宮城・七ヶ浜の漁師、町と協力して高級食材「トリガイ」養殖に挑戦5年 見えてきた成果と課題とは

七ケ浜町と県漁協七ケ浜支所青年研究会に所属する漁師が、同町東宮浜沖の松島湾で、高級食材として知られるトリガイの養殖に挑んでいる。町が漁師の所得向上を目的に発案し、種苗生産を県水産振興協会に、海での飼育を研究会にそれぞれ委託して実施。取り組みは5年目を迎え、温暖化による海況変化などで苦戦を強いられながらも、高値で取引されるなど成果が出始めた。(塩釜支局・高橋公彦)

[トリガイ]すし種として需要が多い二枚貝。水深数メートル~数十メートルの内湾の砂泥地に生息し、主産地は東京湾や三河湾、伊勢湾など。多くの寿命は約1年で、殻長7~9センチになる。刺し身や酢の物としても食べられ、コリコリとした食感やほのかな甘さが特徴。養殖は、京都府で全国に先駆けて成功し、石川県でも取り組みが進む。

高値で取引、需要に期待 一方で種苗生産の難しさも直面

 養殖は海に浮かべたいかだ4基に、トリガイを入れた飼育容器をぶら下げて実施。容器には砂の代わりに活性炭が敷かれ、餌となるプランクトンの補食や外敵の侵入防止のため天井部分にネットが張られている。

 参加するのは50歳以下のノリ養殖や刺し網漁師約20人。トリガイの死滅や成長の停滞を防ぐため、1カ月に1回程度飼育容器を海から引き揚げ、汚れた容器とネットを交換したり、活性炭が固まらないようかき混ぜたりしている。

 気仙沼市沖で採種した稚貝を飼育容器などで1年かけて親貝に育てる。協会が毎年6、7月に人工採卵し、稚貝を大きさ約5ミリまで育てた後、漁師たちが9、10月に海の飼育容器に移し、10センチ程度になる翌年6、7月に出荷する。

 町産トリガイは昨年に仙台市中央卸売市場で初めて競りにかけられ、1キロ約4500円の値が付いた。今年は1キロ約3500円と値下がりしたが、依然として高値で取引された。試験的に出荷した近隣のすし店は1貫700円で提供した。

 研究会副会長でノリ漁師の名村朝洋さん(45)は「初めは誰が買うのか疑問だったが、高値で驚いた。東北で養殖するのは七ケ浜だけで、すし種用の貝が市場に少ない時期の出荷となり、需要が期待できる」と手応えを語る。

 今後の課題は増産だ。協会の育成段階で死ぬ稚貝の割合が多く、海に出した後も大雨や寒波の影響で死ぬ貝もあった。2021年度は、町が生産を計画した稚貝約3000個のうち、出荷できたのは約530個。昨年度は約9600個のうち約2300個だった。

 町が本年度に生産を計画した稚貝は昨年度の2倍となる約1万8000個だったが、協会から10月に研究会へと引き渡された稚貝は約4300個にとどまった。町によると、記録的な猛暑の影響で死んでしまう貝が続出したという。

 町産業課の伊藤隆広主任は「トリガイは種苗生産が難しい。関係者で知恵を出し合って増産につなげ、漁師が漁のない時期の収入の足しにできるようにしつつ、地元に流通させて特産品にしていく」と話した。

 研究会会長でノリ漁師の星美智也さん(45)は「養殖場所を波が穏やかな湾内にしたり、種苗生産を協会に頼んだりと試行錯誤を重ねてきた。将来は自然に左右されない陸上養殖を実現し、軌道に乗せて後輩に引き継ぐ」と意気込む。

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