辰年に参拝したい! 生命力と運気をアップさせる「龍神」を祀る神社6選

インドや中国から伝来した空想上の動物「龍(りゅう・たつ)」は、日本ではおめでたい存在とされる。辰(たつ)年にちなんで、龍の由来をひもとくと共に、龍神を祀(まつ)る神社を紹介する。

神社の装飾にも施される聖なる動物

江島神社提供

日本の龍には3つのルーツがある。中国の聖獣である龍、インド神話や仏典に登場する「ナーガ」、日本で古くから信仰されている水神だ。 中国の龍は、龍巻などの自然現象を神格化したと考えられる聖獣で、大蛇の胴体に鹿の角、牛の耳、虎の手にタカの爪、コイのうろこ、そしてナマズのような長いヒゲを持つ。すぐれた動物の特徴を兼ね備えた姿のため、めでたい霊的な動物「瑞獣(ずいじゅう)」として、皇帝のシンボルにもなった。 インドのナーガも聖なる動物で、巨大なコブラのような姿とされた。仏典では仏教を守る霊獣として登場する。 日本には、インドのナーガと中国の龍が混じり合って伝わった。すなわち、仏教の守護神という性質を持ちながら、姿は中国の龍というものだ。さらに、龍は風雨を呼ぶとの伝承から古来の水神信仰と結び付き、その聖地の海や水源地などには龍がすむとも信じられるようになった。 龍の像が神社の至る所にあるのは、こうした由緒が理由。水をつかさどる聖獣なので、手や口を清めるための水盤の蛇口にあしらったり、火災よけに社殿を飾る彫刻となったりする。神輿(みこし)の装飾にもなるのは、皇帝よりも高貴な神の乗り物であることを表現しているのだ。 装飾としてだけでなく、龍そのものを神として祀る神社もある。ご利益は祭神としたいきさつによって異なるが、降雨・止雨といった水に関わるもののほか、生命力や運を高める神秘的なエネルギーである「気」の象徴として、健康や長寿、勝負運などを増強する力を持つとされる。 ここでは、特に由緒がある龍神信仰の神社を紹介しよう。

江島神社(神奈川県藤沢市)

龍宮城(りゅうぐうじょう)を模したご神門 江島神社提供

最初に紹介する江島(えのしま)神社は、名前の通り湘南海岸の観光地「江の島」にある。才気と財運を向上する力を持つ女神「江島弁財天」を祀っており、江戸時代から参拝者でにぎわった。

伝説によると江の島は、6世紀半ばに弁財天の化身である天女が造ったという。当時、近隣の鎌倉では5つの頭を持つ龍が悪行を重ねており、それを見かねた天女が諭し、改心させたのだ。天女の降臨の際に誕生したのが江の島で、天女は弁財天として「奉安殿」に、龍は境内の「龍宮(わだつみのみや)」に祀られている。龍神は鎌倉時代の将軍・源頼朝の戦勝祈願や、執権・北条時政の繁栄祈願を成就したと伝わる。

九頭龍神社(神奈川県箱根町)

左:撮影スポットの箱根神社「平和の鳥居」 右:参拝船の桟橋の前に本宮の「湖上の鳥居」が立つ PIXTA

都心から程近い有名温泉地にある箱根神社は、芦ノ湖に立つ朱色の鳥居と富士山が一枚に収まる撮影スポットとして観光客に人気だ。その境内に九頭龍(くずりゅう)神社があるのだが、こちらは新宮で、本宮は北西3キロほどの「箱根九頭龍の森」の中にある。最寄りのバス停や駐車場からでも徒歩30分はかかるが、月次祭(つきなみさい)を催す毎月13日に限り、箱根神社近くの元箱根港から参拝船が発着するため、多くの人でにぎわう。

新宮前の水盤。9つの龍の口から出る「龍神水」は不浄を清める霊水 著者撮影

祭神の「九頭龍大神」は、かつては人々を困らせる毒龍であったが、高僧に調伏(ちょうぶく)され芦ノ湖を守る龍神となったと伝わる。商売繁盛・金運守護・良縁成就のご利益で知られ、特に縁結びを望む女性に人気だ。

