大麻グミは「日本の薬物政策の失敗」を象徴している…規制が追いつかないイタチごっこが続く根本原因

大麻グミによる健康被害が続出している。なぜ危険な商品が市場に出回ってしまったのか。国際ジャーナリストの矢部武さんは「規制が追いつかず、業者と当局のイタチごっこが続いている。この大麻グミという問題は、日本の薬物政策の失敗を象徴している」という――。

「大麻グミ」を巡る問題で、販売店舗に立ち入り検査をする麻薬取締部の職員ら=2023年11月20日午後、仙台市 – 写真=時事通信フォト

■大麻グミで体調不良者が続出

大麻草の成分と似た成分を含んだいわゆる「大麻グミ」を食べて、体調不良を訴えるケースが続出している。

警視庁などによると、11月4日、東京都小金井市の武蔵野公園であったお祭りに来場した40代男性が「よかったら食べない?」などと言って配った大麻グミを食べた6人が嘔吐(おうと)やめまいなどの症状を訴え、5人が病院に搬送された。またその前日には、同じくグミを食べた20代の男女4人が東京メトロ押上駅で体調を崩して病院に運ばれた。

さらに大阪府内でも、大麻グミを食べて吐き気や痙攣を起こした人が相次いだ。大阪府警によると、今年に入ってから救急搬送された人は十数人にのぼるが、多くは20代~30代で、「SNSで知り合った人から10粒入りを7000円で買った」という20代の男性もいたという。

いったいなぜ、大麻グミによる健康被害が続出しているのか。

ひとつは騒動が起きた時点では合法だったからだろう。10粒入り7000円などの高価な商品をインターネットでリスクなく簡単に販売できたことは、業者からすれば魅力的だろう。

次に、「合法で安全」が売り文句だったことがある。「合法であれば安全」と勘違いした消費者が、気軽に購入してしまったのではないか。

インターネットでは大麻グミや大麻クッキー、CBDオイルなどが「合法大麻」として販売され、誰でも手軽に入手できるようになっている。しかし、ここで注意しなければならないのは製品に含まれる成分が合法かどうかだけでなく、本当に安全で健康被害はないのかということだ。それを確認するには大麻の主成分であるCBD(カンナビジオール)とTHC(テトラヒドロカンナビノール)について理解する必要がある。

■規制された成分に似た合成化合物が検出

大麻には100種類以上の「カンナビノイド」と呼ばれる有効成分が含まれているが、そのなかで最も重要な作用を持つとされるのがCBDとTHCである。

CBDには抗炎症・抗不安・鎮痛などの治療効果があり、心身への悪影響はほとんど報告されていないため、医療や健康・美容などに使われることが多い。米国では医療用に使われる大麻はCBDの含有量を高めるための品種改良が行われている。

一方、THCには高揚感、解放感などの精神活性作用があり、副作用として軽度だが、脳や精神への悪影響、記憶障害、運動機能の障害などが指摘されている。大麻が多くの国で禁止されてきた大きな理由の1つは、THCが含まれているからだが、近年はその危険性は比較的低いことがわかってきて、それが世界的な大麻解禁の流れにつながっている。

米国立衛生研究所(NIH)の医学文献情報データベースでも、大麻使用のリスクはオピオイドの使用に比べて大幅に低いことを示す文献が提示されている。

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/anankkml

しかし、日本ではTHCは厳しく禁止されているため、大麻グミの業者は法に触れないようにTHCの化学構造式を少し変えたりして類似成分をつくり、それを使ったグミを「合法大麻」として販売しているのである。

前述の体調不良者が食べたグミにも「HHCH」(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)というTHCに似た成分が含まれていたことがわかっている。この成分にどの程度の健康への悪影響があるのか定かではないが、それが体調不良の原因になったことは間違いないだろう。

