超高齢社会において深刻化しているのが、迷惑老人の存在だ。今やあらゆる場所に生息。組織を蝕み、現役世代の成長を妨害している。そんなシルバーモンスターと対峙するにはどうすべきか?
◆迷惑老人化には「脳の2つの部分が関係している」
なぜ、迷惑老人化する高齢者が生まれるのか? 「脳の2つの部分が関係している」と話すのは脳科学者の西剛志氏だ。
「1つ目が前頭連合野。感情をコントロールする場所で、ここの機能が低下するとブレーキが利かず、攻撃的になってしまう。2つ目が前帯状皮質。人の気持ちを読むときに活性化する場所で、共感力に大きな影響を及ぼします。ハーバード大学の研究では、48歳をピークにこの共感力が衰えることがわかっており、進行すると人の気持ちを考えられなくなってしまう。その結果、人目を気にせずキレたり、お説教してしまう高齢者になるのだと考えられます」
一般に脳の萎縮は30代から進み始め、認知機能が低下していく傾向にあるという。要は、誰もが迷惑老人化するリスクをはらんでいるのだ。
◆迷惑老人の増加は日本特有の現象?
ただし、迷惑老人の増加は、日本特有の現象である可能性も……。認知科学の専門家である川合伸幸氏が解説する。
「30%弱という世界一の高齢者比率を誇る日本だからこそ、迷惑老人と呼ばれてしまう人が多くなるという側面があります。また、高齢者を取り巻く日本特有の環境の影響もある。終身雇用制・年功序列社会の日本では、年を取るほど役職が上がりますが、定年退職を迎えると途端に孤立しやすくなる。
人間関係の大半を仕事仲間が占めるという人が多いためです。肩書を持って長く生きてきたので、退職してそれを失うと、人の称賛を得られず、承認欲求は満たされず、不満を抱えるようになる。その結果、加齢からくる認知機能の低下と合わさり、迷惑老人化が進みやすくなる」
◆元エリートは迷惑老人化しやすい
経済的に困窮して万引・窃盗に手を染めてしまう迷惑老人も少なくないが、比較的順調に昇進コースを歩んだ元エリートの迷惑老人のほうが多いとか。キレる高齢者に詳しい日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介氏が話す。
「仕事面で一定の成功体験があるから、それに囚われて頑固になってしまい、若者には説教くさくなる。本人としては善意、ないし正義感に駆られてのアドバイスのつもりですが、それが若者からすると迷惑老人になる。その点で、私は執着心と孤独感、自己顕示欲の3つを“迷惑老人因子”と呼んでいます。これらが強くなるほど、迷惑老人レベルが上がる。コレクター癖のある人、友人・家族関係が希薄な人、プライドの高い人は要注意です」
◆迷惑老人にならないための予防策
このように迷惑老人化のメカニズムと特徴を知れば、おのずと予防策は見えてくる。
「日々の通勤ルートを変えるなど、何かしら新しいことをするだけで、新しい考えを受け入れる脳に切り替わります。定期的にやりたいことや目標を書き出すことも重要。人は生きがいを持つほど認知機能が保たれるからです。すでに退職されている人なら、犬を飼うのも効果的。犬との繫がりで孤独感が薄れ、承認欲求は満たされやすくなる」(西氏)
◆予防策として推し活も効果的
川合教授は「推し活を始めるのも手」と話す。「家庭とも会社とも異なる第三の居場所を確保しておくと、定年退職後に孤立するリスクを抑制できる。行きつけのスナックをつくるという形でもいい。加えて、定期的に有酸素運動を行うようにすると、血液の循環を通じて神経細胞が活性化され、脳の老化を遅らせる効果が期待できます。すでに、キレやすくなってしまっている場合は、怒りを覚えた理由を紙に書いてクシャクシャにして捨てるようにすると、感情をコントロールしやすくなります」
◆“捨てる”習慣を身につけて執着心を弱める
実は、“捨てる”という行為は、自身の迷惑老人化予防に効果的だという。
「毎日何か一つだけ捨てる習慣をつければ、自然と執着心は弱まっていくので、迷惑老人因子の一つを解消できる。さらに不要な人間関係を“捨てる”のも大事。アメリカの起業家ジム・ローンが『あなたの周りにいる5人の平均があなただ』と言っているように、人は付き合いの深い人間の影響を受ける。
体罰を受けた子供が成長すると“する側”になる傾向があるように、迷惑老人と付き合いの深い人は迷惑老人化しやすい。その意味でSNSから距離を置くのも有効です。どんなに過激な言動であっても、一定数の支持が得られてしまう傾向にあるSNSは歪んだ考えを持った迷惑老人の育成装置となりがち」(安藤氏)
◆自身の迷惑老人レベルをチェック
こう話す安藤氏らのアドバイスをもとに、自身の迷惑老人レベルを測れるチェックシートを用意した。認知機能の低下を伴うため、通常、迷惑老人と呼ばれる人に自覚は見られないが……これなら一目瞭然。完全体となってしまう前に、対処することをおすすめしたい。
◆3分でわかる迷惑老人チェックシート
□自分はこだわりが強いほうだ
□新しいことを始めるのは面倒くさいし、苦手だ
□コレクションしているものがある
□本当に心を許せる人はそんなに多くない
□SNSを見ている時間が長い
□人に話を聞いてほしいと思うことがある
□会議などではよく発言する人間だ
□自分が知っていることはなるべく人に教えてあげたい
□お節介焼きなほうだ
□間違ったことをしている人を正してあげたいと思う
□最近のテレビはつまらないと思う
□体力はともかく知識・経験では若者にまけていないと思う
□ネット記事に批判コメントを書く
□「今の政権は~」とつい政治批判をしてしまうことがある
□自分は「まだ迷惑老人でない」と思う
◆チェックシートの結果発表
●5個未満……迷惑老人レベル0
迷惑老人因子は少なからずあるが、まだまだ認知機能は正常。プチ迷惑老人入りしないように、些細なことでもいいから新たなことに挑戦すると、認知機能の低下を抑制できる。有酸素運動で脳の血流をよくして、神経細胞も活性化させよう
●5~10個未満……プチ迷惑老人
迷惑老人に片足を突っ込んでいることを自覚し、自身の言動を客観視すること。振り返って、部下や家族にウザがられた言動を思い出したら、それを戒めとしよう。毎日の目標を立てて書き出し、生きがいを持って生活すると改善へ
●10個以上……迷惑老人完全体
前頭葉の機能が低下し、感情のコントロールが利かなくなっている可能性大。ウオーキングを習慣化して血流をよくし、迷惑老人進行を遅らせつつ、断捨離で執着心を落としていくところから始めよう
【脳科学者 西剛志氏】
脳科学者(工学博士)、分子生物学者としても活躍。『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)など著書多数
【名古屋大学大学院 川合伸幸教授】
日本認知科学会会長、中部大客員教授などを兼務する認知科学の専門家。『凶暴老人』(小学館)、『ヒトの本性』(講談社)など著書多数
【日本アンガーマネジメント協会 安藤俊介代表理事】
アンガーマネジメント理論・技術を米国から導入した同分野の第一人者。『怒れる老人』(産業編集センター)で迷惑老人の特徴を詳述取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/福本邦洋 モデル/前田文博