人生100年時代。“労働無間地獄”“第3号被保険者制度廃止”など、定年後への不安は尽きない。お金に困らない老後を手に入れるためにも、年収+αを生み出す副業はマストだ。
そんな中、60代からでもしっかり稼げる副業として注目が高まっているのが「レンタルおじいちゃん」だ。
◆1時間10万円の高額レンタルも
「レンタル依頼の3割が“還暦超え”レンタルです。シニア層がいないと成り立ちません」
そう話すのは、代行サービス専門のファミリーロマンス代表・石井裕一氏。拘束時間が1~2時間と短い案件が多く、一日に複数回の稼働も可能なため、月に30件近く請け負う強者もいるという。
「ひと口にレンタル業とはいっても、結婚の挨拶に同席したり、冠婚葬祭に出席したりする家族代行、音楽ライブや講演会への観客代行、不倫や仕事のミスに対する謝罪代行など、多岐に渡ります。経験豊富で落ち着きのあるシニア層は、若者に比べて安心感も高くニーズがあります。ギャランティは企業イベントへの参加や冠婚葬祭出席だけで1万円。不倫や仕事でのミスの謝罪代行の中には一時間10万円と高額な案件もあり、人気です」(石井氏)
◆家族レンタルではリピート利用多数
具体的には、どういった場面に出向くことになるのだろうか。
「家族代行だと、『両親がいなかったので家族の温もりを感じてみたい』という若者の父母を演じてもらったことがあります。また、一人暮らしで孤独に苛まれているシニアから『世間話ができる同世代をレンタルしたい』というオファーもありました。少し変わった案件としては、お叱り代行なんてものもあります。こちらもシニアの需要が高い代行ですね」(石井氏)
家族代行の単価は謝罪代行ほど高くないが、その後のリピートが多い利点がある。正月の集まりや出産の立ち合い、お葬式などイベント毎に呼ばれるようになり、何件か固定の客を持てば月に8万円くらいの収入になることも難しくない。
◆シニアの人生経験が生きる「お叱り代行」
少し変わった案件としては、お叱り代行なんてものも……。
「『もっと成長するために敢えて叱られたい』という人からオファーがくるんです。シニアの方は言葉のバリエーションが多くて叱るのが上手いため重宝されていますね」(石井氏)
また、ギャラ以外の点から、シニアたちに人気の高い案件は「イベントの観客代行」だとか。今までの興味のなかった世界に触れることができるため、新しい生きがいを見つけるきっかけにもなっているのだ。
「弊社の案件をきっかけにアイドルの推し活に目覚めたり、現場を通じて新しい友達ができた話をよく耳にしています。徐々に知り合いが減っていく年齢でもあるため、寂しさを抱えているシニアは多く、代行業を通じて新しい人生の楽しみを見出しているようです」(石井氏)
時間の融通が利くシニアは、イベント主催者側からもありがたい存在だ。では、スタッフ登録をするにあたっての必須条件はあるのだろうか。
◆登録は清潔感と高齢者らしさがあればOK
「ある程度の清潔感、そして“高齢者らしさ”です。違う自分を演じることやその場の雰囲気を楽しめるならどなたでもOKです。クライアントには、それぞれに合わせたサービスを提案しているため、いろんなシニアが必要なので間口は広くしています」(石井氏)
それぞれの仕事に細かなマニュアルが存在しており、結婚式のスピーチの原稿なども自分自身が用意することもない。会社からの指示通りに遂行すれば基本的には問題ないという。
「プロの役者になる必要はありません。台本がない分だけ、人生の経験が活かされる仕事です。スピーチなど+αの業務がある場合はギャラもプラスされますよ」(石井氏)
自分の世界も広がり、お金も稼げるレンタル業。時に祖父になり、父になり、頼りがいのある上司になれば、老後も稼いでいけそうだ。
【ファミリーロマンス代表取締役 石井裕一氏】
介護福祉士や広告代理店勤務などを経て、代行サービス業の株式会社ファミリーロマンスを創業。著書に『人間レンタル屋』がある
<取材・文/もちづき千代子>―[[死ぬまで副業]の極意]―