SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長(72)、台湾の半導体受託生産大手・力晶積成電子製造(PSMC)ジャパンの呉元雄社長(62)が河北新報のインタビューに応じ、宮城県大衡村への半導体工場新設に向け、地元の企業や大学と連携を深める考えを示した。
EV移行で高まる需要に対応 北尾吉孝氏
―金融業主体のSBIグループがなぜ今、半導体事業に参入するのか。
「(2012年に経営破綻した)エルピーダメモリの事例で分かるように、半導体事業は技術だけでは駄目で資金調達力が必須。金融と半導体は関係したほうが良い効果を生む。地政学的リスクへの対応を迫られる台湾の事情や、半導体産業の復権を図る日本政府の助成金創設の動きもある。また車載向けを中心とする半導体は、強い見通しが立てられた」
「傘下に英半導体設計大手アームを有するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長から、半導体に関する刺激的な話を聞いたことも大きい。他にもいくつかの事象が重なって半導体について調べ始めた頃、台湾の提携先からPSMCの創業者を紹介してもらった」
「(過去に日本企業の技術協力を得るなど)歴史的に日本との結び付きが深い企業で、ご縁もあった。SBIとしても半導体を全くのゼロから始めるのは不可能で、PSMCから話を聞いているうちに、非常に良いタイミングではないかと思い、両者の思惑が一致して今に至っている」
―当面の課題は何か。
「建設工事は(来年の着工に向けて)順調に建設会社と話が進んでいる。建設費は予算を超えそうだが、多少はやむを得ない。(事業の前提となる)日本政府の助成金も事業の進捗(しんちょく)状況に応じて支給されるが、基本的に問題はない」
「台湾から迎える人たちの住環境や教育環境を整える必要もある。宮城県が非常に協力的で、地元の銀行がわれわれをサポートする体制を取ってくれた。県を挙げて支援に動いてくれている」
―どのようなビジネス展開を想定するのか。
「日本は幸か不幸か電気自動車(EV)への移行が遅れた。そのため(乗用車の主力が)ガソリン車からEVに移った時の半導体需要は、現在の3倍になる可能性がある。それに十分応えられるようにしたい。世界のEV市場も広がるだろう。一番狙い目の半導体を手がけようということだ」
「SBIは金融分野の各事業を有機的に結び付けて競争力を生むエコシステム(生態系)を築いて発展してきた。半導体でも同じように効率的で有機的な生態系をつくっていきたいし、また金融分野の生態系と結び付けて拡大させたい」
―仙台市に運営会社JSMCの人材確保拠点を置く。
「台湾から来る人たちが暮らす場を探したり、日本で採用した人を台湾に技術研修で送ったり、総務的なことを担う拠点は必要だ。24年の早い時期に開設したい。事業の進捗に従って大きくしていけばいいし、最終的には工場がある所に、オフィスや物流の拠点も作らなければならない」
―JSMCへの融資の枠組みをどう考えているか。
「ある程度まとまった融資では、SBIとの関係性が深い大手行などと話を進めている。海外の投資家も随分、興味を持っている。(宮城を含む)地元でもいくつかの銀行が一団になってサポートしてくれる機運が生まれており、非常にありがたい。取引のある企業が出資する形で関係性を強めることも考えている」
―SBIグループは資本業務提携するじもとホールディングス(仙台市)傘下のきらやか銀行(山形市)の業績悪化に伴い、12月に出資比率を33・9%に引き上げた。今後、どのように関与していくか。
「きらやか銀が公的資金を受けざるを得ない状況となって、SBIとしても増資を行った。過去において審査機能がお粗末な所があったようだが、同じようなことを起こさないよう仙台銀とよく話し合って機能強化を図ってほしい。ずっとSBIが助けられるわけではない。(きらやか銀が)8月に開設したネット支店が数カ月で100億円の預金を集めた。一つの地域にとらわれず柔軟な発想で経営してほしいし、その手伝いはわれわれもしていく」
(報道部・亀山貴裕)
人材育成、東北大とも協議したい 呉元雄氏
―半導体業界は人材不足が課題となっている。採用の見通しは。
「半年から1年のトレーニングプログラムを台湾で準備している。2027年の工場稼働に向け、25、26年には採用して、台湾に派遣しなければ間に合わない。できれば来年から少しずつ(募集を)かけたい。半導体分野の経験者はもちろん、未経験の若い人材もわれわれの力で育てたい」
―台湾は産学官連携で主要大学に「半導体学院」を設けている。東北、宮城での育成の展望は。
「東北経済産業局が半導体学院のコンセプトに共感してくれた。経産局は産学官の連盟(東北半導体・エレクトロニクスデザイン研究会)を設けている。例えばJSMCと東北大との間にプログラムを設け、入社に向けたインセンティブを用意するなど、東北大とも具体的に協議したい」
―起業支援などでビジネスを育成する考えはあるか。学生や若い研究者の活躍の場として期待される。
「(半導体の設計を請け負う)デザインハウスは、もっともっとあっていい。どこまでの支援ができるか分からないが、大きく成長すれば、製造を請け負うJSMCにとっても良いビジネスにつながる」
―宮城の工場のモデルとなるPSMCの新工場「P5」が24年、台湾に完成する。宮城との相乗効果は。
「半導体の製造は設計から量産まで大体2年間ぐらいかかる。来年始めると、量産はちょうど宮城の工場が立ち上がるタイミング。宮城は製造ラインもP5と同じ。台湾で先に試作まで進めて、宮城での量産につなげられる」
―宮城の工場では主に車載関係の半導体を手がける計画。自動車メーカーなど取引拡大の見通しは。
「全ての自動車関連企業をサポートしたい。どちらかに行く、どちらかには行かないではなく、コンタクトを図りたい」
―宮城県大崎市に研究開発拠点を置く電子部品大手のアルプスアルパイン(東京)と半導体製品の受託生産を協議している。
「積極的に関心をもっていただいた。全力でサポートしていく」
―組み立てなど「後工程」を含めた半導体サプライチェーン(供給網)の形成が期待されている。
「日本の後工程は台湾などに比べてコストが高い。PSMCの3次元積層(ウエハー・オン・ウエハー)は後工程に近い技術だが、競争力を高められると考えている。一緒に作ってくれる会社として、台湾の上場1社が関心を示し、日本進出を検討している。日本の電気自動車(EV)市場の拡大で、将来的な(半導体産業の)マーケット拡大を考えてのことだ。できれば(宮城県大衡村で行う)前工程の隣とか、近い場所で事業ができたらいいと考えている」
「他に関西の大学が声を掛けてくれた。連携する企業と共にJSMCに関心を示してくれている」
―最大250人ほどを台湾から宮城県に派遣する計画だ。住環境の対応は。
「この数カ月間、頻繁に宮城を訪ね、県からいろいろなエリアを紹介してもらった。住宅地は例えば(仙台市泉区の)泉中央は仙台と工場の真ん中ぐらいで、すごく良かった。台湾で希望者を募っている。家族連れと単身、どちらが多いかも含めて考える」
「台湾でのトレーニングプログラムの受け入れについても、住居や食生活などの検討を進めている。日本語を話せる社員もいる。仕事以外にもいい環境で生活できるようにしたい」
(報道部・三浦光晴)