「デジタル広告のようにテレビCMを運用する」。そんな未来が訪れそうだ。2023年11月27日、日本テレビ放送網は、データに基づいてテレビCMを自動的に売買するプログラマティック取引プラットフォームを24年度末に提供開始予定と発表した。これにより、テレビCMの取引を即時化、自動化する。新型コロナウイルス禍が明け、地上波の広告収入は下降の一方。残存してきた文化にメスを入れる動きが始まった。
「テレビはオワコン(終わったコンテンツ)」。そんな言葉が、2010年代から度々聞かれるようになった。多くの人にとってはすでに聞き飽きたフレーズだろう。
何がオワコンといわれているのか。その根本にあるのは、長年続いてきたテレビ局独特の“文化”だ。視聴率を重視したマス向けの番組制作、GRP(延べ視聴率)を基にしたテレビCMの運用体制、スポット(番組に関係なくテレビ局の指定時間にCMを挿入する方式)などテレビ独自の広告枠の購入方法、ネットでの配信を制限する複雑な権利関係等々……。
24年は、それらのテレビ独自の文化が変わるきっかけとなる1年になりそうだ。
背景には、地上波放送収入の不調がある。電通が発表した「2022年 日本の広告費」によると、22年のテレビメディアの広告費は前年比2%減の1兆8019億円。足元の23年第2四半期決算においても、在京キー局の放送収入は全局前年同期を割り込む結果となった。
電通の「2022年 日本の広告費」の4マス媒体の推移。21年に新型コロナ禍から復調を見せたもの、22年には多くの媒体で前年比割れしていることが分かる(出典:電通 「2022年 日本の広告費」)
日本テレビホールディングス(以下、日本テレビ)は前年同期比6.4%減、テレビ朝日ホールディングスは1.9%減、TBSホールディングス(以下、TBS)は3.9%減、フジ・メディア・ホールディングス(以下、フジテレビ)は8.3%減、テレビ東京ホールディングス(以下、テレビ東京)は5%減といった具合だ(各局、23年度第2四半期決算資料から放送収入を概算)。
加えて、視聴環境の変化もある。けん引するのは、CTV(コネクテッドテレビ)の伸長だ。インターネット回線に接続されたテレビ端末が普及し、「TVer(ティーバー)」や「Netflix(ネットフリックス)」「Amazonプライム・ビデオ」「Hulu(フールー)」などのVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスをテレビで視聴する土壌が広がった。それに伴い、CTVなどのテレビメディアデジタル広告費は急成長中だ。
先述の2022年 日本の広告費によると、22年のテレビメディアデジタル広告費は358億円。21年は254億円、20年は173億円となっており、毎年40%以上の成長率を見せている。
デジタルメディアの成長を促しながら、いかに地上波広告費を維持するか。それが今後のテレビ局の最重要課題だろう。ただ、そこで大きな障壁となっているのが前述のテレビ独自の商習慣だ。
併せて、事前にCMを放映する放送枠を購入するという予約型に限定した広告枠の購入方法や、視聴率をベースにした効果測定、4営業日前にCMで放映する素材を決定しなければならないといった広告の運用方法なども、デジタル広告にはないテレビ独自の商習慣と言える。
実際、「(クライアント企業では)以前、デジタル広告を担当していた人がテレビ広告の担当につくことが多くなり、テレビ独自のやり方にとまどうケースが増えてきた」とメディアコンサルタントの境治氏は指摘する。テレビだけ異質の広告運用方法となり、テレビ広告出稿の障壁が高くなっていたということだ。