コロナ禍で落ち込んだ日本人の海外旅行が回復していない。JTBが5日発表した年末年始(12月23日〜来年1月3日)の旅行動向見通しでは、海外への旅行者数はコロナ禍前の2019年度の7割程度にとどまる。各国の観光団体は、日本人観光客を呼び戻そうとPRを強化している。(鈴木瑠偉)
パスポート手放す
12月4日、羽田空港にある国際線のチェックインカウンターには外国人の姿が目立っていた。「早朝や深夜など、帰国する訪日客が多い時間帯ばかりが混雑している」(空港関係者)状況だという。
日本政府観光局によると、23年1〜10月の出国日本人数は764万人。前年同期に比べると3・9倍に増えたが、コロナ禍前の19年同期比では54・3%も減った。急回復している訪日外国人客の勢いとは対象的だ。JTBの推計では、この年末年始の海外旅行者数は58万人で前年度の2・6倍となるが、19年度比では30%減だ。1人当たりの費用(22万2000円)も前年度比7・9%減の見込みだ。
海外旅行の回復遅れは、円安が要因だ。1ドル=110円前後で推移していた19年から、円は40円程度も下落した。日本人にとって、円安は海外での買い物や食事が割高になる。「(旅費は)行き先によってはコロナ禍前の2倍以上」(JTB山北栄二郎社長)にもなり、需要回復を妨げている。
パスポートの保有率も低下している。外務省の旅券統計などによると、日本人の保有率はコロナ禍前は25%程度で推移していたが、22年には17%に低下した。海外への修学旅行など、集団で新規に取得する機会が減ったほか、コロナ禍中にパスポートの期限が切れた後、再取得しないケースがあるとみられる。
訪米4位→13位
海外各国にとっても、日本人観光客の回復は重要だ。
ハワイなどの観光地を抱える米国。19年の国別訪米旅行者数を見ると、日本は、カナダ、メキシコ、英国に次ぐ4位(約375万人)だった。22年(約60万人)は、インド(約125万人)や韓国(約92万人)に抜かれ13位に後退。今年1〜10月も121万人にとどまる。
長期滞在が多い日本人の訪米客は消費額も大きい。米国の観光業界は日本市場の「再開拓」を急ぐ。日米両政府は11月末、日米間の相互交流を加速させる署名を交わした。米観光団体「ブランドUSA」渉外部門のアーロン・ウォディン・シュワルツ氏は「野球などの共通文化を持つ日本には訪米したい人も多いはず。26年までに訪米数はコロナ禍前まで戻る」とし、来年からPRを強化する方針だ。
アジアが上位
エイチ・アイ・エスがまとめた年末年始の海外旅行予約状況では、ソウル、台北など「割安感」のあるアジア諸国や、格安航空会社(LCC)が就航する豪州・ケアンズが上位に並んだ。コロナ禍前に不動の1位だったホノルルは3位。エイチ・アイ・エスの担当者は「旅費を抑えたい人が増えている」と分析する。
アジア諸国や豪州も攻勢に出る。ケアンズの観光局は9月、SNSを通じて往復航空券などが抽選でもらえるキャンペーンを実施した。ベトナム航空も今年、日本とベトナムの外交関係樹立50周年にあわせて、割引策を打ち出している。
日本で東南アジア諸国の旅行情報をPRしている日本アセアンセンターの担当者は「どの国も日本人観光客を回復させようとしている。競争は激しい」と話す。
国内 コロナ前並み
JTBが5日発表した年末年始(12月23日〜来年1月3日)の旅行動向見通しは、国内旅行者数は前年度比3.7%増の2800万人で、2019年度の95.7%の水準まで回復すると推計した。1人あたり費用は前年度比10.8%増の4万1000円で、過去最高になる見通し。物価高騰やサービス業の人手不足を背景に、旅行単価が上昇しているためだという。