■なぜ日本人はジムニーを欲するのか?
この10年で様々なヒットモデルと言われるクルマが登場していますが、メーカーさえ予想しなかった大人気モデルと言えば、スズキ「ジムニー」シリーズではないでしょうか。
2018年に4代目モデルが登場した直後から1年待ちという長納期状態になり、現在ではAT車が2年待ちにまでなっています。
なぜこれほどまでにジムニーを欲しがるのでしょうか。
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全国軽自動車協会連合会がまとめた国内販売台数データを見てみると、2019年には3万台に達し、2020年、2021年は3万台後半、2022年には4万台を突破しました。
しかしこの数値にはシエラは含まれていませんからシリーズ全体を考えれば相当な数になるはずです。
ジムニーの歴史上、これだけの販売台数をわずか5年以内に達成したことはないはずです。
さらに欧州や豪州といった海外でもヒットを飛ばし、インドでは2023年6月に5ドアモデルが発売され、豪州でも12月5日に発売が開始されました。
日本でも5ドアの発売を待ち望む声が多いのですが、それでも従来型の3ドア車の売れ行きは止まりません。
このヒットの陰には、歴代のジムニーとは異なる傾向が要因と見られています。
それは女性ユーザーの大幅な増加です。
2023年始めに開催された副代理店向けの会合において、ジムニーユーザーの男女比で、女性比率が男性比率を超えたことが発表れました。
その差はわずかではありますが、歴代モデルの中でこのようなことはなかったと記憶しています。
女性ユーザーは「ジムニー女子」の呼称が付けられ、SNSやYouTubeなどのメディアで活発にそのライフスタイルを発信しているのも、現行型モデルならではの傾向のひとつです。
時代の違いということもありますが、なぜここまでジムニーが女性を魅了したのでしょうか。
多くのジムニー女子がまず口を揃えて挙げる魅力が、そのデザインです。
近年のクルマはトヨタの迫力のある造形に代表されるようなデザインが主流となっていました。
軽自動車でも、男性をターゲットにしたいわゆる「カスタム」モデルが女性に人気でしたが、もちろん万人がというわけではなく、ライフスタイルによってはそれを避ける傾向もありました。
では、スズキ「ラパン」に代表されるような女性向けのクルマはというと、そういう“らしさ”も敬遠するような層がジムニーに集まっているようです。
取材では多くの女性ユーザーが、ジムニーの丸目ヘッドライトに牽かれたと答えるケースが多く、2番目にスクエアなフォルムを挙げていました。
しかし、丸目に積み木のようなデザインというのは、実はありきたりです。
これを分析してみると、実は特別個性があるようなクルマではないジムニーこそ、現代の自動車市場ではかえって個性になっているわけです。
その普遍性も魅力のようです。
数年後ごとにモデルチェンジする国産車の中で、先代モデルでも分かるように、ジムニーは基本的なデザインが変わりません。
例えば3代目(JB23型)の1型でも、十数年後に発売された10型でも同じ。
つまり、オーナーはいつまでも古くささを感じることがないわけです。これについては、男性ユーザーも選んだ理由に挙げる人が多く見られました。
どこか愛らしく、普遍的なデザインが“相棒感”を感じさせ、結果、女性の様々なライフスタイルをサポートしてくれるような期待感に満ち溢れたクルマというわけです。
さらに、ジムニーの装備の“不足”も、女性の心をくすぐる要因のようです。
多くのジムニー女子は、マイルームのように車内を自分流にコーディネイトしています。
中には自作のアクセサリーをインストールしている人も少なくありません。これがまた、SNS上でバエるというわけです。
■男性層はどんな部分に惹かれるのか?
一方、男性ユーザーはジムニーのオフロード4WDとしてのタフなイメージに惹かれているだけでなく、趣味としての“拡張性”に注目します。
おそらく、ジムニーほどアフターマーケットの専用商品が多い車種も珍しいのではないでしょうか。
特に現行となる4代目ではそれが顕著になり、従来のジムニー専門メーカーのみならず、他の市場からも多くの企業が参入しています。
こうしたアイテムやパーツを使って、自分だけのジムニーが作れるのは、ホビー好きのきらいがある男性には魅力的に映ることでしょう。
例えば、ジムニー業界で老舗のショップ「アピオ」は、バイク用マフラーメーカーの「ヨシムラ」とコラボしたジムニー用マフラーをリリースしています。
バイクでヨシムラファンだった層が、クルマでもサイクロンマフラーを付けたいがために同社のコンプリートカーを購入したという人が多くいるといいます。
これはあくまでも一例で、ジムニーというクルマはかつての「ミニ」以上にカスタムの幅が広く、しかも様々なコーディネイトができるという特徴を持っています。
アウトドアライフを楽しみたいからという理由で購入したユーザーが、いつの間にかカスタム沼にハマってしまったという話は、ジムニー業界ではよく聞く話です。
納車後の物欲を適度に刺激するのも、ホビーとしてのクルマに求められる大切な要素と言えます。
さらに価格も絶妙で、現在の軽自動車の中では「高い!」と絶句するほどのではありません。
それでいてトールワゴンとは一線を画し、軽自動車のイメージが希薄なジムニーは、プライドという男心の点でも十分に満足感を与えてくれます。
いざとなれば、道なき道も走ることができるパートタイム4WDの潜在能力も、それに拍車をかけています。
荷室の狭さや装備の不十分さなど、ユーザーの不満になっている部分もあるようですが、トータル的には“買って良かった”という声が圧倒的に多いのがジムニーです。
これほど多くの人が所有しており、道を走れば1日に何台もジムニーとすれ違うことも、他人と分かり合いたい日本人の気質に合っているのかもしれません。
ちなみに、ジムニー、ジムニーシエラともATは全グレードで2年待ちの状態となっており、欲しくても簡単に所有できないというのもまた、ジムニーファンの心を掴む要因のひとつなのかもしれません。
5ドアモデルの国内販売も見通しがつかない状況ですが、MT車なら半年ほどで納車されるケースもあるようです。多くの日本人の心を捉えた空前の大ヒットモデルのジムニー、一度は乗ってみる価値のあるクルマです。