[New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「つながらない権利」。 【図】土曜夜10時台、これはあり?…大阪市長と幹部の間で交わされたチャットアプリのやり取り
スマートフォンの普及でいつでも手軽に連絡を取れるようになった結果、働く人々が業務時間外の連絡を拒む「つながらない権利」が注目されるようになった。通信環境の変化に合わせ、労働者の健康を守る働き方改革が求められている。
携帯、スマホ通信環境が劇的進化
24時間戦えますか――。バブル経済に沸いた1989年、栄養ドリンクのCMで登場したフレーズが話題を集めた。猛烈に働く企業戦士を鼓舞し、その年の流行語になった。
もっとも、当時の主な通信手段は固定電話。会社の外に出れば、良くも悪くも連絡を取ることには限界があった。
それから30年余りがたち、通信環境は劇的に進化した。2000年に携帯電話とPHSの契約者数が固定電話を上回った。ノートパソコンも身近なものとなり、10年頃からはスマホや通信アプリが浸透。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、20年代には、在宅勤務やオンライン会議が広がった。
機器の使用規制も
仕事の効率性が向上した一方で、業務時間外でも連絡がつきやすくなり、「つながらない権利」の重要性が高まった。
パーソル総合研究所が今年7月、正社員3000人を対象に調査したところ、1295人が業務時間外の連絡があると回答。そのうち、過去1か月以内にすぐに対応を求められた人は58%に上った。メールの確認など「業務時間外でつながる時間」は月平均約40時間と推計された。
つながる時間が長いほど燃え尽き症候群になる傾向がうかがわれた一方、業務時間外の連絡に関する社内規則があるとした企業は31%だった。
同所の今井昭仁研究員は「通信手段がより便利になれば、つながる時間がさらに長くなりかねない。労働者の健康を守るには『業務時間外に連絡がつかなくてもやむを得ない』という発想の転換が必要」と話す。
欧州では「つながらない権利」を法制化する動きが広がっている。青山学院大の細川良教授(労働法)によると、フランスでは、労働者の過労が社会問題になり、16年に世界で初めて法制化された。通信機器の使用規制など、権利を実現する方法を労使交渉のテーマに入れることが義務づけられた。
同年のフランスの世論調査では、管理職の77%がバカンス中でも通信機器に接続したと回答。このうち、82%は「通信がストレスになる」と答えた。
細川教授は「休暇を重視するフランスでさえ、スマホがもたらした利便性の波にのまれた。休息の質と量をいかに確保するかが問われる時代になっている」と話す。スペインやベルギー、イタリアでも「つながらない権利」が法制化されている。
配慮「必要」75%
日本でも、労使の意識は変化しつつある。
プロバイダー大手のビッグローブ(東京)が昨年12月、20~50歳代の労働者892人にアンケートしたところ、「つながらない権利への配慮が必要と思うか」という問いに約75%が賛成した。