仙台市の天然記念物に指定されている青葉区愛子地区のカンザシザクラ3本のうち、1本が枯れて伐採されたことが13日、分かった。67年前に愛子地区で初めて確認され、全国的にも希少な桜は春の大型連休前後に淡いピンクの花を咲かせた。所有者は「自慢の桜だった」と残念がる。
仙台市内に残るのは2本のみに
枯れたのは、青葉区愛子中央3丁目の会社員庄子善司さん(69)の庭にあったカンザシザクラ。樹齢は60年を超え、5年ほど前から樹勢が弱まり、昨春は花が全く咲かなかったという。枝が折れるようになり、倒木の恐れがあったため、今年5月に切り倒した。
庄子さんは「自宅のウッドデッキから満開の花を見上げ、酒を飲むのが楽しみだった」と振り返る。
市教委は10月に庄子さんからの届け出を受け、市の天然記念物となっているカンザシザクラの指定本数を減らす手続きを進めている。本年度中に文化庁に報告する。
愛子地区に残る2本は庄子さんの親戚で、青葉区愛子中央1丁目の無職庄子正人さん(71)が所有する。今年の春は暖かい日が続いた影響などから、例年より早い4月下旬に花を咲かせたという。
京都と大阪に1本ずつ、いずれも愛子の桜が「親木」
カンザシザクラは仙台市内を除くと、皇居と佐野園(京都市)、大阪造幣局(大阪市)にそれぞれ1本あるだけだ。いずれも青葉区愛子地区の桜が「親木」となった。
愛子地区の桜は1956年、新種と確認された。前年の55年に、桜の収集家として知られた京都の造園家15代目佐野藤右衛門さんが作並温泉(青葉区)に宿泊した帰り道に、バスの窓越しに珍しい桜を目にしたのがきっかけだった。
佐野さんは56年に再び地区を訪れ、庄子正人さんの父善雄さんの桜を探し当てた。20枚ほどの花びらが重なり、数個の花が密集する形状から、住民が「カンザシザクラ」と呼んでいたことを聞き、命名した。
数本の枝を京都に持ち帰った佐野さんは、研究用に接ぎ木をして育てた。2本を善雄さんに贈り、うち1本は庄子善司さんの父善吉さんに渡った。
接ぎ木の2本を含む3本は86年5月、仙台市(旧宮城町)の天然記念物に指定された。地域で親しまれているカンザシザクラは、広瀬川に架かる開成橋の両端の柱に満開に咲く花の絵として彫られている。
佐野さんが見つけた桜はかつて火事で燃え、根元近くのひこばえ(若芽)が大きく成長した木という。接ぎ木の桜と合わせて2本を育てる正人さんは「接ぎ木の桜は樹勢がやや弱まってきたが、ひこばえの方はまだまだ元気。貴重な桜を枯らさないように手入れをして、いつまでも楽しめるようにしたい」と話した。