MVPに輝いた大谷翔平選手が出演したインタビュー番組で、大谷選手の横にいたワンちゃんが大きな話題になった。「一般社団法人 ジャパンケンネルクラブ」(以下JKC)によると、大谷選手の愛犬はオランダ原産の猟犬種「コーイケル・ホンディエ」。JKCの犬種別犬籍登録頭数は155頭と、日本ではかなり珍しい犬種だ。
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そんななか、「コイケル」の飼い主、デ(@NamidaAfredel)さんがX(旧Twitter)に投稿したポストに注目が集まった。
絶滅に追い込まれた過去がある「コイケル」
「うちのブリーダーさんとこにコイケル予約が殺到してるらしい。やっぱりそういう感じか…。昨日の今日で電話かけてくるような人は、犬とこれからの人生を大切に過ごしたいわけじゃないから、全員犬を飼う資格なしってことでいいと思うな」
「コイケルは一回絶滅まで追い込まれた犬種なので、慎重に血の交わりなく繁殖しないと、深刻な遺伝病が出やすい。今日本にある数軒の有名犬舎さんは、全てのパピーに遺伝病がないかの検査をしておられるので…。あと、性格も猟犬ですし気難しいですし」
「コイケル飼いたち、一転して冷静になり、『これを機にシリアスブリーダー以外が繁殖に乗り出しペットショップで気軽に売り出すのでは? コイケルは決して初心者向けではなく、生活の大半を犬に費やせる家でないと厳しい、(シベリアン)ハスキーやボーダー(コリー)のようにレスキューが必要な犬種になるのでは』とお葬式モードに…」
「大谷選手と同じ犬」を欲しがる人たち
デ(@NamidaAfredel)さんに伺ったところ、自身の愛犬、コイケルのニーチェくんの出身犬舎に、大谷選手のニュースが報道された直後からマスコミの取材が殺到。さらにその翌日から、子犬の予約や問い合わせの電話が鳴り出したと言う。
「犬舎さんも驚いて、注意喚起のメッセージをインスタや公式サイトに掲載されていました。『コイケルの魅力、犬種の特徴を理解した上でお迎えしたいという方にのみお譲りしたい』『大谷さんが飼っているからという理由でご希望される方にはお譲りできません』とのことでした。つまりはそういう方からたくさん問い合わせがあるのだと思います…」(デさん)
現在日本国内には「コイケル」を扱うブリーダー自体が極めて少なく、また、遺伝病の懸念がある犬種のため繁殖が難しく、子犬が欲しいと思っても、少なくとも「2年」は待つのが通常なのだと言う。
「コイケル」は深刻な遺伝病が出やすい犬種
「今回のことは本当に驚きました。今まで道行く方に犬種を聞かれても『なんて?』と、ほとんどの方が知らなかったのに、一夜にして最も有名な犬種に(笑)。大谷さんがコイケルを選んでくれたことはとても嬉しいですが、影響力があまりにも大きく、今は不安の方が大きくなってしまいました…。コイケル飼いの仲間の中には、愛犬が盗難されることを警戒されている方も少なくありません。
コイケルは一度絶滅まで追い込まれた犬種なんです。そのため、血の交わりがないよう慎重に繁殖しないと、深刻な遺伝病が出やすい犬種です。本国オランダではしっかりと繁殖管理がされている犬種で、今日本にある数軒の有名犬舎さんは、全てのパピーに遺伝病の検査をされています。繁殖自体もとても難しいそうで、コイケルを愛するブリーダーさんたちが大切に、丁寧に頭数を増やし、種の保存をされてきた犬種です。安易な繁殖で遺伝病を持った子が生まれたり、攻撃性の高い子が生まれ飼育放棄されたりすることはあってはならないと思っています」(デさん)
悪質な繁殖業者や大手ペットショップの犠牲になる可能性
ブームになってしまえば、悪質なブリーダーや、自社にパピーミルを持つ大手ペットショップらが無理な繁殖を行い、遺伝病や奇形、問題行動のある犬が増えることが予想される。かつて漫画やドラマの影響で一大ブームになったシベリアン・ハスキーが、ミーハー心で購入した人間によって大量に遺棄された『ハスキーの悲劇』のような事態が再び起きることも十分に考えられるだろう。
賢いというのは、気難しく扱いづらいということ
1歳半になるコーイケル・ホンディエの男の子、ニーチェくんと暮らすデさんは、「コイケルは素晴らしい犬ですが、飼うには覚悟が必要な犬です」と語る。