■かつて社会問題化した「危険ドラッグ」

大麻グミ問題の本質は業者が違法のTHCに似た成分を使って合法大麻として販売しているところにあるが、本物の大麻成分ではないので、正確に言えば「疑似大麻グミ」ということになる。

実はこれと似たような問題は2012年ごろに「危険ドラッグ問題」として注目された。当初は「脱法ハーブ」「合法ドラッグ」などとして販売され、その後、政府が名称を「危険ドラッグ」に変更したが、それ以前に「脱法」「合法」が付いていたので、違法性も危険性もないというイメージが人々の間に広まってしまった。

新宿・歌舞伎町には乾燥植物片に合成物質を混ぜたハーブや、大麻の類似成分でつくった「合成カンナビノイド」などが売られ、若者や中年サラリーマンなどが気軽に出入りしていたという。普段はまじめで遵法精神の強い日本人も「法に触れない」ということで、気軽に薬物に手を出していたのだ。

■2014年に一掃したはずだったが…

しかし、違法ではないとしても、そのなかにどんな有害物質がどのくらい含まれているのかわからない。当時、合成カンナビノイドは米国でも蔓延し、深刻な社会問題になっていたが、筆者が取材したカリフォルニア州サンディエゴにあるカイザー・パーマネンテ病院の急性薬物中毒治療室のジェフ・ラポイント医師はこう話した。

「合成カンナビノイドは中枢神経を刺激する成分がどのくらい入っているかわかりません。なかには本物の大麻より200倍も強いものもあり、服用したら脳は激しい衝撃を受けるでしょう。本当に危険なのは大麻ではなく、合成カンナビノイドなのです」と。

そして、日本でも危険ドラッグで亡くなる人が続出した。

警察庁の集計では、2014年に危険ドラッグを使用して死亡した疑いのある人は計112人に上り、2012年の8人、2013年の9人から10倍以上に増えた。

2014年。道路上の電光掲示板でも注意喚起されていた(写真=Dai Wat/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

このような状況を受けて、政府は2014年7月、危険ドラッグ業者の取締り強化に乗り出した。厚生労働省の麻薬取締部は総勢260人のほとんどを危険ドラッグ店の取締りに投入。また、2014年12月には「医薬品医療機器等法」を施行し、規制薬物の疑いのある製品が見つかれば、インターネットも含めて全国一律に販売を禁止できるようにした。この異例の厳しい取締りと法改正により、同年4月に全国で215店あった販売店は翌15年7月にゼロになった。

しかし、一掃したはずの危険ドラッグの販売店は「大麻グミ店」として復活している。厚労省の調査では、2023年8月の時点で、危険ドラッグの店舗は約300店に急増したという。いったい何が起きているのか。

■規制は追いつかず「イタチごっこ」に

それは、規制対象となっている成分と同等の精神毒性を有する疑いのあるものを販売禁止にしても、業者はそれと似た新たな成分をつくり、合法の大麻製品として売り出す、「イタチごっこ」が繰り返されてしまうからである。

今回の大麻グミによる健康被害の事態を受けて、厚労省麻薬取締部は11月17日、大阪の業者「WWE」の関係先を立ち入り検査し、一部の製品からHHCHが検出された。厚労省はこれを指定薬物に指定することを決定し、12月2日から施行されることになった。

同省はまた、HHCHによく似た化合物が新たに出てくることを想定し、「類似化合物を指定薬物として包括的に指定することについても検討を進めたい」としているが、いままでの流れを見ていると大麻グミも含めて危険ドラッグを一掃するのは難しいだろう。

WWEの社長は「規制により新たに危険な成分が開発される恐れがある。ユーザーに安全に使用できるルール作りを」(朝日新聞デジタル、2023年11月17日付)と主張しており、今後もイタチごっこが続く可能性は非常に高い。

■「大麻は危険」は問題の本質ではない

すでに述べたように大麻グミは本物の大麻成分を使った製品ではない。従って今回の事態を受けて、「大麻は非常に危険だから、規制を強化すべきだ」という方向に議論が進むのは筋違いだろう。そもそも大麻はどの程度の健康被害があるとされているのか。

