「魚が獲れない日本」漁師の減少が原因ではない理由 豊漁のノルウェーと日本の決定的な差

サバ、サンマ、スルメイカ、サケ、イカナゴなど、実にさまざまな魚種の水揚げ量の減少が続いています。その結果、以前よりも小さくて細くなってしまったサンマのように、供給量減少のため高い値段でスーパーなどの店頭に並んでいます。水揚げ量の減少で漁業者や水産加工業者をはじめとする関係者もとても困っています。 【画像を全部見る】日本と同じく漁師が減ったノルウェーは魚の生産量が増えている!  一方、研究者の方々からの「魚は減っていない?」というような報道に接することがあります。本当に魚が減っていないのであれば、統計上の漁獲量が昔のように戻ることもあるはずですが、減り続ける例ばかりです。減っているのに減っていないとして獲り続ければ、魚はいなくなってしまいます。いったいどうなっているのでしょうか? 

■大きくなる前の魚を獲れば魚は増えない  小さな魚をたくさん獲ってしまうと、成長して大きくなる機会が奪われて資源量が減ります。これを「成長乱獲」と呼びます。写真は高級魚のアカムツです。別名のノドクロのほうが有名かもしれません。  この魚は40センチ前後にまで成長します。成熟するのはメスでは3歳魚の20センチ前後なのですが、大半が20センチにも満たないうちに漁獲されています。親に成長する魚が減れば、産卵量が減ります。産卵する親(産卵親魚)の資源量を考えながら漁をするのは資源管理の常識です。

 アカムツはほんの一例ですが、仮に漁期は決まっていても、大半の魚種では肝心の漁獲量が決まっていません。このため、漁業者はサイズにかかわらずできるだけ獲ろうとします。これが次世代のための産卵親魚を残しながら、漁獲量の「数量管理」を徹底している北欧・北米・オセアニアなどの国々との大きな違いです。  これは「小さな魚まで獲ってしまう漁師がいるから悪い」のではなく、漁業者が「小さくて価値の低い魚は獲らないほうが得」になる仕組みになっていないからです。

 漁獲できる数量より、漁獲が許されている数量が少なければ、漁業者自ら価値が高い大きな魚だけを狙うようになります。これが仕組みとして当たり前に北欧・北欧・オセアニアなどのように「できている国々」と、日本のようにまだ「できていない国」では、年を経るごとに圧倒的な資源量の違いとなっています。  そして後者のわが国では「昔はたくさんいたのに、魚がいない」という負の遺産が積み上がってしまうのです。 ■魚が減ったのは漁業者が減ったから? 

 「魚が減ったのは漁業者が減ったから」と言われることもありますが本当でしょうか。これが本当ではないことは、海外と比較するとよくわかります。水産物の輸出金額で世界第2位を誇り、2020年に施行された漁業法改正の際に参考にされたノルウェーと比較してみましょう。水産業を成長産業にできているノルウェーでも、日本同様に漁業者は減り続けています。  上のグラフは、日本とノルウェーの漁業者数の推移です。日本では漁業者が減って後継者がいないことが問題になっていることは、学校で習うので広く知られています。両国とも漁業者は減少傾向です。もし漁業者の減少が原因であれば、両国共に生産量(天然と養殖)の合計は、減ることになるはずですが、データでさらに比較してみましょう。

 日本と同様に漁業者が減り続けるノルウェー。しかしながら、ノルウェーの生産量は減るどころか横ばいか徐々に増えています。一方で生産量の減少が止まらない日本は、2021年にノルウェーに追い抜かれて世界のベスト10から転落してしまいました。1970年代の前半から1980年代の後半にかけて「世界最大」の生産量を誇り、日本の食卓を助けてきた姿はすでにありません。  また見ていただくとわかりますが、ノルウェーに抜かれたというより、日本の数量が落ち続けているだけであることもわかります。漁業者が減ったことで生産量が減ったのではないことは、この例だけでもわかります。