勢多橋龍宮秀郷社(滋賀県大津市)

龍宮(りゅうぐう)伝説が残る「瀬田の唐橋(からはし)」 著者撮影

日本最大の湖・琵琶湖にも龍神がすみ、湖尻の瀬田川に架かる瀬田(勢多)の唐橋の下に龍宮があったという。龍神は近くの山にいた大ムカデに苦しめられていたため、通りがかった武士に退治を依頼すると見事に成し遂げた。礼として宝物などを授かった武士こそ、後に平将門の謀反を平定した豪傑・藤原秀郷(ふじわらのひでさと)だと伝わる。

左:境内は橋の東端にひっそりと鎮座 右:龍神と秀郷の2神を祀る本殿 勢多橋龍宮秀郷社提供

この秀郷と龍神を合祀(ごうし)するのが、橋のたもとにある勢多橋龍宮秀郷社だ。15世紀に成立した戦記文学『太平記』にも残る有名なエピソードだが、観光客にはあまり知られていない穴場スポットで、伝説にちなんで勝運のご利益が高いという。

都久夫須麻神社(滋賀県長浜市)

神社の境内は湖岸に面している 著者撮影

琵琶湖に浮かぶ竹生島(ちくぶしま)は、江の島と並んで、インド伝来の水と芸能の女神「弁才天(弁財天)」の聖地として有名だ。伝承によると弁才天は、ある時は天女となって衆生の願いをかなえ、ある時は龍神となって国土を鎮めるという。

島にある都久夫須麻(つくぶすま)神社(通称・竹生島神社)は、弁才天と共に龍神を祀る。境内の湖に突き出した岬に龍神拝所があり、鳥居が立つ。手前の高台から土器の皿(かわらけ)を投げ、うまく鳥居をくぐらせることができたなら願いが成就するそうだ。

室生龍穴神社(奈良県宇陀市)

室生川に架かる太鼓橋。龍穴神社はこの上流に鎮座 著者撮影

奈良の室生寺(むろうじ)は、深い山の緑に調和した堂塔と美しい仏像で知られる。室生川を渡った山の中には、龍のすみかだと伝わる「龍穴(りゅうけつ)」が点在する。日照りが続いた時などは、朝廷から使者が派遣され、龍穴で雨請いを祈祷(きとう)した。

右:龍穴神社本殿 左:吉祥龍穴は30分ほど歩いた山中にある 室生龍穴神社提供

「吉祥龍穴」もその一つで、ここにすむ龍神は室生寺の守護神でもある。そのため、吉祥龍穴を守る龍穴神社の例祭には住職も列席。水に関わるご利益だけではなく、2本の杉が根元でくっついた「連理の杉」があることから、縁結びのパワースポットとしても人気だ。

荏原神社(東京都品川区)

武家の信仰を集めた品川の総鎮守だった 著者撮影

都心にも龍神神社があるので、最後に紹介しよう。北品川の荏原(えばら)神社は、日本を代表する霊山の一つである奈良・吉野山の神社から龍神の神霊を迎え、709(和銅2)年に創建されたと伝わる。源氏や徳川家の戦勝祈願を成就させたことで「かなわない願いはない」とまで言われ、「品川の龍神さま」として信仰を集めた。

拝殿の屋根から龍が見守る 著者撮影

龍の意匠は神社につきものだが、社殿の上から参拝者を見下ろす龍の像は珍しく、これだけでも一見の価値がある。

【Profile】

渋谷 申博 宗教史研究家。1960年東京都生まれ。早稲田大学卒業。日本の神道・仏教・伝承・風習などに関わる執筆活動のかたわら、全国の聖地巡りに取り組む。『参拝したくなる! 日本の神様と神社の教科書』(ナツメ社)、『全国名所図会めぐり 航空写真と読み解く歴史絵巻』(G.B.)ほか著書多数。

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