「金返せ」「車を買い取れ」クレームの嵐で現場は疲弊…不正発覚のダイハツ「経営陣が果たすべき責任」

「お客様に責められ続け、現場は疲弊していく一方。中には激しい言葉で攻撃してくるお客様もいらっしゃいます。もちろん、優しく励ましてくださる方もいらっしゃいますが……」

こう嘆くのは認証試験での大規模な不正が発覚したダイハツ工業の販売店に勤める女性社員だ。連日、ダイハツやトヨタの経営陣が会見を開いたり、陳謝したりする姿が報道されているが、実際、客からの激しいクレームに対応するのは矢面に立たされる販売店のスタッフだ。

「朝から電話が鳴りっぱなしです。『5年乗った車を買った金額で引き取れ!』とか。不正が認められた以外の車でも、とにかくダイハツの車というだけで、無茶な要求をしてきます。対象車種以外のキャンセルもすごいですよ。中にはいきなり連絡もなく、直接、車をお店にもってきて『この車、置いていくから今スグお金払って買い取れ!』といったこともありました。

もちろん、会社の不正によってご迷惑をかけているお客様には、誠心誠意対応させていただきます。ただ、肝心の会社がお客様への対応方針を示してくれないのです。明確な対応方法を早急に出してくれたらいいのですが……。とにかく現場は大混乱です」

自動車メーカーが新たに自動車を製造・販売する際には、さまざまな試験を受けて国交省や国連が定める所定の安全基準を満たすことが義務付けられている。それらにパスすることを「認証取得」という。

ダイハツは多くの車種において不正な方法でこれらの認証を取得したことが発覚したわけだが、始まりはなんと’89年だという。つまり、30年以上前から一部車種で行われていたことになる。

第三者委員会による調査報告書によると、

「当委員会が類似案件として認定した不正行為は合計174個(不正加工・調整類型28個、虚偽記載類型143個、元データ不正操作類型3個)であるが、一番古いもので’89年の不正行為が認められる。全体の傾向としては、’14年以降の期間で不正行為の件数が増加している状況が認められる」

とある。また今回の不正を受けて、親会社のトヨタはリリースを発表。問題の一因について、「’13年以降、小型車を中心にOEM(相手先ブランドによる生産)供給車を増やしており、これらの開発を依頼していたことが、ダイハツにとって大きな負担となっていた可能性がある」との見解を明らかにした。

ダイハツがトヨタの連結子会社になったのは’98年だ。さらに完全子会社になったのが’16年。リリースの通り、’13年からOEMなどの依頼を増やしたのだとすれば、不正件数が’14年以降、増加したことと無関係ではないだろう。

親会社による発注増加により、不正に手を染めざるを得なくなったのだろうか――。しかし、ダイハツのディーラーに20年以上勤務してきた西日本在住の整備士は「トヨタだけが原因ではない」と明かす。

「(開発を早く終わらせろ!という)トヨタの圧力だという声もあるようですがそれだけではないでしょう。なぜならトヨタの傘下に入るずっと前、OEMを作るようになったずっと前から偽装していたわけですから。長い間、開発部門においてそのような不正を行う土壌、上にモノが言えない環境があったと考えています。また、近年は激しいコストダウンによる品質の低下も気になっていました。不具合の理由がコストカットによるものだと思われるケースがたくさんあります」

大手自動車メーカーとして、長きにわたり不正に手を染めていたダイハツの罪は重い。はたして対象車種のオーナーたちはどうすればいいのか。腹立たしい気持ちもわからなくはないが、販売店に怒鳴り込んでいっても解決する問題ではない。ダイハツでは今回明らかになったすべての不正個所について社内の調査とは別に、国際的な第三者認証機関である『テュフ・ラインランド・ジャパン』(TRJ)においても検証が行われており問題ないという結果が出ている。さらに安全性を確認するためにいったん、全車種を販売停止として国交省が徹底した安全認証を行い、確認が終わったものから出荷が再開される予定だ。それらを受けて何らかの措置が取られるはずなので、販売店からの連絡を待つのが賢明だろう。

ダイハツには迅速で真摯な対応が求められる。

取材・文:加藤久美子

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