 そもそも、魚が減っていなければ、残った漁業者の漁獲量が増えてバランスが取れるはずです。一方で魚が減っていれば、漁業者の数が減っても漁船ごとの漁獲量は増えません。それどころか、魚が獲れないので、魚を小さな魚にまで手を出してしまい、ますます魚が減っていきます。残念ながら国際的な視点で見ると、この最悪のパターンが、全国の漁業で起きているのです。 ■漁船が減っても漁獲量は減らないノルウェー  また漁船数が減っても漁獲量が減るわけではありません。次のグラフはノルウェーの漁船数の推移です。1980年頃には2万5000隻あった漁船は、現在ではその5分の1の5000隻程度しかありません。しかしノルウェーでは、漁業者も漁船数も減少していますが、資源量が減っていないので漁獲量は減っていません。

 もちろん年により環境による変化はあります。しかし数量管理が機能していることで、資源のサステビリティに大きく貢献しています。また、5年後、10年後そしてその先も、魚を獲り続けられることはわかっています。ですから漁船や水産加工場への設備投資も盛んで、次々に新造船や水産加工場の設備増強が続いていくのです。  魚が獲れないために明るい将来像が描けず、漁船や水産加工場に補助金なしでの投資が難しい日本と、ノルウェーとでは非常に対照的です。もしも魚が減っていないのであれば、国際的にも魚価は上がっていますので、投資が進むはずです。

 一方で自分ごととして捉えれば、今の資源管理状態での国内水産業への投資は、埋蔵金(いると言われている水産資源)を当てにするようなもので、リスクが高すぎということになるでしょう。 ■多くの漁業、水産関係者はすでにいないことに気づいている  魚が減っているのに減っていないといわれる。そこには漁業者にとって一見メリットのようになる「甘いささやき」が聞えてしまいます。それは、魚が減っていても、これまで通りに漁をしてもよいというささやきです。

 後はヨーイドン! で腕次第になります。この方法は、漁業を成長産業としている国々でも数十年前まではありました。オリンピック方式(魚の早獲り競争)とか「Race to fish(魚を獲る競争)」などと呼ばれます。「親の仇と魚は見たら獲れ」の状態で、魚の大きさや価値、そして持続性もなく獲ってしまう状態です。  日本では、漁業を成長産業としている国々ではまず見かけない「自主管理」という形態で漁業が営まれているケース多々あり、それが自画自賛されています。

 魚が減っていない前提で、科学的根拠に基づく数量管理がされず、自主管理を元に漁業が行われれば、漁業者にとってこれまで通りに漁ができることがメリットのように見えるかもしれません。  しかしながら、ほぼ例外なく魚が減ってしまいます。そして魚が小型化して、漁業の存続が難しい状態に陥ってしまいます。すでに漁業や水産関係者で、筆者の日本と世界を比較した科学的根拠に基づくサイトを通じて、問題の本質に気づかれた方は数多くいるはずです。

 次のグラフは、ノルウェーにおける上がサバなどの浮魚類の漁獲量で、真ん中が同資源量、下が同水揚げ金額の推移です。1970年~1980年代前後の話ですが、ノルウェーでは、ニシンやマダラなどで乱獲により資源を大きく減少させてしまった苦い経験があります。その後、資源管理を強化した結果、水産業は著しく成長して現在に至ります。  ノルウェーと日本では大きな違いがあり、その差は広がってしまいました。その違いとは正直に乱獲を認めて反省し、資源管理をしているかどうかなのです。実際に魚が減っているのに減っていないという前提だと、「誤った処方箋で薬を飲み続ける」ことになってしまいます。もちろん効果があるはずはなく、悪化の一途となります。

■世界の成功事例が浸透していない現状 現在、国は2020年に改正した漁業法に基づき、TAC魚種を増やして数量管理に舵を切ろうとしています。本来はそれを早く推し進めねばなりません。  しかしながら、世界の成功事例が浸透しておらず、資源が明らかに減っているのに「減っていない」と誤った情報を提供されてしまうことで、漁業者は今まで通りでいいのだと、「反対」という「自分で自分の首を絞めてしまう行動」を起こしてしまいます。そして消費者には供給不足や価値が低い魚が高い価格で提供されることになってきています。もちろん誰にとってもよくありません。

 「魚は減っていない」という誤った前提は、対策の遅れを招き資源を次々に崩壊させています。これを科学的根拠に基づいて払拭し、一刻も早く、成功している結果に基づいた数量管理による資源管理を実行していくことが必要ではないでしょうか。

片野 歩 :水産会社社員

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