大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは

体に良いイメージしかなく、味噌、醤油など和食に欠かせない食材である「大豆」は、実は消化が難しく、摂りすぎは膵臓がんのリスクを高めるとの研究報告も。それでは、大豆のマイナス面を克服する一番、良い摂取法とは何か。アンチエイジングクリニックを開院した医師・満尾正氏の新著『ハーバードが教える 最高の長寿食』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して解説する。

* * *

■ソイプロテインなどの、長期間の過剰摂取は要注意

 大豆は和食には欠かせない食材であり、大豆を使った豆腐、湯葉、油揚げなどの大豆製品や、煮豆などの豆料理も種類が豊富です。大豆は良質なたんぱく源となるうえ、糖質、ビタミン・ミネラル、食物繊維もバランスよく含んでいます。また、大豆イソフラボンという微量成分が含まれています。

 大豆イソフラボンは化学構造上、女性ホルモン(エストロゲン)と似ているため、生体内でエストロゲン受容体と結合し、弱いエストロゲン様の作用を発揮します。更年期症状の改善のほか、乳がん、前立腺がん、骨粗しょう症などの予防に役立つと言われています。    

 健康に寄与する食材であることは確かですが、大豆偏重志向になって摂りすぎるのは考えものです。基本的に大豆は消化吸収が難しい食材でもあります。50年ほど前のマウスを使った動物実験でも大豆を与えたマウスの膵臓に負担がかかるということが実証されているのですが、近年、国立がんセンター研究所からも「大豆製品の過剰摂取は膵臓がんの発症率を増やす」という警告が出されています(注1)。

 実際に、私のクリニックでも、枝豆、豆乳、豆腐など、大豆食品ばかり食べていて、膵臓がんのマーカーが上がってしまった人がいました。

 こうしたリスクを経験的に知っていたのか、先人たちは体に消化吸収の負担がかからないように大豆を発酵させて食べるという文化を発展させました。それが日本独自の発酵文化によって生み出された味噌であり、納豆です。国立がんセンター研究所のデータでも、味噌、納豆では膵臓がんの発症率が増えるというデータが見られません。

 たんぱく質ブームもあって、サプリメントなどから大量にソイプロテイン(大豆たんぱく)を摂取している人も少なくありませんが、こうしたリスクもありますから、長期間、大量に摂取することには注意が必要です。ほどほどの摂取が賢明です。

■世界が注目する納豆のすごい実力

 大豆を加工した食品の中でも、おすすめの食品が「納豆」です。「スーパーフード」として世界で注目されています。納豆に特有の納豆菌は食品類の中で最も増殖力が強い菌として知られ、病原性大腸菌O-157の繁殖を抑えるほど強力であることがわかっています。腸内細菌叢のバランスを整えることができ、納豆菌があると乳酸菌のはたらきを強めることも知られています。

 また、大豆を発酵させて作っている発酵食品ですから、「大豆イソフラボン」という大豆特有のポリフェノール成分も摂取することができます。

 さらに、近年の研究で納豆に含まれる「スペルミン」というタンパク質の一種が細胞の代謝を促進し、体内の炎症を抑えることがわかり、健康長寿にも関係するのではないかと注目されています。

 納豆には、ビタミンD、マグネシウム、亜鉛など、現代人に不足しがちな栄養素も含まれています。特筆すべきは、ビタミンKが豊富なことです。ビタミンの名称は発見された年代順に決まりますので、Kは発見されたのが最も新しいビタミンなのですが、近年の研究で重要な働きがあることがわかってきて、ビタミンKの話題もよく耳にするようになりました。

 ビタミンKは動脈壁からカルシウムを抜き取り、骨へ移動させる作用があり、骨を作るのに欠かせません。動脈壁からカルシウムを抜き取るということは、血管へのカルシウムの沈着を起こりにくくするため、動脈硬化の予防効果もあります。納豆が作り出す酵素の一つ「ナットウキナーゼ」も消化管から血液中に取り込まれ、血液をサラサラにして血栓を予防する効果があります。

 和食に特有のスーパーフード、納豆の恩恵を享受しない手はありません。毎日納豆を食べる習慣を持つことで、長期的に体を生活習慣病から守り、健康長寿に寄与することが期待できます。

 国立がん研究センターのチームによる研究では、過去に循環器疾患にかかったことのない45〜74歳の男女約9万人に対する追跡調査で死亡リスクを調べると、毎日25g(半パック程度)の納豆を食べるグループは、全く食べないグループより循環器疾患で死亡するリスクが男女とも2割少ないという結果が出ています(注2)。毎日半分〜1パックの納豆を食べる習慣を取り入れましょう。

 納豆を冷蔵庫に常備して、おかずの定番にしてください。白いご飯の食べ過ぎには注意が必要ですから、「納豆はご飯にかける」というワンパターンな食べ方ばかりではなく、豆腐にかけたり、青菜と和えたり、納豆オムレツにしたりと、色々な美味しい食べ方を工夫してみましょう。

注1 Soy Food Intake and Pancreatic Cancer Risk: The Japan Public Health Center-based Prospective Study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2020 Jun;29(6):1214-1221. doi: 10.1158/1055-9965.EPI-19-1254.

注2 Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. Association of soy and fermented soy product intake with total and cause specific mortality: prospective cohort study. BMJ. 2020 Jan 29;368:m34. doi: 10.1136/bmj.m34.

●満尾 正(みつお・ただし)
満尾クリニック院長・医学博士。日本キレーション協会代表。米国先端医療学会理事。日本抗加齢医学会評議員。1957年、横浜生まれ。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、2002年、日本初のキレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを赤坂に開設、2005年、広尾に移転、現在に至る。主な著書に『世界の最新医学が証明した長生きする食事』『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』(アチーブメント出版)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)、『医者が教える「最高の栄養」』(KADOKAWA)など多数。

タイトルとURLをコピーしました