金利上昇で含み損だらけの「地銀」大崩壊に備えよ…「チャレンジング」どころではなくヤバい地銀の「実名」

「チャレンジングな状況になる」

「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になる」(2023年12月7日参議院財政金融委員会)と日銀の植田和男総裁が発言したことで、マイナス金利の解除など金融緩和策からの出口戦略がマーケットでも意識されるなか、足元でも長期金利が上昇しており、いよいよ長らく続いた金利のない世界が終わろうとしている。

実際、金利上昇により、本業である貸出の金利が引き上げられ、利ざやが改善することで収益が回復するとの期待から、年初来、メガバンクや大手地銀など多くの銀行の株価は、上昇してきた。

日銀による金融緩和政策の修正による利ざや拡大に加え、東証による各企業のPBRの改善期待、インバウンド復活や半導体工場など設備投資需要の回復なども銀行にとってはプラスとなる。金利上昇は銀行に追い風。だから銀行株を買うと儲かりそうという訳だ。

本当にそうなのだろうか。

確かに、金利上昇は利ざやの改善が期待できる一方で、実は銀行にとってマイナス面も大きいともいえる。

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なぜなら、金利が上昇すると、債券価格が下がることになり、メガバンクや地銀など銀行が大量に保有する国債や社債、米国債、投資信託などで含み損を抱えることになるのだ。

特に深刻なのは地銀だ。

国内債券の含み損計上が92行に

日本経済新聞(2023年11月16日付)によると、地銀97行の国債など国内債券、米国債など外国債券、投資信託を合わせた含み損は、2023年9月末時点で約2.8兆円と6月末から7割も増えたという。

地銀97行の国内外の債券、投資信託、株式などで構成される「その他有価証券」の評価損益では、株式も含めた全体の評価損益は50行が含み損となった。このうち、国債など国内債券の含み損を計上したのは、92行にも上っている。

上場地銀74行・グループの2023年9月期の純利益の合計は5611億円と前年比約6%減少しており、減益・赤字となったのは45行・グループで、全体の6割を占めるという(同)。

日銀が今年7月に金融政策の運用を柔軟化して、長期金利の上限を引き上げたことをきっかけに債券市場で長期金利が上昇し、債券の価格が下落した。また、年初来、米国債など外国債券でも、米国での金利上昇により含み損が一段と膨らんだのが大きな要因だ。

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「チャレンジングな状況になる」というこの先、マイナス金利の解除など金融政策次第では、地銀では、国債など有価証券の含み損がさらに増える可能性が高い。

もっとも、国債など「その他有価証券」項目にある債券は、当該債券がデフォルトしない限り、満期まで保有すれば損失が発生することはない。

ただし、含み損という潜在的なリスクを抱えたままでは、自己資本との兼ね合いからも、有価証券に追加投資したり、貸出を増やしたりすることに、ブレーキが掛かることになる。いずれにせよ、昨年来、既に米国の利上げにより米国債など外国有価証券で含み損を抱え、損失処理も進めてきた地銀にとって、日本の国債まで含み損を抱えることは、大きな経営の重しとなるのは間違いない。HP 15-fc エントリーモデル

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含み損を大量に抱える地銀の実名

実際のところ、国債などの含み損はどれぐらい地銀の健全性に影響を及ばしているのだろうか。銀行の健全性を測る指標として、有価証券含み損益を純資産でどれくらいカバーできているのかを、有価証券含み損益・純資産比率でみてみたい。

京セラや任天堂など地元優良株を多数保有する京都銀行の74.24%を筆頭に、八十二銀行45.62%、伊予銀行41.07%、滋賀銀行35.50%、静岡銀行32.09%といった、いわゆる優良な上位地銀が、金利上昇局面においても、保有する優良取引先企業など株式の含み益が、国債など債券の含み損を上回る形で健全な水準を維持していることが分かる。

一方で、地銀99行中、半数以上の51行において、有価証券含み損益・純資産比率がマイナスとなっており、純資産でカバーできない程の有価証券含み損を抱えていることになる。

下位には、島根銀行、きらやか銀行、仙台銀行、筑波銀行、福島銀行、長野銀行など、公的資金を抱える第二地銀、SBIグループと資本業務提携する地銀などが多い(金融ジャーナル社「地銀・第二地銀の収益性・健全性指標(2023年3月期)」。

いずれにせよ、この先、更なる金利上昇となると、損失処理が容易ではないこうした体力のない地銀を中心に、更なる含み損を抱える可能性があり、その影響は、最終的には業績や自己資本比率にも悪影響を及ぼすことになるだろう。

地銀は、今後金利が上がると一息付けると思われているが、それどころか更に茨の道が待っているということだ。

デフレ経済脱却のため10年以上続く、日銀の金融緩和策によって、預金が流入し続ける一方、全ての地銀が、本業である貸出における利ざやの低迷に悩まされてきた。

ぬるま湯で過ごしてきた

カネ余りと人口減少など地元経済の縮小もあり、地元の優良な貸出先も限られており、メガバンクのように海外で貸出拡大ともいかず、余資運用として、国債などリスクゼロの安全資産に投資してきた。

