円高反転で「海外出稼ぎ組」が迫られる難しい判断 渡豪したYouTuberは1か月で資産70万円目減りし「このまま留まるか、悩ましいところ」

為替相場が乱高下を続けている。11月には一時、1ドル151円台まで円安が進んだが、米国の利下げ観測などによりハイスピードの円高に転じた。一時は1ドル130円台への突入も目前に思われたが、日銀の大規模緩和の維持を受けて140円台半ばに戻す展開となった。今後の為替相場の方向感がつかみにくい中で、これまで円安の恩恵を受けてきた「海外出稼ぎ組」は、どういった判断をするのか──。 【写真】しょなるさんが一時帰国時に父親にプレゼントした車

 外務省「海外在留邦人数調査統計」によると、2022年10月時点で海外に長期滞在していた日本人は約130万人。ここ数年増加傾向にあり、コロナも落ち着いた昨今、日本の賃金が長らく停滞したまま上がらないことや、歴史的な円安を受けて日本を飛び出して海外で働く日本人が増加したとされる。  ワーキングホリデーでオーストラリアに渡り、現地の金属加工工場で働いているYouTuber・しょなるさん(33)も円安の恩恵を受けてきた出稼ぎ組のひとり。1か月以上の長期休暇もあるなかでの1日9~10時間労働で年収1000万円を超えたという。しょなるさんが言う。 「シドニーの金属加工工場でポテトチップスなどお菓子の製造機を作る工場で働いています。時給は34豪ドル(約3200円、1豪ドル=約95円で計算。以下同)で、定時は8時間労働なのですが、定時以降は時給が1.5倍になるので合わせると支給額は月額平均で9000豪ドルくらい。日本円で約85万円になります。貯金をしようと節約しているわけではないのですが、4年で2000万円ほど貯まりました。日本にいた頃より確実に心も財布も余裕を持てるようになりました」

しょなるさんの収入と支出の内訳は

 家計収支はどうなっているのか。しょなるさんのある月の収支の内訳はこうだ。  1週間分の給料の支給額が2010豪ドル。そこから所得税として約15%(約302豪ドル)が引かれる。手取りは約1700豪ドル(約16万3000円)で、この4倍の約65万円が1か月分の手取りとなる。一方の支出はというと、世界的なインフレで出ていくお金も多いのかというと、そうでもないという。 「現在シェアハウスに住んでいるのですが、1か月間の支出の中で最も大きいのが家賃で約5万4000円。食費は3万5000円ほど。海外は日本に比べて何でも高いイメージがありますが、野菜や肉は日本と同じくらいのイメージです。魚は日本より少し高いですね。シェアハウスに住めば家賃は安く済むし、食費に関しては加工食品を買ったりレストランに行ったりすると高く付きますが、スーパーなどでなるべく安いものを買うようにしています。収入が支出を大きく上回っています」(しょなるさん)

 日本の年金にも任意加入していて、月の支出は計約20万円。先日、一時帰国した際には父親に車をプレゼントしたという。オーストラリアでは今年の7月に最低賃金が時給23.23豪ドル(約2200円)に上がった。東京都の最低賃金の約2倍にあたり、円安の追い風もあって外貨で稼ぐ恩恵は大きかった。

最初は「季節労働」でうまくいかなかった

 しょなるさんはもともと日本のバネ工場で働いていたが、2019年に29歳でワーキングホリデーの制度を使ってオーストラリアに渡った。はじめは1年で帰国するつもりだったというが、コロナ禍で身動きが取れなくなり、ビザを延長しているうちにオーストラリア生活は今年で4年になる。日本では8年間働いて100万円も貯金できなかったが、オーストラリアでは工場の軽作業バイトでこれだけの稼ぎになる。 「29歳の時にこれ以上日本にいても生活は変わらないと考え、ワーキングホリデーの申し込み年齢の上限が30歳でもあったので思い切って挑戦しました。大きな野望や夢があったわけでもないし、英語だって渡豪当時は中学生程度のレベルでした。それでも今は日本にいるよりもよっぽど稼げています。僕よりもっと稼いでいる人はたくさんいますし、海外に挑戦する価値はあると思いますよ」  渡豪したばかりのしょなるさんはまず、ネット情報などをもとにチェリーピッキング(さくらんぼの収穫)に挑戦。木になっている実をひたすら摘む仕事で、SNSには「月に100万円も稼げた」といった日本人ユーザーの書き込みもあったという。 「ところが実際にはそうでもなくて、月額40万円程度の稼ぎでした。もっと悲惨だったのはイチゴの収穫ですね。月に10万円くらいしか稼げませんでした」(しょなるさん)

資産は1か月で70万円目減りしたが、帰国するのか?

 そうした失敗も経験し、不安定な季節労働ではなく「日本での経験を活かす」ことに思い至る。 「大学を卒業してから8年ほど、関西にあるネジ工場で働いていました。手に職というほどでもないのですが、工作機械を扱うのには慣れていた。英語もやっと日常会話くらいはできるようになっていたので、思い切ってチャレンジしてみることにしたんです」(しょなるさん)  現在はポテトチップなどの製造機を制作する工場で働いている。英語は相変わらず苦手で上司の言葉を聞き取れないこともあるが、仕事はきっちりこなし、稼ぎも得られている。  ただし、直近の円高反転はしょなるさんの資産にも影響を与えている。 「ほとんどを豪州ドルで持っているので、円高に振れると打撃は小さくありません。11月から12月にかけて、円換算すると資産が70万円ほど目減りしている状態です。このままオーストラリアにとどまるか、日本に帰国するか、悩ましいところですね。ただ、こちらで作ってきた人脈は捨てがたい。これから出稼ぎを考えているのであれば、こちらでも通用するスキルや資格を身につけてから行動することをお勧めします。そうすればまだまだ稼げると思います」  閉塞感の増す日本から飛び出すことは、これからも選択肢であり続けるのか。(了)

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