「このままでは、日本はアジアに取り残される」
KOFIC(韓国映画振興委員会)のパク・キヨン委員長と、諏訪敦彦監督(action4cinema/日本版CNC設立を求める会の共同代表、東京藝術大学教授)が日本の映画界に対して、警鐘を鳴らした。
日本映画といえば、今年だけでも是枝裕和監督や濱口竜介監督の作品などが世界の映画祭で高い評価を受けている。
一方で今年5月にアジア7カ国が共同宣言を出した映画制作連携協定「AFAN(Asian Film Alliance Network)」に日本は不参加だった。その背景とアジアにおける日本映画界の現状への危惧を、パク委員長と諏訪監督に聞いた。
日本不在で開始したアジアの連携協定
今年5月の『第76回カンヌ国際映画祭』。役所広司の男優賞(『PERFECT DAYS』)、坂元裕二の脚本賞(『怪物』)受賞により、日本映画が世界から注目を集めた。その一方、現地を訪れていた是枝裕和監督、諏訪監督ら日本の映画監督が衝撃を受けたことがあった。
カンヌ国際映画祭の開催期間中、アジアの7カ国がアジアの映画界がグローバルに発展していくための共同制作や共同出資、技術交流、人材育成などにおける連携協定「AFAN」を発表したが、そこに日本は入っていなかった。諏訪監督らは協定自体をその場で知ったという。
参加している国(機関)は、韓国(KOFIC)、台湾(TAICCA)、シンガポール(SFC)、インドネシア(BPI)、フィリピン(FDCP)、マレーシア(FINAS)、モンゴル(MNFC)。それぞれの国の文化または映像・映画に関する公的機関が参画した。
これまでアジア共同映画制作ファンドが設立されたほか、世界的に影響力を強めるグローバルプラットフォームへのアジア映画界としての対応や、グルーバル映画制作のための国際人材育成に関して、具体的な議論が進んでいるという。
すでに2回のシンポジウムが行われ、11月にはマニラで3回目が開催される。
日本へ参加を促すも連絡が途絶える
パク委員長によると、日本が不参加の理由は、7カ国のような国公立の映像機関がなく、窓口となるカウンターパートナーがいないことにより、連携が取れなかったことだ。
事前に日本に参加を求めるため、文化庁やユニジャパン(日本映像コンテンツの海外展開支援を担う公益財団法人。東京国際映画祭を開催)にアプローチしたが、担当部署がわからないままやりとりが途絶えていたとする。
パク委員長は「いまはOTT(ネットを経由した動画配信サービス)の作品が1日にして全世界に拡散します。それに対して映画界は、グローバルに向けた作品の企画、制作が必要であり、同時に若い人たちへのグローバルストーリーテリングの教育が急がれます」とし、そのための施策として「アジアが一体となって国際的な共同制作の枠組みを作っていくことが1つの対策になり、AFANはアジアの映画界がさまざまな協力を通してともに成長していくことを目的にします。アジア映画界の世界への飛躍のために必要な連携です」とアライアンスの意義を説く。
KOFIC(韓国映画振興委員会)のパク・キヨン委員長(左)とaction4cinemaの共同代表を務める諏訪敦彦監督(写真:筆者撮影)
韓国のKOFIC、フランスのCNC(国立映画映像センター)の日本版設立を求めて2022年から活動するaction4cinemaの共同代表であり、釜山国際映画祭の教育プログラム「アジア映画アカデミー」校長を務める諏訪監督は、AFANの日本不参加について「日本が入っていないことが不思議。とても驚きました」と胸中を明かす。
そして、窓口がないために連携ができなかった日本の現状について「国外に対して、窓口が明確になっていることは重要です。外から見ると、どことどうコンタクトを取ればいいかわからない。日本がそういう状況にあることを痛感しました」と声を落とす。
AFAN発足に際して、日本への働きかけを行っていたパク委員長は「日本は名実ともにアジア映画の軸になる国。私を含めて韓国の映画人は日本の古典映画を観て映画を学んできました。アジア映画の発展のために日本の役割は重要。日本にそのための窓口がないことを残念に思っています」と語る。
日本でも民間では、映画監督や俳優のほかインディペンデントのプロデューサーら有志が個々に日本映画の発展のために世界で活動し、メッセージを発信している。
しかし映画を含めた文化育成や助成は、国の機関としても制度としても世界標準と比べると遅れており、国内のマーケットのみで成立してきた過去がある大手映画会社の危機感も乏しい。
諏訪監督は「日本にもフランスのCNCや韓国のKOFICに該当する機関が必要という認識を業界全体が自覚しないといけない。日本映画界の現況と比べて、アジアの映画界は危機感の持ち方がまったく異なっている。国外に出てみれば、危機を克服するためにいろんなことが起きているのがわかる」と苦言を呈する。
世界の動きから取り残される危機感
韓国では映画鑑賞料金(チケット代)の3%を映画発展基金としてKOFICが徴収し、映画界の発展、振興のために業界内に分配する仕組みを2007年からスタートし、2027年までの継続が決まっている。
また、コロナ禍から興行不振が続く今年の興行売り上げは2019年の60%台にとどまると見られ、来年度予算が大きく不足する。そうしたなか、KOFICの働きかけにより、その不足分は、体育振興基金のくじ基金から分配されることが決まった。
国の文化への理解と支援を得ているなか、KOFICはグローバルプラットフォームからの映画館のチケット代3%に代わる映画発展基金への徴収も目指して、政治家や関連業界との法改正を含めた交渉を始めている。
一方で日本においては、諏訪監督によるとaction4cinemaは基金の設立と映画チケット代からの1%の徴収を求めて業界団体と交渉しているが、それさえ実現していない。
コロナ禍を経て、映像作品を取り巻く環境は激変している。グローバルプラットフォームが世界のマーケットを動かそうとしているなか、日本の映画界はこのままでいいのか。それともいま動くのか。日本映画界はいままさに未来が変わる岐路に立っている。
韓国を中心にアジアにおける国を超えた共同制作や人的ネットワーク作りが進んでいるなか、諏訪監督は「アジアは動いているが、日本はそこに乗っかっていない。取り残されていることを強く感じています」と警鐘を鳴らす。