、50人の定員に対し、11月26日の講習だけで30人が希望しており、24年1月28日に臨時の講習を行うことを決めた。希望者30人は、若い人と年配者が半々ぐらいだという。
「ただ、ハンターになるには、覚悟が必要です。シカから始まって、クマを撃てるまでには10年はかかります。かなりの度胸や強い意志も要ります。ある程度の経験を積んだベテランでないと難しいですね。クレームは、いちいち聞いていれば、何もできなくなってしまいます。お金目当てでは、5万円や10万円でも合わないでしょう。報酬は数千円ほどですので、皆を守ろうと道義的責任を持ってボランティアでやっていますよ」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)