新刊長編小説「777 トリプルセブン」 著者・伊坂幸太郎さんに聞く

仙台市在住の作家伊坂幸太郎さん(52)の新刊長編小説「777 トリプルセブン」は、東京都心に立つ20階の高級ホテルが舞台。個性豊かな殺し屋たちが暗躍する「殺し屋シリーズ」の第4弾で、ツキに見放された主人公の殺し屋に次々と災難が降りかかる。(菊地弘志)

不運な殺し屋 また災難 舞台は高層ホテル

 2022年に、シリーズ第2作の「マリアビートル」(10年)を原作にしたハリウッド映画「ブレット・トレイン」が公開された。こちらの舞台は、走行中の新幹線。伊坂さんは「新幹線は『横』に移動したので、続編ということも意識して『上』に伸ばそうと考えた」と、高層ビルを選んだ理由を説明する。

 いざ書き始めると「ホテルは非常階段もあるし、部屋に閉じこもってもいい。割と自由に動かせるので絶対的なピンチをつくる難しさはあった」。その点、いつまでたってもホテルから出られない「不運キャラ」の主人公、七尾に助けられたという。

 七尾が請け負ったのは、ホテル最上階の客室にプレゼントを届けるだけの簡単な仕事。しかし、エレベーターで下りる途中で、出合い頭に誰かと会ってしまい、トラブルに巻き込まれる。

 伊坂さんは当初、ハリウッド映画「ダイ・ハード」のように、主人公がホテルに籠城する構想も描いたが、それだと舞台が1カ所に集約されてしまう。「みんなが行き来し、勝手なことをするホテルらしさを出そうと考えた」

 驚異的な記憶力を持つ紙野結花を拉致しようとする容姿端麗な男女6人組をはじめ、「マクラとモウフ」「高良(コーラ)と奏田(ソーダ)」といった殺し屋コンビ。物語には因縁のある面々が登場する。互いにそうとは知らずホテルの各階でうごめき、「あえて出会わないという緊迫感も打ち出せた」(伊坂さん)。

 七尾は不運ばかりの人生を、紙野は自身の並外れた記憶力を、それぞれ恨めしく思う。しかし、ある人物の言葉をかみしめ、他人と比べる無意味さを思い知る。「梅は梅になればいい。リンゴはリンゴになればいい。バラの花と比べてどうする」

 執筆の最終段階で加えられたこのメッセージ。実家での、父親との会話がヒントになったという。

 スポーツ選手の活躍を見て「こういう人生を送ってみたかったな」と切なくなった伊坂さんが、父に「誰かにジェラシーを感じたことがあるか」と聞くと「ない」ときっぱり打ち消された。続けて「リンゴがミカンになろうとするからおかしなことになる」、そんな答えが返ってきたそうだ。

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