厚生労働省と麻薬・覚せい剤乱用防止センターは、「ダメ。ゼッタイ。」という標語のもとに、覚せい剤と大麻の有害性を強調した啓発活動を行ってきた。しかし、実際には両者の有害性は大きく異なり、海外ではそれを具体的に示す調査結果がいくつも発表されている。

たとえば、世界で最も評価の高い医学雑誌の1つである『ランセット』(2010年11月)に掲載された英国の薬学者、デビッド・ナット教授(インペリアル・カレッジ・ロンドン)の調査では、薬物の有害性(死亡率、精神機能の障害、依存症、他者への危険などを含む)の最大値を100とした場合、アルコールが最も高くて72、ヘロイン55、クラック54、覚醒剤33、コカイン27と続き、大麻は20となった。

■危険度はカフェインと同程度

また、米国立薬物乱用研究所(NIDA)の臨床薬理学主任研究員を務めたジャック・ヘニングフィールド博士が行った「一般的な薬物の危険度比較調査」でも、大麻の危険度(依存性、耐性、禁断症状、中毒性など)はヘロイン、コカイン、ニコチンなどより大幅に低く、カフェインと同等程度であることが示された。

これらの調査を見れば、厚労省などによる大麻に関する危険性の評価は過度なものであるといえるだろう。

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/janiecbros

実は、今国会では大麻取締法の改正案が審議中であり、これまで禁止されていた大麻の所持に加えて使用に関しても新たに「使用罪」を創設し、7年以下の懲役を科そうとしている。このような前提に基づいて使用罪を創設するのは合理的とは言えない。そもそも厳罰化しなければならないほどの有害性が大麻にあるとは思えず、立法事実は乏しいと言わざるを得ない。

厚労省は若者の大麻事犯の検挙者数増加を理由の1つに挙げているが、現状においてそれが深刻な社会的弊害を生じさせているとは思えない。逆に使用罪ができれば、大麻を使用して逮捕・拘禁・起訴され、レッテルを貼られて学習や就職の機会を失う若者が増えることが予想される。そうなれば、社会的な利益よりも損失の方が大きくなるだろう。

使用罪の創設を盛り込んだ改正案はすでに衆議院で可決され、12月13日までの今国会中に成立する見込みだ。

■世界各国で医療用に使用され、日本でも導入される見込み

この法案は厳罰化だけではなく、医療大麻の一部合法化も盛り込まれている。この法案が通れば、大麻の主成分のCBDから製造された難治性てんかん治療薬「エピディオレックス」の国内での使用が可能になる。

エピディオレックスは米国食品医薬品局(FDA)や世界保健機関(WHO)などによって治療効果を認められ、世界30カ国以上で使用されており、厚労省は国内のてんかん患者やその家族、支援団体などから承認の要請を受けていたようだ。

また、医療大麻の一部合法化についても問題があり、それは厚労省がエピディオレックスの使用しか認めようとしていないことだ。医療大麻はてんかんの他にもがん、エイズ、多発性硬化症、緑内障、関節炎などさまざまな病気の治療に有効とされ、世界で医療大麻を合法化している国は50カ国以上にのぼっている。

厚労省は「CBDは良いが、THCは悪い」というように単純に分けて、THCを厳しく規制しようとしているようだが、それは合理的とは言えない。なぜならTHCにも大きな治療効果があり、THCを使用して製造された多発性硬化症の治療薬「サティベックス」や抗がん剤治療に伴う悪心の治療薬「マリノール」は欧米やアジア諸国など多くの国で使用されているからである。

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/LightFieldStudios

精神活性作用があるというだけでTHCを悪者扱いして禁止するのではなく、その特性やメリットをよく踏まえた上で有効に活用すれば、さまざまな病気の治療に役立てることができるのではないか。ちなみに2019年に医療大麻を合法化した韓国ではエピディオレックスだけでなく、サティベックスやマリノールなどの国内での使用を認めている。

