日本のからあげ店が続々倒産する中、KFCとファミチキの2大勢力に割って入ってきた”第3の勢力”驚きの新展開

からあげ店の倒産が増えている。帝国データバンクは2023年に入ってからのからあげ店の倒産件数は22件で、過去最多を更新したと発表した。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「からあげ店には致命的なビジネスモデル上の欠陥がある。それは『美味しいお店を作りやすい』ことだ」という――。 【この記事の画像を見る】 ■からあげ店は「美味しいお店を作りやすい」  帝国データバンクが「2023年に入ってからあげ店の倒産が急増している」と発表しました。今年に入ってからのからあげ店の倒産件数は22件です。過去5年間の平均は年4件以下の倒産数でしたから、確かに急増と言っていい数字です。  私は経済の未来予測を専門にしています。からあげ店ブームが起きていた1年半前に「からあげ店は厳しい未来を迎える」という予測記事を発表していましたが、予測通り的中した形です。  帝国データバンクの記事では、倒産増加の背景にはからあげ店が急増したこと、原料費の高騰、そして節約志向で持ち帰りからあげのコスパが低下している点などが指摘されています。  それに加えてからあげ店には致命的なビジネスモデル上の欠陥があるというのが、私が1年半前のからあげブームの際に指摘したことです。それが「美味しいお店を作りやすい」という欠陥です。  直感で考えると「美味しいお店を作りやすい」なら自分もからあげ店の経営に乗り出してもいいと思いますよね。少ない投資で始められて、作ったからあげは自分で食べても美味しい。だったら売れるだろうと思うわけです。 ■どの店も美味しいからチキンレースになる  ところが経済学はそうは動かない。誰もがからあげ店を始めてしまったら世の中にからあげ店があふれてしまいます。しかもどの店も美味しいので、経営が苦しくなってきても商品に自信がある分だけ頑張ろうとする。誰もなかなか手を引かないチキンレースが始まるのです。  ちなみに私はこの先のからあげ業界の未来を考えると、もう一段階の進化が起きてふたたび業界が発展するという予測をしています。その話は後段でお話しするとして、まずは近年のからあげブームについて振り返ることから始めてみたいと思います。  ここ十数年来のからあげ文化の定着はまずもってコンビニの貢献が大きいと思います。セブン‐イレブンの店頭で買えるからあげ棒やファミリーマートで売っているファミチキ、ローソンのからあげクンなどスナック感覚でからあげを食べるシーンが増えました。そのからあげ文化を前提に、近年起きたからあげ店の急増のメカニズムを説明するとこのような流れになります。  まずコロナ禍で大手飲食店の業態転換が起きます。もう記憶としてはコロナも過去の話になりますが、国や県が外食の自粛を打ち出し営業時間も短縮される中で、大手飲食店は生き残りをかけてデリバリー需要に力を入れることになります。この時期に、ワタミがテリー伊藤氏とコラボした「から揚げの天才」やモンテローザの「からあげの鉄人」、ガストの「から好し」など大手がつぎつぎと既存店をからあげ業態へ転換して店舗数を増やしています。

■「からあげグランプリ金賞多すぎ問題」の背景  同時に独立系のからあげ店もこの時期に急増します。それらのお店の多くが店頭に「からあげグランプリ金賞受賞」の文字を掲げていたことも話題になります。「からあげグランプリ金賞多すぎ問題」ですが、これには理由があります。  そもそもからあげグランプリはからあげ業界の振興のために2010年から日本唐揚協会が続けてきたイベントで、これはラーメンブームに対抗する手段として打ち出された歴史があります。ラーメンについては世の中にランキング情報が溢れる一方で、からあげについてはそのような情報が少ない。そこで業界発展のために金賞の店舗を増やした経緯があります。  ラーメンの世界では毎年100店以上の個性的なラーメン店が雑誌やウェブのランキング情報として取り上げられるので、からあげグランプリの金賞が毎年100店前後生まれるのはその経緯を考えると多いとは言えません。実は金賞の上に「最高金賞」があって、その最高金賞のお店はずっと数が少ないのですが、金賞のお店も堂々と金賞を店頭でうたう結果、世の中的にはこれが「金賞多すぎ問題」として捉えられているわけです。 ■フライドチキン業界に新しい動きがある  こうして美味しいからあげ店はコロナ禍の間に日本中で増殖しました。からあげ専門店は確かに美味しいのですが、難点としてはどうしてもスーパーやコンビニのからあげよりも価格が高くなることです。折からのインフレで節約需要が高まる一方で、コロナ禍が明けて外出が増えると、結果として持ち帰りの揚げたてからあげの需要は減っていきます。これが今年、からあげ店の倒産が相次いだ背景事情です。  さて、ここからは未来の話が始まります。からあげ店の倒産が急増する中で、チキンレースからの方向転換を予感させる近接業界で発展の動きがあります。それがフライドチキン業界の新しい潮流です。  実は今年の夏、私は複数の情報源から「フライドチキン業界にまた新しいトレンドが始まっている」という話を聞いて、集中的にフライドチキンを食べ歩いたことがありました。まずはそのときの情報をお話しします。