「コイケルの魅力はその美しく犬らしい外見だと、多くの方が答えるのではないでしょうか。私も初めてコイケルを知った時は、恋に落ちたような衝撃を受けました。表情や感情が豊かで、まるで人間のようなユーモアと愛嬌を持っています。運動神経はボーダーコリーに匹敵するほど抜群で、知能も高く、教えたことはすぐに理解します。愛犬のニーチェはお迎え当日にオスワリ、オテを覚えました。飼い主と一緒に遊ぶことが何よりの生きがいなので、犬と一緒にスポーツをしたり、遠くに出かけたりすることが好きな人には理想の犬種です。トリミングの必要がないのも長所かもしれません。そこまでこまめなグルーミングも必要ないので、お手入れは楽です。
ただ、賢いというのは、気難しさや扱いづらさにも繋がります。本気で向き合わないとすぐに気持ちを見抜かれ、飼い主は信用を失います。また、繊細で警戒心が強く、コイケル飼いの中では『ビビケル』という言葉が使われるほど、ビビりな面があります。社会化やしつけが上手くいかなければ、噛み犬になる可能性もあります。無駄吠えは少ないものの、猟犬なので声は非常に大きいです!運動量が必要なので毎日1~2時間の散歩、週末はドッグランなど、アクティブな遊びを取り入れる必要があります」(デさん)
「コイケル」は愛玩犬ではない
利口で運動能力に優れたコイケルの特徴について、「ボーダコリーと柴犬の両方の特色を持っているような気がします」と、デさん。どちらも大人気の犬種だが、「想像していたのと違う」といった理由で飼育放棄されることが多い犬種でもある。
「我が家のニーチェは、よく食べよく遊び、よく寝る健康優良児です。性格は、飼い主である私への愛が強く、他の人にはあまり懐きません。警戒心も比較的強めで、ビビりで初めてのことに弱く、キャパが狭め。非常に賢く繊細で、飼い主の表情の変化を一瞬で読み取るエスパー。私にはべったりで甘えん坊なので、いつもストーカーの如く後ろからついてきます、愛が重いです…(笑)。
こんな風に、コイケルは優秀な家庭犬になる素質を十分に持っていますが、愛玩犬ではありません。犬を飼うことに慣れていない方は、トレーナーさんの指導が必要かと思います」(デさん)
大谷選手がきっかけとなった突然の「コイケル」フィーバーについて、「犬は根気と時間と愛情を特に必要とする大変な動物。失敗すれば、歩く凶器にもなる」と、デさんは警鐘を鳴らす。
「この世に素晴らしくない犬などいない、と個人的には思っています。犬が大好きな方、今まで犬に愛情をかけてこられた方であれば、コイケルに限らず、きっとどんな犬とも最高のドッグライフを送れるのではないかと思います。反対に、大谷さんが好きだから同じ犬種を飼いたい、という理由でコイケルを飼うことを思いついた方は、コイケルだけでなく、どんな動物も飼わないでいただきたい…というのが本音です。動物を飼うことは長年の責任が伴います。中でも犬は特に、根気と時間と愛情を必要とする大変な動物です。失敗すれば歩く凶器にもなるのです。たとえお迎えした子がどんな性格でも愛する覚悟があるのなら、コイケルだろうとなんだろうと、きっと犬も人も幸せになれるのではないかと思います」(デさん)
命は「ブランド」や「アクセサリー」じゃない
今回の「コイケル」熱に対し、Xにはデさんのポストに共感するコメントも多く寄せられた。
「簡単な飼える犬じゃないのになぁー。アスリート犬だよ」
「安易な気持ちで飼う人達には絶対売らないでほしいです。どうせ世話出来ないで不幸なワンちゃん増えるだけです」
「ブームになって欲しくないです。昔のハスキーブームを思い出します。オオタニさんに発信してほしいくらい。日本ではまだブリーダーが少なくて、繁殖のコントロールが難しい犬種だから、無理に手に入れようとしないでと」
「もし手に入れたとして、ずっと可愛がってくれるのかなぁ」
「大谷翔平が飼ってる犬と同じ犬種なんですよードヤァと言いたい人たちは、犬が好きとかじゃなくて、大谷翔平と同じ犬種の犬がただ飼いたいだけだから、いずれ手放すと思われる」
「命ではなく、『ブランド』『アクセサリー』扱いする人は犬でもなんでも動物飼わないでほしい」
心ない人間の犠牲にならないように
保護犬たちの里親サイトを見れば一目瞭然だが、柴犬やチワワ、トイプードルといった人気犬も、人気にあやかって買ったはいいが、飼育を放棄する人が後を絶たないのが現実だ。
安易な繁殖は行わず、慎重かつ安全に頭数を増やしてきた、利口で活動的な美しい犬「コーイケル・ホンディエ」。最後まで命を責任を持って預かる覚悟のない人、金儲けのために繁殖・販売をする心ない業者の被害に遭わないことを願うばかりだ。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ かな)