ホンダは、グローバル向け新型EVシリーズ「Honda 0」のコンセプトモデル2車種『SALOON(サルーン)』『SPACE-HUB(スペース ハブ)』を、CES 2024において世界初公開した。2026年北米市場を皮切りに、日本・アジア・欧州など世界各地域で投入する計画。
Honda 0はあえて小型のバッテリーを搭載し、軽量化と低い空気抵抗、高効率化による走行抵抗の低減によって300マイル(約483km)以上の航続距離を目指すという方向性の新たなEVシリーズだ。「Thin, Light, and Wise」という開発アプローチと、5つのコアバリュー( 1. 共鳴を呼ぶ芸術的なデザイン / 2. 安全・安心のAD・ADAS / 3. IoT・コネクテッドによる新たな空間価値 / 4. 人車一体の操る喜び / 5. 高い電費性能)という5つのコアバリューが設定された。
ゼロシリーズのフラッグシップとなるコンセプトモデル、サルーンは、EV専用アーキテクチャーにより、ホンダ伝統のM・M思想(※)を形にし、低い全高でスポーティーなスタイルながら広い室内空間を両立した。インテリアは、シンプルで直感的な操作が可能なHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を採用。ステア・バイ・ワイヤに加え、ホンダ独自のロボティクス技術で培ったモーションマネジメントシステムをさらに進化させることで、EV時代における究極の「操る喜び」を追求した。
※マン・マキシマム/メカ・ミニマム思想。人間のためのスペースは最大に、機械のためのスペースは最小限にして、クルマのスペース効率を高めようとするホンダ伝統のコンセプト
もう一台のスペース・ハブは、ゼロシリーズ共通のデザイン言語のもと、「人々の暮らしの拡張」をテーマに開発したミニバン形状のモビリティ。フレキシブルなスペースをもつスペース・ハブが、人と人、人と社会をつなぐハブとなり共鳴を生み出す、という思いを込めたという。
これらゼロシリーズの「ゼロ」には、原点・出発点としてのゼロ、ゼロから新たなものを生み出す独創的な発想・新価値という意味のゼロ、そして交通事故死者・環境負荷ゼロという3つの意味が込められている。
そのような決意を込めて、ゼロシリーズには新たな「Hマーク」エンブレムを採用した。原点を超え、挑戦と進化を絶えず追い求める企業姿勢、両手を広げた様な形は、モビリティの可能性を拡張し、ユーザーに向き合う姿勢を表現したという。
◆現在のEVのトレンドとは逆を行くホンダの思想
ゼロシリーズの説明会に登壇した本田技研工業 執行役専務 電動事業開発本部長の井上勝史氏は、現在のEVは大きく重くなり過ぎているとし、ホンダはその逆を行くことを示唆した。
「昨今のEVの潮流を見ていますと、スペック競争がかなり過激になっていると感じています。(必要以上に)長い航続距離や、めちゃくちゃに高度なコンピューターを搭載するなど、お客様にとって本当に必要なラインをはるかに超えたところでの競争になっているのではないかと感じます。その結果、大きくて重いバッテリーを搭載して、正直に言って無理に車を大きくしているような気がします。今のEVはThickでHeavyでSmart、つまり厚くて重くてスマート、こういった潮流だと思います。
それに対して私たちが目指すEVの方向性は、薄くて軽くて賢い(Thin, Light, and Wise)。これをブランドの開発テーマとすることにしました。今の一般的な新興メーカーの方向性とはまったく逆になると思います」
そして井上氏は、このThin, Light, and Wise が具体的に何を指すのかを説明した。
「まず最初にThin(薄く)については、フロア高を抑えた薄いプラットフォームの設計によって、全高を抑えて空力を改善し、さらに重心が下がることによって動力性能が高くなります。Light(軽く)は、これまでの知見を活かして(車両を)軽く作ることによって電費性能を圧倒的に改善することを期待しています。Wise(賢く)については、AD/ADASやIoT/コネクテッド技術を活用して、ホンダならではソフトウェアデファインドモビリティを実現したいと考えています」
◆低い全高と室内の解放感をどう両立するか
ゼロシリーズのデザインを担当した本田技術研究所 常務取締役 デザインセンター担当の南俊叙氏は、低い車高と室内空間をどのように両立したかを説明した。
「BEVとエンジン車との大きな違いは、エンジンがないことです。ボンネットを無くした時の視界の良さであったり、前面投影面積を減らしながらも中が広く乗れるというのはどういう形かということを考えました。それと同時に、車が好きな方にもちゃんと納得していただけるスポーティーで美しく、ダイナミックな車をデザインしました。
