中国は不動産バブル崩壊で「失われた10年」に突入するか「高層マンションが50棟も集まる巨大団地が…」

中国の不動産バブルがついに崩壊するのか、中国経済は今後どうなるのか……。

 2023年は中国経済の低迷が世界の注目を集めた。コロナ禍の反動から高成長が期待されていたが、蓋を開けてみると消費、輸出ともに低調。そして2021年から続く不動産市場の低迷はさらに深刻化している。

※写真はイメージです ©iStock.com© 文春オンライン

約11兆円という天文学的赤字を計上

 危機の嚆矢となった恒大集団(エバーグランデ)は前年、前々年の決算を2023年7月に遅れに遅れて発表したが、2年間で約11兆円という天文学的赤字を計上した。さらに創業者の許家印が当局の監視下に置かれていることも判明。建設資金をかき集めるための投資商品販売に詐欺容疑がかけられているようだ。同社はもはや実質的には破綻しているとはいえ、約48兆円にのぼる負債をどう処理するかという問題が残されている。

 中国不動産市場の問題は個別企業にとどまらない。最大手の碧桂園(カントリーガーデン)は2023年上半期だけで1兆円もの赤字を計上。資金繰りが難航し、債務不履行寸前で回避するという綱渡りを繰り返している。中国誌の報道によると債務不履行予備軍は68社にのぼるという。【傳濱野】《人気no.1黄金比シリーズ》たおやかな品格をまとった、濱野家のアイコンウォレットmietia Wallet(ミーティアウォレット) グリーン 緑

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 今回の不動産危機、その直接の引き金となったのは2020年夏の政策だ。過熱する不動産市況を引き締めることが目的だったが、「債務を削減しなければ新たな資金調達を制限する」というデベロッパー向けの規制が効きすぎた。「大大大!」、つまり債務を増やしてでも土地を買いあされば勝ちという勝ちパターンは一夜にして書き換わり、債務削減が至上命令となった。多くの不動産企業はまたたく間に資金繰りに苦しみ、物件の建設工事ストップが頻発した。これでは人民の不満が爆発すると、政府は慌てて工事完遂を厳命したが、今度は債務返済の金が足りなくなり……と悪循環が続いた。

 建設工事完遂は購入者にとっては福音だが、中国全体を見渡すと果たしてこれ以上作るべきなのかとの疑問もある。少なくとも一部地域での供給は過剰だ。

高層マンションが50棟も集まる巨大団地

 その実態を探るべく貴州省貴陽市郊外にある団地を訪ねた。市中心からはバスで1時間近くもかかる不便な場所を訪れると、忽然として十数階だての高層マンションが50棟も集まる巨大団地が出現した。碧桂園が手がけた物件だ。敷地出入り口は顔認証カメラ付きのゲートが設置され、コンシェルジュも待機しているハイソなマンションだが、住民の姿はまばらだ。夜になると、窓に明かりが灯るのは全体の2割に満たない。近隣の店舗も空きが目立ち、ゴーストタウンの雰囲気が漂う。ほとんどは投資用に購入し、入居せず空室のまま放置しているのだ。

 しかし貴陽市の中古マンション価格はこの2年で1割ほど下がっている。現地では「不動産価格は下がらないという貴陽の神話が崩壊した」と騒ぎになっている。住宅ローンを抱えた購入者たちは気が気ではないようだ。なにせ供給過剰は続く一方で、価格が戻る見込みは薄いのだという。このような明かりの灯らぬマンションは中国全土に無数にある。お住まいの地域までお届け - 人気アイテムをご用意 - 人気アイテムをあなたにお届け

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「不動産の供給は過剰だ。果たして空室がどれほどあるのか。30億人が住めるだけの物件があるとの意見もある。さすがにこれは過大だろうが、14億人分以上はあるだろう」

 賀鏗・元国家統計局副局長の発言だ。中国共産党内部からも異常なまでに積み上がった住宅在庫を危惧する声が上がっている。

致命的な打撃を受ける可能性は…

 中国不動産の現状を見ると、バブル崩壊は免れられないかのように思える。専門家の間では「中国は日本化するのか?」が話題となった。「失われた30年」とも呼ばれる日本が経験した長期低迷、中国も後を追うのではないか、と。

 中国経済が転換点を迎えていることは事実だが、日本とは状況は大きく異なる。日本のバブルは三大都市圏が中心で、崩壊後の価格急落も都市中心だった。中国ではむしろ問題は地方や郊外に集中しており、大都市部は需要も旺盛で値下がり幅も少ない。

 また、個人も企業も債務削減に奔走した結果、経済全体が縮小していくという、日本が陥った「バランスシート不況」についても、中国には利下げという対策の余地が残されている点も異なる。つまり、地方や郊外の不動産が大きなダメージを受けるのは免れられないが、中国の不動産市場全体が今すぐ致命的な打撃を受ける可能性は低い。

高齢化がもう一つの爆弾

 問題は猶予があるうちに、経済を不動産に依存しない、新たなスタイルに転換できるか、だ。習近平(シージンピン)総書記は就任以来、イノベーションの重要性を唱え続けてきたが、一方で不動産依存を克服する気配はない。その象徴が習近平総書記肝いりの国家プロジェクト、雄安新区だ。北京市南西約100キロの田舎に、ゼロから近代都市を作り上げる計画だ。

 ハイテク企業や研究機関が集まる最新スマートシティとの触れ込みだが、結局は田舎での不動産建設にほかならない。現地を訪問すると、高層マンション、オフィス街、コンベンションホールと箱物だけはそろっているが、人影は皆無のゴーストタウンだ。一時は企業の進出ラッシュも伝えられたが、看板だけ置いて人はいない会社がほとんどだ。イノベーション駆動を口にするのはたやすいが、骨の髄までしみこんだ不動産と投資に依存した発想と経済体質を変えるのは容易ではない。

 転換に手間取れば、もう一つの爆弾である高齢化が迫ってくる。2022年、中国の出生者数は1000万人を割った。2016年の1883万人からわずか6年でほぼ半減。出生率はすでに日本を下回り、日本化どころか「日本の優れた対策に学ぶべき」という声まで上がっている。この世代が結婚適齢期にさしかかるころには住宅需要が劇的に落ち込むことは確実だ。残された時間に抜本的な改革ができるか、厳しい試練が待ち受けている。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2024年の論点100 』に掲載されています。

(高口 康太/ノンフィクション出版)

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