年々増える「古民家カフェ」が失敗しやすい2つの訳 歴史の遺産にあぐらをかいてはいけない

その地域の持つ歴史的な魅力を活用して観光振興に取り組もうと考えたとき、空き家となっている古民家を改装してカフェとして営業したり、そのような飲食店に補助金を出したりする地域は多くあります。しかし、開業数が増えていく中で、古民家カフェによる観光振興の「失敗例」も増えてきています。その理由を解説します。

※本稿は久保健治氏の新著『ヒストリカル・ブランディング 脱コモディティ化の地域ブランド論』から一部抜粋・再構成したものです。

「古民家」の活用を積極展開したが…

Cさんの地域には、代々受け継がれてきた家が多い。しかし、時代の流れで子孫の多くは他地域に住んでおり、それらの一部は今まで空き家になってしまっていた。地域を盛り上げていかなければという声が出てくるなか、古民家を活用する事例があることを知った。

Cさんの地域には古民家を活用したカフェなどは存在していなかったが、調査してみると、古民家カフェはここ数年で開業数が伸び続けており、注目されているようだ。

そこで、カフェへのリノベーションを検討した。幸い、補助金なども出ることになり、費用面でも条件をクリアし、開業に至った。

まちおこしの一環ということもあり、運営は地元のまちおこしNPOに委託する形でスタートした。料理はレストランで勤務したことがあるメンバーがいたので頼むことにした。だが、1名だけではなかなか多くの注文に対応することもできないので、人を増やすなど、対策をした。

オープン当初は地元紙なども取り上げてくれた関係で、お客様にも来てもらえたのだが、しばらくすると閑散とするようになってきた。

調べてみると、隣町で新しい古民家カフェができており、そちらのほうは盛況だという。

お客を取りもどすために、より美味しいものをより安く提供すべく、働く人数を減らし人件費を削減して対応するようにした。安さでは負けないようになったのだが、なかなかお客が戻らない状況が続いている。

いまは何とか補助金などで補塡しているが、このままでは経営が成り立たない状況になってしまいそうだ。

オープン当初に客が来たのはすごいこと

この事例は飲食店関係者であれば、絵に描いたような失敗事例だと思うだろうが、現実に存在する事例である。このケースは、補助金依存発想から生まれてしまったことも大きな課題なのだが、そういった指摘は他の書籍などに譲ることにして、ここでは古民家活用に関して考えてみたい。

Cさんの古民家カフェは、オープン当初には地元紙の取材も入り、お客にも来てもらえたとある。よくよく考えると、これはすごいことだ。普通、カフェを創業しただけでは地元紙が取材に来てくれて広報してくれることなどはない。どちらかといえば、こちらからお金を払って初めて取材してくれるほうが普通だろう。

これが実現できているのは、まちおこしのために開設されたのみならず、地域の特徴ある古民家を活用したことが大きい。要す

ここでのポイントは、この古民家が建築物としては集客力があるものではなかったが、カフェという形態になったことで集客力を持ったことである。理論的に分析するならば、歴史がもつ差別化の力を活用した事例といえる。つまり、カフェの差別化方法として古民家を活用したわけだ。

それならば成功事例となりそうだが、話の続きを見るとそうはなっていないことがわかる。失敗の大きな原因として記載されているのは、だんだんと客足が遠のいていったことと、隣町に新しい古民家カフェができたという話だ。

希少価値を失って「コモディティ化」する

ここで重要なのは、カフェという形態である。相当な文化財である場合を除き、古民家カフェに訪れる人は必ずしも歴史が目的ではない。古民家という歴史的価値は、数ある構成要素の1つにすぎない。

このように考えると、先の古民家カフェの経営が上手くいかなくなった理由の一番目がわかる。古民家は差別化要因として機能していたのだが、カフェ自体の魅力がなかった。

そして、第二の理由は勘の良い方なら気づいただろう。そう、コモディティ化である。

先の記述を見ると、古民家カフェは年々増加しているとされている。結果として隣町も同じようなことを考えて、古民家カフェをオープンさせている。周囲がほとんどやっていなかった状況で実施した場合には、VRIO理論でいう希少性を持つので差別化として大きく機能するが、周囲にどんどん開業してしまうと、古民家という希少性を失ったというわけだ。

実際に、現在では古民家カフェの数は増え続けた結果、差別化が難しい状況になってきている。これは古民家に限った話ではない。単に文化財を活用しただけでは、周囲に数が少ないときはよくても、同じような事例が出てくればコモディティ化していく。

改めてまとめてみよう。Cさんの古民家カフェは2つの理由で当初の競争力を失い、失敗してしまった。

1点目は古民家の活用だけを考えてしまったことでカフェそのものとしての魅力に乏しく、歴史文化の力で引き寄せたお客に満足な経験価値を提供できなかったこと。

2点目は、周囲の古民家カフェ開業によって希少性を失ってしまい、その先にあるコモディティ化に対応できていないことである。

さまざまな方法があり、これをやれば成功するというものはないだろう。だが、古民家や文化財といったヒストリカル・ブランディングによるものであれば、カフェとしての魅力を高める以外にも、一般店舗ではできない脱コモディティができる。それは、建築物の魅力を活用した経験価値の創造だ。

そのためには、古民家の歴史を徹底的に調査し、この地域においてどんな役割や価値を持ったものなのかを明らかにしていく歴史調査作業が必要だろう。

過去の遺産を基に魅力を磨き続けることが重要

調査のなかで見つかった、その古民家ならではのストーリーを活用しながら、商品開発やサービスを設計するのだ。

そうすれば、観光目的でやってきた人ならば、そのカフェに立ち寄ること自体が地域の魅力を体感できることとなり、観光地とカフェ両方の魅力を増すことができる。

歯に衣着せぬ言い方をするならば、歴史にあぐらをかいてはいけない、ということにつきる。歴史文化がない地域のほうが依存できないために、どのようにすれば顧客経験を作れるか必死になって考えており、結果として歴史文化が残っていた地域よりも魅力的になっていくことも多い。

過去の遺産を食いつぶしていくのではなく、過去の遺産を基にしてさらに魅力を磨き続ける姿勢が重要だ。そのためには、ハードとソフトの両面で総合的な経験価値を創出していく必要がある。

著者:久保 健治

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