ヨーロッパの自動車市場で、中国製EV(電気自動車)に対する逆風が強まっている。フランス政府は2023年12月14日、EV購入時の補助金支給の対象となる車種のリストを発表。そのなかで、中国製の3車種のEVが対象に選ばれなかったことが判明した。
【写真】石炭火力発電が主流の中国で生産された電池は、CO2排出量の算定が多くなりEUの規則をクリアするのが難しい。写真は中国の石炭火力発電所
対象外となった3車種は、具体的には中国の国有自動車大手、上海汽車集団の「MG4」、アメリカのテスラが中国の上海工場で生産している「モデル3」、フランスのルノーが中国・湖北省の合弁会社で生産している「ダチア・スブリング」だ。
石炭火力が主流の中国に不利
フランス政府は2023年9月、EVを購入する消費者に最大7000ユーロ(約109万円)を支給する補助金制度を改定すると発表。EVの製造工程や輸送過程で発生する二酸化炭素(CO2)の排出量を算定し、基準を満たせない車種は補助金の支給対象から外すと予告していた。
中国ではエネルギー供給に占める石炭火力発電の比率が高く、EVの部品製造や完成車の組み立て、それらの輸送などの過程で排出されるCO2の量が多くなりがちだ。例えば、中国のアルミニウム製錬のCO2排出量は、ヨーロッパの平均値の2倍を超える。フランス政府の新基準に照らせば、中国製のEVが補助金支給の対象になるのは極めて困難だ。
2023年1月から11月までのフランス自動車市場のEV販売実績を見ると、販売台数ランキングの上位4車種は前述の中国製の3車種とテスラの「モデルY」だった。モデルYはドイツのベルリン工場で生産されているため、補助金支給の対象外にならなかった。
石炭火力発電が主流の中国で生産された電池は、CO 2 排出量の算定が多くなりEUの規則をクリアするのが難しい。写真は中国の石炭火力発電所(中国国家電力投資集団のウェブサイトより)© 東洋経済オンライン
フランス政府の補助金制度改定の背後には、EU(欧州連合)が2023年8月に施行した、電池の原材料調達から製造、利用、リサイクルに至るライフサイクル全体のCO2排出量の申告を義務づける「欧州電池規則」がある。
今後は同様の制度改定がEU各国に広がるのは確実で、中国のEVメーカーや電池メーカーがヨーロッパへ進出する際の新たな障壁になりつつある。一部の中国メーカーは、EU域内に工場を建設して中国から生産を移転することで、CO2排出基準をクリアしようと動き始めている。
(訳注:欧州電池規則の内容や影響については『中国電池メーカーが身構える欧州「脱炭素の障壁」』を参照)
トルコやブラジルもハードル上昇
中国汽車工業協会の統計によれば、中国の自動車輸出台数は2023年1月から11月までの累計で441万2000台に達し、前年同期比6割近い伸びを記録した。ところが、その牽引車であるEVが外国の貿易保護政策の標的にされ、輸出が打撃を被るリスクが高まっている。
本記事は「財新」の提供記事です© 東洋経済オンライン
EUだけではない。トルコ政府は、中国製EVに対して(通常の輸入関税に上乗せする)40%の制裁関税を課すことを決定。ブラジル政府は、EVの輸入関税の減免措置を2024年1月から段階的に廃止することを決めた。
(財新記者:安麗敏)