日本の投資家は、国際決済銀行(BIS)のデータに基づく実質実効為替レートが約50年ぶりの円安となったことや世界的な不動産不況にもかかわらず、過去20年で最も多くの資金を投じ、海外の不動産を買い上げている。
日本の企業や年金基金が今年購入した資産には、ニューヨーク・マンハッタンの超高層ビル、トロントのデータセンター、ロンドンのオフィスビルが含まれる。オフィスの空室率と金利上昇が他の買い手を遠ざける中で、潤沢な資金を持ち、先進国で唯一最低水準の借入金利を利用できる日本勢の動きが、市場を幾分安堵(あんど)させる。
ニューマーク・グループのインターナショナル・キャピタル・マーケッツ・グループ責任者アレックス・フォシェイ氏は「今は競争力を高められる絶好の機会と捉えているようだ」と指摘する。
MSCIリアルアセッツによれば、世界の商業用不動産取引に占める日本勢の資金は、年初来で74億ドル(約1兆900億円)と、過去15年の年間平均の3倍余りに達する。日本からこれほど大規模な資金が投入されるのは、ニューヨークのロックフェラーセンターやペブルビーチ・ゴルフリンクスという象徴的な権益買収に火を付けた1980年代後半のバブル期以降、ほとんど例がない。
ブローカーによると、日本の顧客は米国とオーストラリア、インドを中心に海外で投資を続けたいと考えている。日本国内のローリターンの現状を鑑み、収入源の分散を図る長期的視点に立つ企業がほとんどだ。円安で購買力が低下しているとはいえ、不動産不況の影響で価格は魅力的と映る。
日本勢、海外不動産投資に積極的
2023年の海外不動産投資は過去15年間の平均の3倍超に
出典: MSCIリアル・アセッツ
(2023年分は年初から12月5日までの累計)
不動産サービス会社クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの高山裕之ジャパン・デスク・サービス部門統括責任者によれば、今回の投資ブームは、新型コロナ禍以前に海外不動産に資金を割り当てていた企業が後押しする側面もある。
コロナ危機の下で、それらの企業は海外に出張し、目的の物件を評価することができなかったが、今年は通常の状態に戻り手元資金が解き放たれた格好だ。
森トラストは、マンハッタンのグランドセントラル駅裏手にある超高層ビル(245 パークアベニュー)の権益49.9%をSLグリーンリアルティから今年6月に約1000億円で取得した。
伊達美和子社長は「われわれの強みは、財務基盤体質の非常に良い状態だ。1000億円単位の投資であっても、投資家を集めながらやるのではなくて、自己で資金調達することにより決断を速くできるところが強み」とインタビューで発言。「唯一無二といわれるようなものであれば、機会があったときにはできる限り取得していこうと思っている」と語った。
森トラストは安定した成長市場への多角化を目指し、国際的な事業拡大を2016年に開始。ボストンとワシントン周辺の少数のオフィスビルを取得した。
海外の不動産に2000億円投資するという当初の目標は22年に予定より5年早く達成した。30年までに1兆2000億円の設備投資を行う目標を掲げるが、約4分の1が海外向けの投資だと伊達氏は述べた。
Japanese Buyers Help Lift Global Property
日本の投資家は、世界的な不動産不況や円安にもかかわらず、過去20年で最も多くの資金を投じ、海外の不動産を買い上げている
Source: Bloomberg
今年の日本勢による大型買収案件としては、KDDIがトロントのデータセンター事業を13億5000万カナダ・ドル(約1465億円)で譲り受けたほか、三井不動産の合弁会社は、ロンドンのセントポール大聖堂近くのオフィスビル に3億1500万ポンド(約585億円)投じた。シドニーでは、三菱地所が主導するファンドが商業用タワーを7億7900万豪ドル(約756億円)で買収した。
グローバル不動産投資の経験がそれほど長くない年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のような年金基金も、全体の数字を増やしている。
三井不動産の広報担当者は、当社は経営戦略の一環として海外投資を着実に実行し、経済や地政学的リスクを踏まえてはいるが、短期的な為替動向が影響を与えることはないとコメントした。
幅広い分野の海外不動産を取得
2023年はオフィスと物流が中心に
出典: MSCIリアル・アセッツ
(2023年分は年初から12月5日までの累計)
原題:Global Property Gets Lift From Japanese Buyers on Spending Spree(抜粋)
(三井不動産広報のコメントなどを追加して更新します)