フィギュアスケート国内発祥の地、仙台市に国際規格に対応した通年型のアイススケートリンクが2025年度にも誕生する。市とゼビオホールディングス(HD)が28日、開設に向けた基本協定を結んだ。市出身のプロスケーター羽生結弦さん(28)ら第一線の競技者とファンの思いに官民が応える形となった。(報道部・佐藤理史)
民間資金活用事例の調査で局面変化、アクセスの良さも決め手
「行政と民間が手を携え、スケート人口を増やし、子どもの育成を支援する。夢のあるプロジェクトだ」
ゼビオHDの諸橋友良社長は、市役所であった協定の締結式で力を込めた。
新たな通年型リンクの開設は、羽生さんの悲願だった。
「これまでも多くのフィギュアスケーターが育ってきたが、練習環境はとても厳しい」。冬季五輪で2大会連続王者となった羽生さんは、市内で18年にあった凱旋(がいせん)パレードの際も、市に練習環境の充実を要望していた。
当初、市は大きな財政負担を理由に難色を示した。局面が変わったのは昨年秋、民間資金を活用したスポーツ施設整備の事例を調査してからだった。
プロ野球DeNAの横浜スタジアム(横浜市)、サッカーJ1・G大阪のパナソニックスタジアム吹田(大阪府吹田市)などで活用された「負担付き寄付」が手法として浮上した。
企業側は、行政に施設を寄付することで固定資産税などが一部免除される。経費を指定管理料で補い、安定的な運営も続けられる。行政側にとっても多額の建設費を抑えられ、市民の理解を得やすいとされる。
ゼビオHDの「実績」も追い風となった。同社が20年4月、八戸市に開業した「フラット八戸」は通年でリンクが張られ、可動式の床を使って氷上以外のイベントもできる国内唯一の多目的アリーナだ。22年12月には羽生さんのアイスショー「プロローグ(序章)」の会場にもなった。
市とゼビオHDは今年8月、スポーツ振興を通じたまちの活性化などを目指す連携協定を結び、リンク開設の道を水面下で探った。注目したのは経済効果や利便性だった。
市は羽生さんのアイスショー開催関連だけで、10年間に80億円超の経済波及効果を見込む。ゼビオアリーナ仙台(太白区)の改修は整備費の圧縮に加え、開設時期の前倒しにつながる。市中心部や仙台空港(名取市、岩沼市)へのアクセスの良さも決め手となった。