全高が低いと中が狭くなるのは、特にスポーツカーではよくありますが、サイドウインドウを内側に寝かせると、車の形としてはすごくかっこよく見えるんです。しかし今回はあえて、サイドウインドウを立てて、室内空間をワイドにとりました。また、調光ガラスのルーフなど新しい技術も採り入れました」
「その結果、空力を徹底的に詰めながら、ワイドでスポーティに見えつつも室内空間には驚きの開放感があるという新しいデザインを達成しています」
またインテリアについては、「世界一美しいHMIを作りたい」とし、そのうえで美しさと機能要件をどのように両立するかを説明した。
「目指しているところは、世界一美しいHMIを作りたい、ということです。なぜ美しいのがいいのかというと、それによって視認性が上がり、またお客様の注意を惹きながらもちゃんと安全安心につながるからです。機能と美しさと融合することによって人の興味を惹く、そういうところを徹底的に追求します。
また昨今、特に関心が高まっているサステナブル素材についても、ただ使うだけではなく、人の感性に訴えるようなアートのような造形や次世代の技術も盛り込んで、感性に訴える美しさを、技術とデザインの両面で進めています」
◆小さいバッテリーで300マイルという方向性
ゼロシリーズは、独自のEV専用アーキテクチャーが用意される。技術的な部分の提供価値について、本田技研工業 電動事業開発本部 四輪事業戦略統括部 BEVビジネスユニットオフィサーの假屋満氏が説明した。
「AD/ADASについては、ホンダセンシング360によるレベル2プラスの性能を目標とし、ゼロシリーズには全車適用とすることを考えています。また2020年台の後半には、次世代の自動運転技術を搭載する計画を進めています。具体的には一般道でのハンズオフを米国Helm.ai社と共同開発し、高速道路でのレベル3の拡大を計画しています。また、AIと連動しながら進化するシステムを計画しています」
ソフトウェアデファインドビークル(SDV)に向けた取り組みについては、具体的な言及は避けながら、以下のような提供価値を示唆した。
「やりたいことがすぐできる・新たな体験・後から進化、という価値の提供を目指しています。ゼロシーズに搭載されるデジタルコックピットによる顔認証やAIとの連携によって、ストレスゼロ・楽しさマックスのUXを実現していきたいと考えています」
またゼロシリーズが提供する“操る喜び”について、新アーキテクチャーとホンダ独自の電動化・ダイナミクス技術を活用すると説明した。
「心と身体、車が一体となるような高揚感を実現する体車から機械になるような高度感を実現します。これまではハードだけで実現してきましたが、これからはソフトとの統合制御によって進化します。具体的には、モーションマネジメントシステムとステアバイワイヤに代表されるハードウェアの進化による新しい世界観の構築を実現していきます」
バッテリー技術については、少ないバッテリー容量で航続距離300マイル(約483km)を目指すと具体的に示した。
「ゼロシリーズに向けて、世界トップクラスの高効率パワーユニットを開発しています。同時に走行抵抗も減らすことで、容量の少ないバッテリーでありながら航続距離300マイル以上を実現します」
◆すでに走行可能なテスト車両がある
プレゼンテーションの後には質疑応答のセッションが設けられた。以下にいくつか紹介したい。
Q. 2026年以降はゼロシリーズ以外のEVは無くなってしまうのか。
A. 例えば日本では軽のEVなども展開していくが、グローバルの展開としては基本的にはゼロシリーズに収斂していく。
Q. グローバルでのEV市場全体の動きをどう見ているか。
A. EV市場は踊り場に来ているが、長期的にはやはりEVに向かっていくと考えている。我々はすでにEVメーカーとしては後発の立場になってしまったが、キャッチアップするためのモデルが用意できた、というのが今日の位置づけだと考えている。
Q. ゼロシリーズは前輪駆動か、後輪駆動か。
A. 後輪駆動で、操る喜びを実現していきたい。すでに動くテスト車両があり、運転することが本当に楽しい車だ。いままでの車とは完全に一線を画した新しい時代の車になる。
Q. トヨタがBEVファクトリーを起ち上げて専任組織として稼働しているが、ホンダでもそのような体制の準備はあるのか。
A. 今春に電動車事業開発本部を起ち上げており、トヨタのBEV専任組織とかなり似たコンセプトで一気通貫の機能を実現している。私(井上氏)が責任者として、現在5000人ほどの規模になっている。