「ダイハツが34年も不正していた」と聞いても「でしょうね」としか感じないワケ

「こんなブラック企業は潰れたほうがいい」「ここまで信頼が地に堕ちたら解体的出直ししかない」「プレッシャーをかけていた親会社のトヨタにも責任があるのでは」――。

 国内軽自動車新車販売シェアNo.1を17年連続獲得しているダイハツがボロカスに叩かれている。車両の安全性を確認する認証試験での不正が発覚したことに加えて、それが古くは1989年から続いていたことまで分かったからだ。

 既に報道されているように今回の不正は、試験データの捏造や改ざん、車両や実験装置の不正な加工や調整、さらには排ガスの認証手続きで、試験直前にガスの浄化装置の触媒を新品に差し替えるなどで、ヘタをすれば認証取り消しの恐れもある。

長年にわたって行われてきた不正について(出典:ダイハツ)

「現在、出荷を停止いております」の文言が並ぶ(出典:ダイハツのWebサイト)

 ということで、生産している全車種が出荷停止。ダイハツ車を納車予定だった人々が大きな迷惑をこうむるという事態にまで発展している。

SafeFrame Container

 これを受けて、「あり得ない」と驚く人も多い。これまでリコールだ、検査不正だ、といろいろあったが基本的に日本人は「国産自動車メーカーはちゃんとしている」と信じて疑わなかった。それが34年もインチキを続けていた。「いや、安全性は問題ありません」といくら言われても、「国の認証でインチキするくらいなんだから、一般ユーザーをダマすなどお手のものだろ」と以下のように不信感を募らせる人も多いのだ。

 『ダイハツ不正「あり得ぬ」 利用者、驚きと憤り 出荷停止』(毎日新聞 12月21日)

(出典:ダイハツのWebサイト)

 ただ、報道対策アドバイザーとして、この手の不祥事企業の内情をのぞいてきた立場で言わせていただくと、「ダイハツが34年不正を続けてきた」と聞いても、「でしょうね」と納得感しかない。

 日本人が忘れっぽいだけで、この手のインチキは戦後ずっと続いてきた極めてトラディショナルな不正である。「あり得ぬ」どころか、「日本企業の文化」と言っても差し支えないほど「ありきたり」なものなのだ。

日本企業の毎度お馴染みの不正

 ご存じのように今の日本は人口減少によって、消費者と労働者が年々消えており、昭和に確立した「安くて高品質」というビジネスモデルや、それを支える生産方式がガラガラと音を立てて崩壊している。となれば当然、「安くて高品質」を実現するための不正も次々とバレていく――。

 本連載では神戸製鋼のデータ改ざんが明らかになった6年前くらいからそのように繰り返し指摘をしてきた。

数字を改ざんする動きが広がる(写真提供:ゲッティイメージズ)

 例えば2018年10月、『数の帳尻合わせが、日本のお家芸になってしまう根本的な原因』という記事の中で、筆者は「日本モノづくりのデータ改ざんはまだまだ続く可能性が高い」として、その理由を以下のように述べさせていただいた。

SafeFrame Container

 『ほとんどの企業でこのようなデータ改ざんは長年続けられてきた。基準が厳しいというのなら、誰か一人くらい文句を言ってもよさそうなものだが、監督官庁の員数合わせ的な基準に対して、モノづくり企業は黙って従い、現場も会社が掲げる数値目標に黙って従った。その「無理」のしわ寄せを検査担当者が「データ改ざん」でチャラにしたのである。

 つまり、モノづくり企業でデータ改ざんが多発しているのは、制度うんぬん、人手不足うんぬんという理由もあるが根本的な原因は、監督官庁と民間企業の「員数主義」による無理や矛盾を完成品検査の担当者たちが「帳尻合わせ」をしてくれていたのが続々とバレ始めている、と見るべきなのだ。』

日産自動車も完成車検査不正が明らかに(出所:ゲッティイメージズ)

(出所:ゲッティイメージズ)

 いかがだろう、今回のダイハツの不正も、第三者委員会の調査報告書では「過度にタイトで硬直的な開発スケジュール」に追い込まれた現場が、その「無理」をチャラにするために行ったと言われている。そういう意味では、昭和から脈々と続けてきた「日本企業の毎度お馴染みの不正」が、人口減少で疲弊した現場からの告発でバレてしまっただけの話だ。

結局バレてしまう

 では、なぜこうなるのかというと、先ほど再掲した過去記事の後半にも登場する「員数主義」というものが原因だと考えている。

 これは、評論家の山本七平氏が指摘していた旧日本軍の大保本営から現場の一兵卒まで蝕(むしば)まれていた「組織病理」だ。山本氏によれば、敗戦後に復員した人の多くが日本軍敗退の原因だと証言しているという。

 旧日本軍内では、部隊に支給される物資の現物数と、帳簿上の数が一致しているかを確認する員数検査というものが行われた。そこで帳簿の数と現物数が一致しないと、担当者から「馬鹿野郎! 員数をつけてこい」と怒声が飛んだ。

 これは「どこかから盗んででも、他部隊から奪ってでもなんでもいいからとにかく数字の帳尻合わせをしろ」という意味だ、と当時、下級士官だった山本七平氏は解説する。

SafeFrame Container

 つまり、員数主義とは「表面上の帳尻さえ合えば、ちょっとくらいの不正はセーフ」という組織文化のことなのだ。

 筆者はこの員数主義が戦後、形を変えて忠実に受け継がれたのが日本企業だと考えている。なぜかと言うと、企業危機管理の仕事をしてから、この員数主義を嫌となるほど目の当たりにしてきたからだ。