また、国債の低利回りを補うために、10年国債など償還期間の長い国債の保有比率を高めることで、少しでも収益をカバーしようとしてきたのだ。

もっとも、償還期間が長ければ長いほど、金利上昇時には債券価格の下落幅が大きくなり、含み損が拡大することになるのだが。

いずれにせよ、人口減少や過疎化は無論、日銀の金融緩和策が長期に及ぶことも、いずれも突然起こった「サプライズ」ではなく、中長期的にもある程度の予想が可能なものだったはずだ。

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地銀は、社会情勢や金融政策の変化に対応するため、店舗や人員のリストラを進めたり、全方位的なビジネスモデルを改めたり、個人金融に特化したり、スマホ化に注力たりするなど、自ら判断し、トランスフォーメーションする時間はたっぷりあったはずだ。リスクを取って改革をせずに、リスクゼロの国債に投資してきた経営判断により、足元では、金利上昇により、純資産を上回るような含み損を抱えているというのは、ある意味、自業自得ともいえる。

地銀はやるべきことをせず、ぬるま湯で過ごしてきた、と言ったら言い過ぎだろうか。

問題は、有価証券の含み損だけではない。

不良債権化が地銀を襲う

金利上昇により、銀行にとっては、貸出における利ざやの改善が期待できる一方で、貸出金利の上昇は、取引先企業にとっては、利払い負担の増加を意味する。

コロナ対策の無利子・無担保融資である「ゼロゼロ融資」の返済滞りや足元の企業倒産の増加とあわせ、この先、地銀の不良債権が増えていく可能性もあるのだ。

実際、地元の中小企業など取引先の経営悪化に備えて、引当金を積んだ地方銀行が相次いでいる。地元の取引先企業の倒産により、不良債権処理額が増加したことで、富山銀行では赤字決算に陥っている(2023年9月期)。

なお、東京商工リサーチによると、2023年11月度の全国企業倒産(負債額1,000万円以上)は、807件(前年比38.8%増)と20ヵ月連続で増加、小・零細企業を中心に増勢が強まっているという。

関連するビデオ: 大規模緩和の修正はあるのか 日銀がまもなく金融政策発表へ (テレ朝news)

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大規模緩和の修正はあるのか 日銀がまもなく金融政策発表へ

こうしたなか、10年物など新規での定期預金や、新規の貸出金利は引上げることができても、家計に影響が大きい住宅ローンや、地元の中小企業向け既存のローンの金利の引き上げは容易ではなく、拙速にこうした金利を引き上げれば、延滞や破産、破綻の増加により、不良債権化することで結局は銀行に跳ね返ってくることになり、その実行は簡単ではないだろう。

地銀側にも「手をこまねいていたわけではない」と言いたいかもしれない。

低金利下で貸出や有価証券運用が振るわないなか、2021年の銀行法改正を伴う規制緩和もあり、急ピッチで多角化を進めてきた。すでに、上位地銀を中心に、地域商社や人材紹介子会社、コンサルティング子会社に加え、広告、観光、農業などの分野でも子会社などが設立されている。

地銀再編の第二幕へ

さらに、地銀による電力子会社の設立など電力事業参入も増えている。山陰合同銀行や常陽銀行、八十二銀行などでは、再生可能エネルギーの発電と供給などを通じて、地域社会の脱炭素化を目指すという。

だが、こうした子会社の大多数は、設立後間もないこともありほとんどが赤字だ。

多角化や新規事業といっても、地域商社やITコンサルティングなどが収益の柱となる事はなく、結局は、質量ともに収益が見込める貸出業務への注力となるはずだ。規模の経済が働く分野でもあり、金利上昇に対応するには、規模の経済を得るための合従連衡が選択肢となるだろう。

銀行は、システム費用等、多額の固定費が発生するため、規模の経済性(スケールメリット)が働きやすい。例えば、貸出の規模が2倍となっても、システム費用が2倍かかる訳ではなく、合従連衡による業績拡大と経費削減余地が大きい業種なのだ。商品やサービス内容や金利水準ではほとんど差がつかない貸出を含む普通銀行業務において、規模の拡大で勝負することは、定石だ。

しかも、金利上昇により、利ざやが拡大することで、貸出規模が業績の優劣を分ける規模の経済が効く世界が戻ろうとしているのだ。まさに、日銀の利上げにより利ざやが拡大し、合従連衡による規模の拡大で貸出残高を伸ばすという、質量の両面から成長戦略を追える環境が地銀にとって到来しようとしているのだ。

多くの地銀にとって、有価証券の含み損や不良債権処理といったコストや潜在リスクを補って余るほど、規模の拡大で貸出残高を伸ばすインパクトは大きいものだ。

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金利上昇だけではない。人口減少や過疎化による地元市場の縮小、異業種の進出やデジタル化の進展による顧客の地銀離れといったより根本的な問題は解決しておらず、地銀の見通しは決して明るいものではない。

人口減少とデジタル化、異業種の進出に加え、政府・金融当局による地銀再編を後押しする動きがあるなか、金利上昇による利ざや拡大のメリットを享受する思惑もあり、地銀「一県一行」に向けて地銀再編の第二幕が進むことになるだろう。

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