ネットで話題の「40-16÷4÷2」ができない大学生、その背景に「3+2×4」「16÷4÷2」などを教えない、ゆとり教育があった

「40-16÷4÷2」という数式が一時、Yahoo!の検索ワードランキングで上位に来るなど話題になった理学博士・芳沢光雄氏の記事。記事中に正解を示さなかったことで、「これで合ってる!?」と不安になった大人も多かったようだ。念のために記すと答えは「38」。では、多くの人がこの数式を見て、一瞬ドキッとしたのはなぜか。芳沢氏はその原因は「日本の算数教育の現状」にあると見ている。

「40-16÷4÷2」を取り上げた理由

11月27日の+αオンラインで紹介した記事【なぜ大学生の10人に1人が「40-16÷4÷2」を間違えるのか? 算数・数学の学びに大切なたった二つのこと】に関して、多くの人達に読んでいただき、心から感謝する次第である。

この原稿は、2023年4月から隔週で連載してきた「大人の算数学び直し」のまとめとして、「数学の学びは理解、数学の教育は心が大切」、「数学ほど教育が『好き嫌い』に影響するものはない」ことなどを訴えたものである。

ところが記事に関して、こちらが想像できないほどタイトルにあった式そのものに関心が集まり、「40-16÷4÷2の解答を含む背景をきちんと説明しなくてはならない」という反省の気持ちを強くもった。

本稿では、その立場から、この式を取り上げた背景を歴史的に述べさせていただくとともに、今後の課題についても触れることにしたい。

「ゆとり教育」で教科書から四則混合計算が激減

2002年から始まった「ゆとり教育」では、算数・数学に関して、内容、授業時間などが大幅に削減された。

参考までに下記表は、算数・数学教科書でシェアの大きいA社、B社の教科書について、

1.小数・分数の混合計算(小学校教科書)

2.3つ以上の数字が入った四則混合計算(小学校教科書)

3.3桁×2桁以上の掛け算(小学校教科書)

4.全文記述の証明問題(中学校教科書)

のそれぞれの問題数について、1970年と2002年の比較調査を教科書研究センターで行った結果である。(現在では改善されてきている。)

本稿において注目していただきたいのは2の部分である。

これでは四則混合計算に関する学力をつけるには不十分なことが想像できるだろう。

小6になるほど下がる「3+2×4」の正答率

実際、2006年7月に国立教育政策研究所が発表した「特定の課題に関する調査(算数・数学)」(小4~中3、約37000人対象)には次の問題と結果がある

「3+2×4」の正解率が小4、小5、小6となるにしたがって、73.6%、66.0%、58.1%と逆に下がった(正解は11)。

photo by gettyimages

これに関して筆者は、同年7月15日の産経新聞で「四則計算の理解不足は、3項以上の計算がほとんどなされていないのも原因。2項だけの計算ドリルが流行し、現行の教科書も3項以上の計算が激減している」というコメントを発表したことを思い出す。

参考までに、2008年の全国学力テスト(小6対象の算数)にも「3+2×4」が出題されたほど、この問題に関しては深刻に捉えられらたようである。

ちなみに、このときの正解率は71%であった。目立った誤答は「20」で、それは23%もあった。恐らく「3+2」を先に計算したのだろう。

「16÷4÷2=」を「8」と答える中学1年生

余談であるが、2007年の第1回全国学力テストの結果公表前に、筆者は秋田県大仙市にある大沢郷小学校(2012年に廃校)と首都圏の小学校に出前授業に行き、それぞれ5年生に「3+2×4」を尋ねたところ、前者は約20人の生徒全員が正解で、後者は約40人の生徒の約半数が正解であった。

大沢郷小学校では「誕生日当てクイズ」で生徒全員の誕生日を当てて喜んでもらったことも良い思い出となり、「秋田県の子ども達は違う!」ということを実感した。自然が豊かな地域で、「少人数教育」と「復習」によるきめ細かい指導の成果があると悟ったのである。

photo by gettyimages

前後して2005年10月18日に栃木県野木町立野木第2中学校で行った中学数学教員の小さい研修会での講演後に、講演を担当した私の元ゼミ生から聞いた次の話題は重要なことであった。

「芳沢先生、実は16÷4÷2を間違える中学1年生がたくさんいます。正解はもちろん2ですが、4÷2を先にやって答が8になる生徒が2~3割ぐらいもいます」

そのとき筆者はこの元ゼミ生に、「計算の基本は前から行うという、計算規則の第一歩を算数できちんと教えていないのが原因だね」と答えて、その日は終わった。東京に帰ってしばらくしてから、教科書研究センターに行って計算規則をどのように教えているか、全社の算数教科書をチェックした。

