「中国の富裕層」が、日本に不動産を買う事例が目立つようになっている。もちろんこうした動きは以前からあったが、中国国内の不動産市場の低迷などを原因に、日本の不動産の“爆買い”が加速しているようなのだ。 【マンガ】カナダ人が「日本のトンカツ」を食べて唖然…震えるほど感動して発した一言 そうした状況については、【前編】「日本の不動産を爆買いする「中国の富裕層」がいよいよ急増中…そのウラにある「中国国内の苦しい現実」」で見た通りだが、以下では、日本の不動産を実際に購入し、日本への移住を果たした中国の富裕層をとりまく現実について、『中国人が日本を買う理由』を上梓した、ジャーナリストの中島恵さんがレポートする。
すぐに飽きちゃう
さらに、私はこの東京都内で不動産業を営む中国人男性と話しているとき、「余談」として、おもしろい話を聞かされた。 この男性は、顧客として知り合い、その後、日本に移住してきた中国人たちとも親交があり、彼らの日本での生活を垣間見る機会が多くあるという。彼らの多くはこれまで日本と縁がない生活を送ってきており、日本語もできないので、細かな相談に乗ってあげているそうだ。彼らは日本で、一体どんな生活を送っているのだろうか。 中国の不動産を売り払い、日本で複数の不動産を手にした中国人富裕層は、日本に引っ越してきても、毎日汗水たらして働く必要はない。生活資金は有り余るくらい十分に持っているからだ。 彼らの多くは、儲けるために不動産ビジネスをおこない、それで財を成したことに誇りを持っており、中国を脱出し日本で新生活の一歩を踏み出すことにも、とりあえずは大きな満足を感じているそうだ。だが、この男性によると、彼らは日本に引っ越してきて最初のうちはそうした満足感を抱いているものの、2~3週間も経つと、日本での生活に飽きてしまうという。 不動産業者の男性が言う。 「中国と違って、日本は道端で誰かが大声でケンカしているところもめったに見かけないし、街が静かで、クルマがクラクションなども鳴らしていることも少ないですね。社会全体が整然としています。物事が予定通りに進み過ぎ、刺激が少ないそうです。日本にも最近は『中国人富裕層コミュニティ』がいくつもできていて、そういうメンバーとゴルフに行ったり、ハイキングや旅行に行ったりすることもあるそうですが、それは一過性のもの。 当然、中国国内にいるときと比べて、気の合う友だちの数は少ないですし、いくら地図アプリがあるといっても、なじみのない日本ですから、自由自在に動けるわけでもない。もともと投資目的で不動産を買っていたので、日本文化にも、正直それほど興味もありません。 中国にいるときには、ウィーチャット(中国のSNS)のメッセージが朝から深夜まで1日中うるさいくらい届き、電話もジャンジャン鳴るのですが、日本に引っ越してくると、その数もかなり減る。つまり、寂しいわけです」(不動産業の男性) この話を聞いていて私は、以前の記事で紹介した、2022年に日本に引っ越してきた29歳の中国人男性から直接聞いた話を思い出した。この男性も、中国から脱出できてホッとしたといいつつ、引っ越しから数ヵ月経って、私が取材したときこんな話をしていた。 「正直、日本人はお行儀が良すぎるので、窮屈だなと感じることもあります。地下鉄に乗っていても、ちゃんと座って、静かにしていないと浮いてしまう。静かで安定した日本での生活は、私が望んでいたものですが、ときに中国で感じるのとは違ったストレスを感じることもありますね」 そして、こうも話していた。 「日本人の会社員の多くは、週末はゆっくり休んでいることに驚きました。中国では友だちとの旅行にもパソコンを持っていって、仕事の連絡がきたらその場ですぐやります。休日に完全に休んでいる人などいません」 この男性は、中国にいるときには仕事をさばき切れず、深夜まで働くことが大変だったそうだが、いざ日本にきて、タワーマンションで優雅な生活を送ることができたいま、あくせくと働く生活を懐かしく思い出すようにもなったという。 この男性に取材して半年以上が経つが、それ以降、SNSで見る限り、中国には2回帰省し、欧米にも旅行している。なぜか、日本にいるときよりもイキイキしているように見えた。
「画期的なひまつぶし」
不動産業を営む男性から聞いたことに話を戻す。 男性は、知り合いのある中国人富裕層から「画期的なひまつぶしをしている」と教えてもらったという。 それは、朝ゆっくり起きて、わざわざ遠くにあるホームセンターまで出かけ、クギなど大工道具を少しだけ買ってくることなのだという。 「ポイントは買い物を全部しないこと。少しだけ買ってきて、足りないものをまた別の日に買いに行くそうです。家に戻って、そのクギを使って棚を作る。そのうちに夜になって1日が終わる。そんなふうに暮らせば、1日がつぶせると言っていました」 また、ほかには「釣り堀に行って1日中、釣りをすること」「都内にあるミシュランの星付きレストランに1日1軒ずつ通うこと」などがあるそうだが、いずれも、いつか飽きてしまいそうなことばかりだと彼らは考えているようで、ある50代くらいの比較的若い年代の人は「とにかく毎日やることがないから、カフェを開きたい。カフェを開くのを手伝ってくれ」とその男性に持ちかけてきたそうだ。 政治不安や、医療、情報統制など、さまざまな問題を抱える中国から脱出し、自由な日本に引っ越しを果たした彼ら。日本に暮らしていながら、一般の日本人とはあまり接触しないところで暮らしている彼らは、欲しいものを手に入れたはずだ。だが、意外な悩みを抱えていることを、私は思いがけず知ったのだった。 * 【前編】「日本の不動産を爆買いする「中国の富裕層」がいよいよ急増中…そのウラにある「中国国内の苦しい現実」」もあわせてぜひお読みください。