企業にもはびこる員数主義(出所:ゲッティイメージズ)

 さまざまな不正や不祥事の現場で、「納期に間に合わなかった」「いまさら仕様を変えたら取引先に迷惑がかかるので仕方なく」「ノルマを達成するためにはこうするしかなかった」という言い訳を聞く。つまり、日本軍と同じく、「員数を合わせるためには、多少のインチキや不正は許される」という考え方がまん延しているのだ。

 筆者もサラリーマンをしていた時代もあるので、どんなに見苦しい言い訳をしても組織を守りたい、という気持ちは痛いほど分かる。ただ、残念ながらダイハツを見ても分かるように、そういう員数主義はどんなに時間が経過してもバレてしまうものなのだ。

インチキが見つかることにショック

 「いやいや、日本軍と戦後の企業は結びつけるのはさすがに強引だ」と思うかもしれないが、戦後復興をして、現在の日本企業のプロトタイプをつくったのは、軍隊に復員した経験のある人か、戦時体制の中で「産業戦士」として軍需工場で生産に従事していた人だ。

 日本人は学校教育の弊害で、1945年8月15日を境に日本社会がガラリと変わったと勘違いしている人も多いが、現実はそうではなく、戦争が終わっただけで、社会ムードや組織カルチャーはバリバリに戦時中のものを引きずっていたのだ。

 だから、日本企業も日本軍のような「員数主義」がもたらす不正が当たり前のように残った。

ダイハツの不正は長年にわたって続いた(出所:ゲッティイメージズ)

ユーザーからは不満と不安の声(出典:ダイハツのWebサイト)

 分かりやすいのは、97年に発覚した「日立原発虚偽報告問題」だ。

SafeFrame Container

 これは日立がメインで手掛けた国内18基の原発の配管溶接の熱処理を巡る温度記録が虚偽報告されていたという不正だ。これも古くは82年ごろから、つまりは15年以上前から続いていたと内部告発で明らかになった。

 このときも日本人は「あり得ない」とショックを受けた。当時、日立や東芝は「世界一の原発技術」をうたっていた。日立側は放射性物質が漏れ出すなど安全性に問題はないと釈明していたが、そんなインチキが見つかることに以下のようにショックを受ける人が多くいた。

 『「品質の日本」根底揺さぶる 下請け任せ 信用失墜の危機』(日経産業新聞 1997年9月18日)

組織に忠実で真面目な人

 では、なぜそんなインチキをしたのか。当時、虚偽報告の「主犯」とされた下請け企業の社長は、「データが汚いと、親会社がいやがる」(同上)と動機を告白。さらに元請けの日立製作所の常務も、そういうプレッシャーに対して以下のように理解を示している。

 「仕事をもらう会社の立場にたって考えれば、仮にやり直しをさせられるとなると面倒だろうしその気持ちも……」(同上)

 もうお分かりだろう、今騒がれているダイハツの不正の「動機」と丸かぶりだ。80年代から日本のものづくり企業は「過度にタイトで硬直的な開発スケジュール」に追い込まれ、親会社のプレッシャーからデータをいじったり、虚偽報告をするなどのインチキを続けていたのだ。

過度にタイトで硬直的な開発スケジュールに追い込まれた(出典:ダイハツ)

 では、その「不正文化」はどこから来るのかをたどっていくと、80年代どころではなく高度経済成長期も、戦後の復興期にも見られる。その都度いろんなバラエティーに富んだ言い訳をするが、根っこをたどれば「納期のスケジュールに合わせようと」「過剰なノルマに追い込まれて」という数字合わせが理由で、インチキに手を染めている。

来年も不正が発覚か

 「社畜」という言葉があるように、日本企業を支えているのも「組織に忠実で真面目な人」だ。だから、旧日本軍と同様に員数主義にハマりやすい。そして、もうひとつ大事なポイントは「組織に忠実で真面目な人」ほどプレッシャーに弱いということだ。

 組織に依存しない柔軟な人は追い込まれたら「こんな会社、あり得ない」と転職できる。しかし「組織に忠実で真面目な人」は今の会社で居場所がなくなったら、「もう生きていけない」と思いつめてしまう。住宅ローンや子どもの教育費が頭にチラつく。

 だから、「自分がこの組織内で生き残るため」に不正に手を染める。ちょっとインチキをして帳尻を合わせれば、組織内での立場が守られる。そこには、エンドユーザーの不利益や、社会のルールを破っているという意識がスコーンと抜けてしまう。

ダイハツの「タント」

ダイハツの「ムーヴ」

 「社畜」が多い日本では必然的に、この手の「自己保身型の不正」がどうしても多くなってしまうのだ。

SafeFrame Container

 「終身雇用」「年功序列」というシステムをベースにしてきた日本のものづくり企業は、「クビの不安なく技術をつきつめられた」というメリットがあった半面、「組織にしがみつくためには不正もやむ得ない」という組織病理も育んでしまった。

 ダイハツの不正は氷山の一角に過ぎない。まだバレていないだけで、このような不正をしている企業はまだまだあるはずだ。

SafeFrame Container
タイトルとURLをコピーしました