「運転手不足」「2024年問題」、バス事業者を直撃 東北で路線廃止や減便の検討相次ぐ

東北の路線バス事業者が、深刻な運転手不足と2024年4月に始まる運転手の働き方改革への対応を迫られ、苦悩している。新型コロナウイルス禍のダメージが回復しない上、燃油高騰が重なり、経営も厳しい。路線廃止や減便の検討が各地で進み「地域の足」のさらなる縮小が懸念される。

 [バス運転手の働き方改革] 運転手の時間外労働に年間960時間の上限が設定される。労働条件などを定めたルールも見直され、拘束時間を短縮し、勤務終了から次の勤務までの休息時間を最低9時間(現在は8時間)などとする。2019年施行の働き方改革関連法に基づく対応で、トラックやタクシーの運転手とともに適用が5年間猶予されていた。24年4月に猶予がなくなり、運転手不足が加速する恐れがあるため「2024年問題」としてクローズアップされている。

仙台市バスは30路線で減便

 仙台市交通局は24年4月、市バスの1日の運行便数を3・2%減らす。平日夜や土曜休日を中心に、全44路線の7割に当たる30路線で実施する。担当者は「現在の業務体系では、勤務終了後から次の勤務開始までに(働き方改革で義務化される)9時間の休息を確保できない」と説明する。

 宮城交通グループ、愛子観光バス(ともに仙台市)も減便を検討している。

 23年度中に7路線を廃止する岩手県交通(盛岡市)は、4月に平日の便数を1割減らした盛岡地区で、さらに夜間の減便に踏み切る可能性を示唆する。羽後交通(青森県横手市)の担当者は「運転手の拘束時間を減らす必要があり、便数を削減せざるを得ない」とこぼす。

 バス運転手の不足は深刻さを増している。日本バス協会の試算によると、23年に全国で1万人不足している状況が、働き方改革の強化で24年は2万1000人、30年には3万6000人に拡大するとみられる。

 バス運転手の仕事は拘束時間が長く、賃金も他産業に比べて低い。各運行事業者は賃上げや大型2種免許の取得支援、家賃補助といった待遇改善で採用に力を入れるが、高齢化などで退職者の方が多く、不足を補い切れていない。

新常磐交通は系統数を半分に再編

 十和田観光電鉄(青森県十和田市)は、高校卒業から大型2種免許の受験が可能になるまでの間、整備工場や事務職を経験させる内容で、20年に運転手希望者の募集を始めたが、今のところ応募はゼロ。佐藤行洋社長は「定年退職した70代のドライバーにも頼らざるを得ない」と実情を打ち明ける。

 国の運輸要覧によると、東北の路線バスや高速バスは22年度、営業収入、輸送人員ともコロナ禍前の19年度の8割にとどまった。

 赤字が多い路線バスは行政の補助金に加え、高速バスや貸し切りバスなどの黒字を回す「内部補助」で損失をカバーしてきたが、収益力は低下。「需要が戻っても人手不足で応えられない」と嘆き節が漏れる。

 22年度の内部補助が約2億5000万円に上った新常磐交通(福島県いわき市)は、24年4月の大規模な運行ダイヤ見直しを発表した。15路線(計約50キロ)を廃止し、系統数を約半分に再編。通学や通勤の利用が多い平日も1割を減便する。

 国土交通省によると、17~22年度に廃止された路線バスの距離は東北6県で計約1500キロに及ぶ。「運転手に負荷をかければ最も重要な安全を担保できなくなる」と秋田中央交通(秋田市)の担当者。路線の現状維持は困難と感じる事業者は少なくない。

 弘南バス(青森県弘前市)の藤田潔人事部長は「(政府が経済対策で賃上げを盛り込んだ)介護職のような政策が必要だ。事業者の自助努力で、どうこうできるレベルではない」と訴える。

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