■ケンタッキーが美味しい理由は「国産の鶏」だから  最初に基本としてのKFCから。ケンタッキーのオリジナルチキンは広義のからあげ商品の中でも間違いなく最高に美味しいフライドチキンのひとつです。特に本家のアメリカよりも日本の方が美味しいと私は感じます。その理由は日本のKFCはアメリカ本家の繰り返しの要望をはねのけて、国産の鶏を使い続けていることにあります。  そのようなこだわりもあり、かつ秘伝の衣と圧力鍋で揚げる独特の製法からKFCはフライドチキン業界としては最高峰の美味しさではあるのですが、欠点もあります。鶏肉の部位を選べないのです。  私はフライドチキンはジューシーなリブという部位が大好きな一方で、健康にいいむね肉はそれほど好きではありません。KFCでは9つに切り分けた5種類のチキンの部位のどれが手にはいるかランダムな仕組みのため、外れてがっかりというケースも結構あります。ちなみに好みの部位を手に入れる裏技もあるのですが情報が広まるといけないので割愛させていただきます。 ■韓国のフライドチキンチェーンが上陸を始めた  さてこのKFCとファミリーマートのファミチキが現在、日本では2大勢力なのですが、実は今、日本に第三勢力が上陸を始めています。それが韓国のフライドチキンチェーンです。  ご存知の方も多いかもしれませんが韓国は日本よりもずっとからあげ需要が大きい国です。ソウルの飲食街に出かけると焼肉店よりもフライドチキンのお店が多いようにすら感じます。今年の10月、その韓国で店舗数ナンバーワンのチキンバーガーのお店「マムズタッチ」のポップアップ店舗が、渋谷に期間限定でオープンしました。  「マムズタッチ」は韓国で1400店舗を展開するハンバーガーチェーンで、その人気メニューが「サイバーガー」という鶏モモ肉のフライドチキンバーガーです。私はお店がオープンした翌日に、まだそれほど行列ができていないうちにと訪店したのですが、これが実に美味しかった。  ジューシーな部位を使ったフライドチキンとレタスをバンズに挟んだバーガーですが、味付けに甘いドレッシングがトッピングされていてこれが実にいい味を出しています。「料理として直球で美味しい」というのが一口食べた感想で、日本に本格上陸したら私の定番メニューになりそうだと確信しました。

■日本のからあげチェーンよりも倒産リスクは小さい  日本で着実に店舗数を増やしているのは同じ韓国の「bb.qオリーブチキンカフェ」です。こちらは「愛の不時着」などの韓国ドラマに登場するので日本人もご存知の方も多いかもしれません。日本での運営はワタミなのですが、このチキンはKFCとは別の方向性で衣も油も違う味でありながら新しく美味しい。同じワタミが運営する「から揚げの天才」よりも発展性が高いと私は感じました。  「マムズタッチ」と「bb.qオリーブチキン」を食してみてわかったことですが、これら韓国勢のフライドチキンはビジネスモデルとして日本のからあげチェーン店よりも倒産リスクは小さいはずです。  その理由は揚げるのに時間がかかるのです。「bb.qオリーブチキン」の場合、オーダーしてから出来上がるまで20分待たされたのですが、どうやらその間、低温でじっくりと揚げている様子なのです。「マムズタッチ」もそれなりに待たされたので、同じように調理方法に独自性があるのだと思われます。  からあげ店が急増した際に、フランチャイズを募集する側がアピールしていたのは、誰でも簡単に調理できるということでした。衣をつけてただ揚げればいい。油の温度と揚げる時間は最低限の調理ノウハウとして必要事項ですが、言い換えるとそれだけですぐに経営を始められるのが過当競争となったチキンレースの原因でした。 ■「簡単には真似できない調理法」だからチキンレースから離脱できる  逆に「bb.qオリーブチキン」の場合は健康に良いオリーブオイルを使って時間をかけて揚げるということですが、その揚げる方法がどうノウハウがあるのか外部にはよくわからない。けれどもサクサクとした衣でありながら、フライドチキンは骨からほろりと剝がれて食べることができる。これは簡単には真似できない調理法です。  欠点としてはこの「時間がかかる」ことがタイパ重視の日本市場でどこまで受け入れられるかということですが、それでも韓国発のフライドチキン文化は、日本市場のKFCとファミチキの牙城を崩すことができるだけの美味しさを持っていることに注目しています。真似ができないものが顧客を拡大させていけば、からあげ同士のチキンレースからは離脱できるようになります。  美味しい食べ物というものは、いつの時代でも成長ビジネスの可能性を持つものです。ただからあげの場合は過当競争で永続性を保てなかった。その視点で捉えると、今、静かに始まっているフライドチキンの競争市場は、からあげに代わる成長市場として期待できるのではないでしょうか。 ———- 鈴木 貴博(すずき・たかひろ) 経営コンサルタント 1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。 ———-

経営コンサルタント 鈴木 貴博

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