三陸沖で南方系の魚の目撃が急増している。今夏の記録的な猛暑などによる海水温の上昇が背景にあるとみられ、ダイバーらは今まで見たことのない形状や色彩の魚を相次いで発見。「磯焼け」をもたらすとされるアイゴも含まれ、関係者は危機感を募らせる。(気仙沼総局・藤井かをり、同南三陸分室・高橋一樹)
海水温の上昇が原因か
「南方系の魚は近年増えていたが、今年はひときわ多いと感じる」。岩手県大船渡市のNPO法人三陸ボランティアダイバーズの佐藤寛志代表理事(49)が語る。
佐藤さんらメンバーは今年、九州などに生息するとされる黄色と黒色のしま模様が特徴のコロダイ、琉球列島や小笠原諸島などに分布する細長い形をしたウナギギンポなどの南方系の魚と何度も遭遇したという。
宮城県南三陸町の志津川湾も同様の状況だ。南三陸ネイチャーセンターによると、今年初めて確認された南方系の魚はトゲチョウチョウウオやヒメゴンベなど20種以上。一方、かつて生息したオコゼカジカやチカなどは姿を消したという。
原因は海水温の上昇が関係していると考えられる。センターの阿部拓三研究員(49)は「猛暑の影響などで8月に海面水温が30度超の日もあった。魚は1度の変化を人間の10倍感じるといわれる」と説明する。
近年は温暖化の影響や暖かい黒潮の勢力が強まっていることも指摘されており「今後、志津川湾の生物相が大きく変化する可能性もある」と話す。
アイゴも急増「磯焼け」被害を懸念
三陸沖に現れた「珍客」の中には、沖縄など南方に生息し海藻を食べるアイゴの姿もあった。アイゴは藻場が消失する「磯焼け」の原因の一つとされる。大船渡市の越喜来湾でも8月ごろから現在まで、毎日のように姿が見られるという。
佐藤さんは「100匹ほどの群れが海藻の周りに群がり、アマモをかじりまくる様子を見た。こんなにたくさんやってくるのは初めてだ」と驚きを隠せない。
三陸ボランティアダイバーズは、磯焼けの原因となるキタムラサキウニを駆除・移植するなど藻場の再生活動に取り組んできただけに「どう対処したらいいのか」と頭を悩ませる。
アイゴは志津川湾でも急増している。南三陸ネイチャーセンターによると、2018年に初めて1匹確認して以来、定置網にかかることが珍しくなくなった。サイズも年々大きくなっているという。
阿部研究員は「アイゴは海水温が10度を下回ると動きが鈍くなるが、温暖化していれば冬を越せてしまう。いずれは駆除や有効利用を考える必要も出てくるだろう」と語る。