「8時間労働」「残業当たり前」を疑問視 Z世代が従来の組織の考えにとどまらない理由とは

職場の世代間ギャップはいつの時代にもあったが、長時間労働もいとわず、会社に人生を捧げてきた40~50代と、ここ数年の新入社員の「Z世代」の仕事に対する価値観には、特に大きな隔たりがある。Z世代とっての「働く」とは何か。働きがいをどこに見いだしているのか。AERA 2023年12月11日号より。 【写真】地上波で見ないのに「年収2億円」のお笑いコンビはこちら *  *  * 「この仕事をして僕に何かメリットがあるのか、残業してまですることなのか、と思うことはあります」  埼玉県在住の男性(23)は都内の私立大学を卒業後、メーカーに就職して1年目。第1志望の会社ではなかったが、職場の雰囲気は堅苦しくなく、給料も悪くない。何かと気を使ってくれる上司もいる。特別の不満はないが、将来の自身の働き方に疑問を抱きつつもある。 「先輩の業務量を見ていると、就業時間中に終わる量じゃないように感じます。残業が当たり前で、先輩は『家帰ったら酒飲んで寝るだけだよ』と笑うんですけど、それを望んでいたのかなと。僕はまだ、そこまでの残業をせずに済んでいますが……」 ■8時間労働はおかしい  男性は週に1度、社会人や学生が集まるバスケットボール同好会で汗を流す。活動は平日の18時から。残業が当たり前になれば、参加できなくなる。 「仕事がうまくいかなかったときなど、バスケで汗を流すのは気分転換になるし、大事な時間ではあります。残業が始まれば自分の時間が取れなくなると考えると悩ましいです」  こうした悩みを抱えるのは若者に限った話なのか。今年10月、SNSに投稿されたある動画が注目を集めた。大学を卒業して会社に勤め始めた米国の女性が、「9時から17時まで働くなんて設定はおかしい」と涙ながらに訴える動画だ。通勤時間は1時間以上で、仕事が終われば疲れ切って友達をつくる時間もデートをする時間もない。入浴や運動をする気力もないとひたすらに嘆く。今では240万を超える「いいね」を集めるこの動画はSNS上で議論を呼び、 〈社会人になればプライベートはほぼない(泣)〉 〈人生を楽しむにはフルタイム勤務は長すぎる〉 〈5時間労働が適切だ〉 〈定時で上がれているならいいじゃん〉 〈それが普通だし、もっと働いている人はたくさんいる〉  などと、賛否両論が巻き起こった。

 1日8時間労働で週5日のフルタイム勤務、ときには残業して働くといった、これまでの“普通”の価値観は過去のものになっているのだろうか。冒頭の男性も動画投稿主の米国女性も20代前半の若者。1990年代中ごろから2010年代前半に生まれた、いわゆるZ世代だ。彼らにとっての「働く」とは何か。働きがいをどこに見いだしているのだろうか。  企業の人事問題解決や、事業・戦略の推進を支援するリクルートマネジメントソリューションズは、2023年2~4月に新入社員導入研修などを開催し、その受講者を対象に「新入社員意識調査2023」を行った。 ■個人の幸せも大切に  仕事をするうえで重視したいことのトップは「自身の成長」、次いで「社会への貢献」「やることの意味を強く感じられるか」が上位。「競争に勝つ、ナンバーワンになる」は前年に続いて最下位だった。同社HRD統括部主任研究員の桑原正義さんはこう分析する。 「Z世代の若者は企業や組織の成長だけではなく、個人の幸せも大切にしたいと考えます。経済的な成長イコール幸福とは限らないという価値観を持っていると言えます」  背景には日本経済のこの30年の停滞がある。経済成長が続いた1990年代前半まで、社会における成功は「組織中心の世界」の中での話だった。個を抑えてでも組織を重視することで企業は成長し、個人としても給与アップ、昇進など成功をつかみ取った。そのころ、栄養ドリンクCMのキャッチフレーズ「24時間戦えますか」が大流行。社会に出れば“企業戦士”として長時間労働もいとわない姿勢がもてはやされた。  その後、経済は停滞し、従来の組織優先のやり方は限界なのではないかと疑問を持つ人が生まれ始める。個と組織のバランスをどう取ればいいのかの解決策が見いだせず、若者と上司の世代でギャップが生まれた。 「Z世代は経済成長を知らない90年代後半に生まれているので、過去のモデルの成功体験を知らない。新しいやり方を試行錯誤している社会の中で、『無理に組織側の考えにとどまる必要はない』『自分に合う方を選択しよう』と考える人がこの世代では増えています」(桑原さん)

 組織に拘泥しないから、会社に入って勤め上げるという価値観は失われつつある。Z世代にとっての仕事のやりがいは、いかに個の幸福を追求できるかも重視される。人生のやりがいは仕事でつくるという価値観で育った上の世代には理解がなかなか難しいだろう。  若者たちとの対話の中で、桑原さんははっとさせられた経験があるという。希望していなかった部署に配属された新入社員の話だ。上の世代の価値観から、「一つ目の部署での2、3年くらいすぐ取り戻せる」「今の部署で身につくものもあるから」と慰めがちだが、 「その新入社員は『先輩たちと同じような時間軸で生きていない』『この先どうなるかわからない時代を生きる中で3年間はすごく重要』『同期たちが、望んだ配属先で成長していくのを見るのがつらい』と話したんです。視野の違いに気づかされたエピソードです」  かつては大学を出て企業に就職すれば終身雇用、年功序列で待遇も上がっていく。一方で、Z世代にとっては「企業に入れば安泰」という考えが信じきれず、自分の力で生きなければならない。成長を大事にするのはここが動機でもある。 ■納得感を大事にする  自身の成長を重視するZ世代は、与えられた仕事は自分にとって意味があるのかと問う。かつてであれば、将来的に昇進などわかりやすいリターンがあったが、今の若者にとっては、本当にリターンはあるのか、会社は生活を守ってくれるのか、その仕事のやり方は持続できるのかと、先が見えない。理屈はわかってもリアリティーがない。甘えでも何でもなく、今の生き方を模索する中で、違和感を口にする。上の世代からするとそうした背景を知らず、「自分勝手だな」と思ってしまう。 「もはや仕事の対価は『お金』だけではありません。成長を感じられるか。この仕事をするのが自分である意味は何か。その納得感を大事にしています」 (編集部・秦正理) ※AERA 2023年12月11日号より抜粋

秦正理

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