いままで述べてきたように、この改正案は大麻の使用罪と医療大麻の一部合法化を進めるものとなっている。だが、本来であれば医療大麻の合法化と嗜好用大麻の厳罰化はまったく別の問題だ。この二つを同時に進める改正案の議論には注意が必要だろう。

■「ダメ。ゼッタイ。」の弊害

ここで改めて日本の薬物対策の問題点について考えてみたいと思う。

厚労省は長い間、「ダメ。ゼッタイ。」に象徴される予防啓発と厳罰主義に基づく乱用防止対策を行ってきた。そのなかで、大麻や覚醒剤を一緒くたにして、「薬物は危険で、厳しく禁止されている。ゼッタイに手を出してはいけない」という強いメッセージを発信してきた。

この対策は日本人が元々持っている法律や社会のルールを守ろうとする遵法精神の強さとも相まって一定の効果はあった。どこの国にも違法な薬物に手を出してしまう人は一定の割合で存在するが、日本はその割合が他国に比べて非常に少ない。

たとえば、国立精神・神経医療研究センターの発表によると、青少年における違法薬物の生涯経験率(大麻)は、米国が34.0%、EUが16.5%であるのに対し、日本は0.3%と圧倒的に低くなっている。

■「合法であれば危険ではない」は非常に危険

一方で、薬物の違法性と危険性に過度に重点を置いてきた結果、「違法でなければ問題ない」と考える人が増えた可能性は十分にある。それは違法薬物の乱用防止には効果的だが、合法(危険)ドラッグにはマイナスに作用するおそれがある。つまり、「合法であれば危険ではない」と思って手を出してしまうかもしれないということだ。

薬物の中には違法性と危険性が必ずしも一致しないものがある。たとえば、大麻の場合、危険性はカフェイン程度だとされているにもかかわらず、米国ではかつて政治的な理由で厳しく禁止された(最近は州レベルの合法化が進んでいるが)。一方で、合法(危険)ドラッグは死者が続出するほど危険性があるにもかかわらず、法的な問題もあって完全に禁止できていない。

したがって、人々が本当に危険な薬物から身を守るには違法か合法かだけでなく、個々の薬物の特性をよく理解する必要がある。

■大麻グミは薬物政策の失敗を象徴している

その意味で、大麻グミの問題は薬物政策の失敗を象徴している。

「合法だから」と言われてグミを食べ、体調不良を起こした人が続出し、厚労省は急遽、グミに含まれていた大麻の類似成分を規制したが、業者はすでに新たな類似成分を使った製品を販売する準備を進めていても不思議ではない。10年前の危険ドラッグの時と同じで、今回もイタチごっこを止める有効な対策を打ち出せていない。

一方で、厚労省は危険性が低いとされる大麻を厳罰化しようと躍起になっている。皮肉なことに大麻を厳罰化していくと、結果的に若者たちを危険ドラッグに追い込んでしまうおそれがある。大麻の厳罰化は逆に状況を悪化させかねないのだ。

近年の世界的に大麻解禁の流れがあるのは、厳罰政策を失敗だったと認識しているからだ。大麻グミを含めた危険ドラッグの問題とともに、日本の大麻政策も大きな岐路に立っていることは間違いない。

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矢部 武(やべ・たけし)
国際ジャーナリスト
1954年生まれ。埼玉県出身。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。人種差別、銃社会、麻薬など米国深部に潜むテーマを抉り出す一方、政治・社会問題などを比較文化的に分析し、解決策を探る。著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)、『大統領を裁く国 アメリカ』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)、『大麻解禁の真実』(宝島社)、『医療マリファナの奇跡』(亜紀書房)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)、『世界大麻経済戦争』(集英社新書)などがある。
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(国際ジャーナリスト 矢部 武)

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