その結果、心臓がパクパクするほど驚くべきことを発見したのであった。

この形の計算はとくに注意すべき

昔も今も計算規則は、4年生で次の1、2、3によって学ぶ。

1. 原則として計算は左から順に行う。

2. カッコ( )のある式はカッコの中を先に計算する。

3. ×や÷は+や-より結び付きが強い。

ところが、ある1社の検定合格教科書だけは、1の記述が無かったのである。あえて言い訳を述べると、「1に関してはもっと前に学ぶから」と言えるかも知れない。

しかし他社の教科書では、1、2、3をひとまとめにして教えている状況を考えても、1が抜けている形で計算規則を小学4年生に教えることは、やはり欠陥だろう。

photo by gettyimages

そのときは、いきなりこの欠陥を騒ぎ立てることはしないで、適当な時期に版元に修正を求める気持ちをもって、しばらくそのままにしていた。

そして、野木第2中学校を訪ねた日からちょうど1ヵ月後の2005年11月18日に、中国・四国算数・数学教育研究(宇多津)大会での大きな高校部会講演でスピーチした際、問題の教科書の件には触れないで、「16÷4÷2」に関して話した。

翌2006年に四国のある県での講演に招かれたとき、その会を主催された先生から、

「実は芳沢先生の宇多津大会での講演で16÷4÷2が気になって、私達の県の高校入試で、さっそく□÷△÷○という文字式の計算問題を出しました。その結果、例年の文字式の計算問題より成績が明らかに悪かったのです」

と伝えられ、この形の計算はとくに注意すべきと留意したのである。

なお、教科書の記述の問題点に関しては、筆者も委員となった「教科書の改善・充実に関する研究」専門家会議(文部科学省委嘱、06年11月~08年3月)の会合に、全教科書会社がオブザーバーとして参加されていたので、その場を利用して助言させていただき、その版元の教科書にも1についての記述が加わることになった。

間違って計算しても答えが整数になる「40-16÷4÷2」

本稿の要点となる「40-16÷4÷2」が誕生したのは、筆者が東京理科大学理学部から桜美林大学リベラルアーツ学群に移ってまもなくである。

就活の適性検査(非言語)の成績を上げたいということ、さらに学生の基本的な計算力を確かめたいということもあって、リベラルアーツ学群新入生全員に基礎力調査の試験を行うことになった。

photo by gettyimages

その問題を作成するとき、四則混合計算の規則を確かめるために、いろいろ間違って計算しても、答えはどれも整数になる問題を考えた。そこで筆者は「40-16÷4÷2」を思い付いたのである。参考までに正解を述べると、次式となる。

40-16÷4÷2=40-4÷2=40-2=38

その基礎力調査では、比と割合、順列と組合せなどの多様な問題も含めた。さらに何人かの他大学の教員にも協力していただいて、2年間で2000人ぐらいの調査結果を得た。それによると「40-16÷4÷2」に関しての結果は芳しくなく、1割ほどの学生が間違えたのである。

高校数学の微分積分はできるのに……

他大学の学生には匿名で受けてもらったが、筆者のところでは記名式で行ったこともあったので、これを間違えた学生数十人に事情を尋ねてみた。その結果、予想外の事実を知った次第である。

それは、「40-16÷4÷2」の計算は間違っても、高校数学の多項式の微分積分は意外と多くができたことであった。

photo by gettyimages

それどころか、高校数学IIIの範囲である自然対数のeが関係する微分積分を分かっている者もいた。(リベラルアーツ学群には、文系・理系を決めることなく幅広く学んで入学してくる者が多くいる。)

なぜ、こんなことが起きるのか原因を探ってみると、要するに、日本の算数教育の現状に問題があるという結論に至った次第である。

以後、就職委員長としての深夜のボランティア授業「就活の算数」や、本年に現代ビジネスで連載した「大人の算数学び直し」ほかで、「数学」ではなく「算数」という単語を強調したのは、それゆえである。

拙著『中学生から大人まで楽しめる算数・数学間違い探し』(講談社+α新書)で取り上げた問題は、「40-16÷4÷2」ばかりでなく、上記の基礎力調査で用いた問題をいろいろ参考にしたものである。数学嫌いの学生を可能な限りサポートしたい、という当時の情熱が活きたのだろう。

小学校の算数でどんなことを教えているか

さて、最近の小学校での算数教育に関しては、下記のように呆れ返る情報がたくさんある。

・速さの意味をきちんと教えることを省略して、「は・じ・き」の公式だけで「速さ・時間・距離」の問題を教えることがある。

photo by gettyimages

・「3つの角度が異なる二等辺三角形がある」と、間違ったことを授業中に公言する教員がいる。(筆者の知人はたまたま保護者参観授業時で、その模様を教えてもらった。当然ながら、二等辺三角形の二つの底角は必ず等しい)

・3+3+3+3+3+3=18を教えてから「サブロクジュウハチ」を覚えさせるのが自然であるが、「サブロクジュウハチ」を先に覚えさせる奇妙な教育がある。(筆者のゼミ生で、このような授業を受けた者が何人かいた)……

算数教育の犠牲者

文部科学省もこのような呆れた情報はたくさんもっているようで、何年も前から、小学校の教員免許をもっていなくても、中学校や高校の数学教員免許をもっていれば小学校で算数を教えられる特例を設けたほどである。

以上を踏まえて筆者は何年も前から、算数が苦手な大人に対しては「教育の犠牲者という面があるだろう」と、まず思うようにしている。

そして少子化時代の日本の将来を想うと、子ども達の頭の中を見抜くこともできる優秀な人材が、小学校の算数教育に積極的に加わる世になることを祈るのである。

タイトルとURLをコピーしました