「SNSでの精子提供」は実際どうなの? これまで40人以上に“無償提供”してきた20代男性に話を聞いた

デートや婚活、結婚式……恋愛や結婚にはお金がかかる。特に現代社会においては、働き方や生き方の多様化が進み、恋愛とお金に対する価値観も変容している。本連載では、これからの「恋愛とお金」について、アラサーの恋愛ライター・毒島サチコが取材をもとに考察。第21回は「SNSでの精子提供」について紹介する。

「『#精子提供』します」投稿主の正体は20代男性

「精子提供をしております。DMでのご相談をおまちしております」
「O型、無償、シリンジ法。精子提供の活動をしています」

X(旧Twitter)で、「#精子提供」と検索すると、上記のような投稿が目にとまる。SNS上では、遺伝子が無償~数万円で“取引”されているのだ。

SNSで精子提供を行っている男性は、一体どのような人なのだろうか。SNS上で、精子提供を行っている男性に話を聞いた。

「結婚したくないけど、自分の子どもはほしい」提供は無償

「結婚願望がないので、結婚し子どもを産む、というルートは考えられなくて。でも自分の遺伝子は残したいなと」

こう語るのは、ヨウジさん(仮名/20代後半/会社員)だ。彼は、SNSを通じて精子提供を行っている。提供は性交渉を伴わないシリンジ法で、金額は無料だ。

「SNSで『精子提供をしてほしい』と依頼を受けたら、実際にその方にお会いして話します。そこでお互い同意となれば、後日またお会いして精子を提供する形です」

今までにヨウジさんは、40人以上の女性に自身の精子を提供してきたという。

精子を提供した相手は、FTM(身体的な性は女性、性自認は男性)のパートナーを持つ人、無精子病の夫婦、選択的シングルマザーを望む人など、バックグラウンドもさまざまだ。

「年齢は、30代後半~30代の方が多いです。アラサーを過ぎて高齢出産に差し掛かり、最後の望みをかけて精子提供を決断した方が多いですね」

現在、ヨウジさんには、精子提供によってできた子どもが1人いる。

ヨウジさんは子育てには参画していないが、女性からは定期的に子どもの写真が送られてくるという。子どもはまだ幼いが、いずれ子どもが父親を知りたい、会いたいと言えば「子どもの出自を知る権利はしっかり尊重したい」と語る。

過去にはSNSの精子取引でのトラブルになった事例も

ヨウジさんの元には、日々精子提供を求める女性からの連絡が届く。しかし、このようなSNSでの精子提供がトラブルに発展したケースも。

2021年、SNS上で精子提供を受けて出産した30代の女性は、精子提供を受けた男性が国籍・学歴などを偽っていたことで精神的苦痛を受けたとして、約3億3000万円の損害賠償を求めた裁判を起こした。

女性は、男性が日本人で京都大学卒だと信じ、性行為による精子提供を受けていた。しかしその後、本当はその男性が中国籍で別の国立大学卒、さらに既婚者だったことが発覚した。女性は子どもを出産したものの、現在も児童福祉施設に預けている。

このトラブルについて、ヨウジさんはこう語る。

「僕は精子提供をした女性とトラブルになったことはありません。でも、僕が精子提供をした女性の中には、別の男性に精子提供をお願いしたら、卑猥(ひわい)な言葉を投げかけられ、強引に性行為をさせられそうになったという話は聞いたことがあります」

確かにSNSで「#精子提供」と検索すると、明らかに性行為が目的だと思われる投稿も目に付く。一方でヨウジさんがシリンジ法で精子提供を行っているのは「精子提供を受けたくても受けられない女性のため」だと語る。

「日本の公的な精子バンクを利用するためには、夫婦でかつパートナーが無精子病であるという条件があります。現在では、民間の精子バンクもあるようですが、僕が精子提供を始めた数年前はほとんどなかったし、個人間でやりとりするほうが楽だなと思って」

ヨウジさんは、自身のプロフィールについて、名前や住所などの個人情報は非公開。身長や、体重などの基本的な情報、IQや運動テストの結果、学歴、アレルギー、病歴、精液検査結果などはSNS上に公表している。

このSNS上でのプロフィールに、うそはないのか。

「匿名でやっている以上、僕が開示している情報のすべてが真実かどうか、証拠を提示するのは難しい。そこを理解していただいた上で、精子を提供しています」

多様化の裏で増えるSNSでの精子提供

日本の現行の法律では、精子をもらったり、買ったりする行為は規制されていない。

SNS上では、精子提供を求める女性の声も多くみられる。現状、公的な精子バンクが利用できるのは「法的に婚姻した夫婦」のみ。精子提供を求める女性のSNSのプロフィールを見てみると、アラサー以降で、結婚願望がなく、選択的シングルマザーを希望する女性が多かった。

多様性社会が進む中、SNSでの精子提供により、今まで子どもを授かることを諦めていた人たちが、子どもを考えることができるようになったポジティブな面はもちろんある。

しかし、精子提供をする人の投稿の中には、あきらかに性行為を目的としたものや、真偽不明のプロフィールをSNS上に公開したうえで、高額な金額で精子を売りつけようとする内容も見られる。個人間の精子提供には大きなリスクが潜んでいることを忘れてはいけない。

この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
(文:毒島 サチコ)

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