「実名にすれば証言を重んじてくれるのでしょうか」
【写真】エジプト留学中の小池百合子都知事と同居人・北原百代さんのツーショット
2020年、小池百合子東京都知事の半生を描いた『女帝 小池百合子』を著したノンフィクション作家の石井妙子氏は、取材相手のこの一言で決意した。
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華麗な学歴の決定的な嘘を暴く
“芦屋の令嬢”として生を享けた少女が、やがてマスコミの寵児となり、初の女性総理候補とまで呼ばれるようになる――小池氏のきらびやかな半生を描き切った『女帝』は21万部を超えるベストセラー。11月8日、その文庫版が発売されたが、そこでは決定的な改稿がなされたのだ。
『女帝 小池百合子』(文春文庫)
同書の白眉は、小池氏が選挙の度に指摘されてきた華麗な学歴の決定的な嘘を暴いたところにある。
〈彼女は実際にはカイロ大学を卒業していません〉
こう記された石井氏宛ての1通の手紙から同書のハイライトは生まれた。便箋の末尾には〈北原百代〉の署名がある。彼女こそ、石井氏が探し求めていたエジプト留学時の小池氏の全てを知る同居人だった。
小池氏にとって“カイロ大卒”は政界進出の代えがたい橋頭堡に
石井氏が語る。
「北原さんは小池氏の『学歴詐称』を知る数少ない人物のひとり。小池氏がテレビタレントの時代はまだよかった。けれど、政治家となって権力の階段を上るにつれ、自らが知る小池氏の学歴詐称の真実を公表するべきではないかと悩むようになりました」
小池氏にとって、“カイロ大卒”は欠くべからざるエピソード。この物珍しい経歴こそが、メディアの注目を集めた所以であり、政界進出の代えがたい橋頭堡となったからだ。
身に危険が及ぶのを危惧し、仮名で経歴詐称を告発
「小池氏が出世するにつれ、彼女の“弱み”を知る北原さんは怯えるようになります。周囲からは『権力者を批判してもいいことはない』と言われたこともあったそうです」(同前)
真実を知る者の責務として、大手マスメディア宛てに小池氏の経歴詐称を告発する手紙を送ったこともあった。だが、その義挙は徒労に終わる。
「メディアへの失望の中で、雑誌に小池氏のことを書いていた私にお手紙をくださったのですが、彼女は実名での告発は、身に危険が及ぶのではないかと危惧していた。北原さんのお気持ちを考慮し、単行本では仮名にしました」(同前)
性加害問題の実名証言に感銘を受け、実名での告発に変更
だが、出版は一部で反響を呼んだものの、大手マスコミは北原さんの告発を黙殺。小池氏は再び都知事の椅子に座りおおせた。
「『女帝』が文庫になるのに合わせ、本人の意思を尊重し、仮名を本名に改めました。北原さんはジャニー喜多川氏の性加害の被害者が実名で告発したことに感銘を受けたそうです。そのことによって、これまでないものとされてきた芸能界の権力者による性加害が明るみに出た。実名証言が世間とマスメディアを動かすと実感なさったのです。北原さんの勇気に敬意を表します」(同前)
単行本の仮名〈早川玲子〉から実名〈北原百代〉に研ぎ澄まされた告発は、来夏の都知事選にどんな影響を及ぼすのか。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年11月16日号)