元自動車ディーラーがぶっちゃけ 「EV需要」が日本で加速しないワケ

住宅事情とEV

 日本の街なかで電気自動車(EV)を目にする機会はまだ少ない。新型EVが発売されているのに、なぜだろうか。かつて、大手メーカー系自動車ディーラーに勤めていた筆者(宇野源一)が考える。

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 ディーラーから見ると、EVの販売難易度はガソリンを主燃料とするクルマとは大きく異なる。その主な原因は、顧客の状況や属性にある。

●日本の住宅事情が大きな要因

 国の統計によると、日本の住居の大半は戸建てだが、集合住宅(マンションなど)に住む人は増えている。EVは自宅充電を前提に設計されているケースも多いため、集合住宅に住む人は

「EVを持てない」

という先入観がある。

 自宅に充電設備がない場合は近くの充電スタンドを利用することになるが、待ち時間が長いなどの懸念点もある。売り手も買い手も、EVは自宅で充電するものというイメージがまだ強い。

充電スタンドの課題

自動車ディーラーのイメージ(画像:写真AC)© Merkmal 提供

●顧客のクルマの使い方に依存している

 また、最近のEVは航続距離が伸びているとはいえ、ハイブリッド車のように条件によっては満タンで1000kmも走れるわけではない。大容量のバッテリーを搭載すれば技術的に可能かもしれないが、そうすると車両価格が高くなるため、搭載できる許容量も決められている。

 そのため、通勤や日常の買い物など限られた範囲でしかクルマを使わないユーザーにはEVが売れやすく、中長距離を頻繁に走るユーザーには敬遠されがちになる。ディーラーはその見極めが難しく、ガソリン車が積極的に売り込まれているといえる。

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 初代日産リーフが発売されてから13年が経過し、充電スタンドを目にする機会は増えたものの、まだ数が少なかったり、設置場所が偏っていたりする。

「家族とのレジャーのために新車はいかがですか」

という売り文句では、ドライブに行く前にあらかじめ充電スタンドを決めておかなければならないなどの条件が付くこともあり、そのような売り文句で提案するのは少々厳しい。

 ゴルフ場などのレジャー施設や郊外のショッピングセンターなどに充電設備が設置されつつあるが、充電できる台数は数台に限られたり、充電待ちが発生したり、そもそも充電できなかったりする状況になることも十分に考えられる。ガソリンスタンドのように、インターネットで探せば一定数の数が見つかるようなところまで設置が進まなければ、普及は厳しいといわざるを得ない。

充電待ちの課題

EVのイメージ(画像:写真AC)© Merkmal 提供

 ディーラーが積極的な提案をしにくい側面として、自動車購入者がEVに抱くネガティブなイメージもある。どのような点がネックになるのか。

●充電の待ち時間がネック

 ガソリン車なら満タンでも5~10分で給油できる。しかし、EVの場合はそうはいかない。電池残量が少なくなってから急速充電しても、80%まで回復するのに約30分かかる。運転の合間の休憩時間に充電すればいいという人もいるが、急いでいるときに30分のタイムロスはいただけない。インフラ面で説明したように、先客がいる場合も待たされるため、これをネックに感じる人も多いだろう。

●クルマ自体の寿命の短さ

 わかりやすくいえば、EVのバッテリーは巨大なスマートフォンのバッテリーのようなものだ。充放電を繰り返すとバッテリー自体が劣化する。そうなるとバッテリーの交換が必要になるのだが、一時ネットをにぎわせた某海外メーカーのEVのバッテリー交換費用の高さなど、インパクトのある話題が出ると、さらに需要が低迷する。

補助金に頼った価格

自動車ディーラーのイメージ(画像:写真AC)© Merkmal 提供

 EVは高性能ゆえに車両価格が高い。ガソリン車と比べると100万円以上高い。政府はEVを普及させたいと考え、高額な補助金を出して販売を促進しているが、ディーラーも補助金を当てにして販売戦略を展開しているのも事実だ。チラシやDM広告に補助金額を大きく記載するなど、購入意欲を高める工夫をしている。

 EVの価格は、補助金なしでは一般ユーザーが購入することが難しいほど高くなっているといえる。

 EVの販売状況や戦略を見る限り、筆者はEVが日本のエコカーの“最適解”だとは思わない。ガソリンを使うとはいえ、BMWのレンジエクステンダー付きEVや日産のe-POWERのように、ガソリン車の給油の利便性とEVの快適性・性能を兼ね備えたクルマが、人口減少・過疎化が進む日本では最適解だろう。

 一方で、新車を購入するのではなく、古いクルマを修理しながら乗るのは財布に優しい方法だが、国内メーカーは古いクルマの部品を製造・供給できなくなる。その結果、部品が手に入らなくなり、古いクルマを買い替えざるを得なくなる可能性もあるため、何とかしてほしいというのが本音だ。

 クルマを売りたい側の思惑と、クルマを大切にしたいユーザーの思惑が一致することはないだろうが、双方が歩み寄れる状況ができればいい。

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