世界規模で男性の精子数が減少し、このままではいずれ人類が滅亡する――。そんなショッキングな論文があるように、精子は現代人にとって希少価値が高いものになった。
大事な精子を守り抜くための術はあるのだろうか?
◆「スマホの使用が多いほど精子が減少」
「ヒトの精子は、過去50年間で半減していると言われています。私が研究を始めた40年前は、一回の射精で10㏄以上の人もいましたが、今は5㏄でも珍しくなりました」
そう話すのは、男性不妊治療の第一人者である岡田弘医師だ。精子の衰えは、何も妊活をしている男性だけの問題ではないという。
「精液は血液、尿、唾液に次ぐ4番目の健康指標とされ、精液中に異常があるということは、健康にもなんらかの異常をきたす可能性が高い。子供をつくらないから関係ないというものではなく、精子の健常化は全男性に通ずる課題です」
大事な精子の健常化を妨げるものについて「TENGAドクター」として男性専門医療を行っている福元和彦医師は、「精子に良くない事柄は、主に電磁波、睾丸への熱、不摂生な生活、薬剤の4つに分類される」という。
「電磁波については、最新の研究で『スマホの使用が多いほど精子が減少すること』が発表されました。まだ研究を深める必要はありますが、患者さんにはスマホを体に密着させないよう、ポケットではなく、カバンにしまうことを勧めています。また、ノートPCを膝上で操作するのも、電磁波に加えて熱が伝わるのでNGです」
現代人に欠かせないツールが精子を殺している。
◆サウナやボクサーパンツが“精子を殺す”
睾丸への熱に関して、前出の岡田医師も警鐘を鳴らす。
「睾丸の温度は、体温より1~2℃低い35℃あたりが正常。30分以上継続して睾丸が37℃を超えると、精子はその機能が大幅に悪化します。近年のサウナブームが精子にダメージを与えるのは当然です」
オトコの“性”活習慣病を研究している小堀善友医師は、下着についてこう言及する。
「昔ながらのブリーフよりはマシかもしれませんが、近年主流になっているボクサーパンツは締めつけが強く熱がこもりやすいため、米不妊学会でも着用を控えたほうがいいとされています。精子には、通気性のよいトランクスがいい」
◆長時間のサイクリングは精巣を圧迫
小堀医師は、さらに「長時間のサイクリングも睾丸を温め、また精巣を圧迫するのでやめたほうが無難です」と続ける。自転車でウーバーイーツをやっている人は要注意だ。
◆“エナジードリンク”の弊害
次に、3つ目の「不摂生な生活」についてはどうか。
「精巣や卵巣は、体の中で最初に老化が始まる場所です。そのため、不規則な生活などによって生じ、老化の原因とされる酸化ストレスの影響をモロに受けます。不規則にならざるをえない日勤と夜勤の交代制をとる仕事は危うい」(小堀医師)
無論、現代人のカフェイン過多な生活も精子によくない。
「昔からカフェインが精子に良くないと言われており、コーヒーの飲みすぎが問題視されていましたが、今は眠気覚ましにコーヒーの何倍ものカフェインが入っているエナジードリンクを飲む人が増え、より深刻になった」(岡田医師)
◆「“オナ禁”が体にいい」は間違い
意外なことに、射精をしない禁欲生活も悪影響を及ぼす。
「自慰行為を我慢する“オナ禁”が体にいいなどと、まことしやかに囁かれていますが、これは大きな間違い。精巣の精子が全部入れ替わるには大体8回の射精が必要なので、2~3日に1回は自慰行為をしないと古い精子が溜まってしまうことになります」(岡田医師)
「妊活でよくあるのが、普段はセックスレスなのに、妊娠しやすい時期だけに集中して性行為をするということ。男性も、それに向けて精子を溜めようと禁欲してしまいがちですが意味がない」(福元医師)
◆「育毛剤の使用」もキケン
最後に薬剤の影響だが、近年問題視されているのが、育毛剤の使用だという。
「育毛剤に含まれているフィナステリドとデュタステリドという成分には、抜け毛を促進する男性ホルモンの作用を抑える効果がある。しかし、その男性ホルモンは精子形成に必要なホルモンなので、精子減少や性欲減退を引き起こす恐れがあります」(岡田医師)
◆「殺虫剤」が精子減少の原因に
さらに、アメリカの研究で殺虫剤が精子減少の原因となるという新説も浮上した。殺虫剤は極力使用を控え、使うとしても十分な換気に気を付けるべきだろう。
◆精子力を増強する方法を伝授!
では、精子力を増強するにはどうすればいいか。岡田医師は、射精回数を増やすことを一番に提言する。
「射精は排尿と違い、一度に精子が全部排出されるわけではない。精子の通り道に残る部分もあり、精巣の精子がすべて入れ替わるためには8回の射精が必要とされてます。なので、3日に1回の射精を1か月続けることで、質の高い精子がつくれます」
福元医師も「精子を出すために性的な楽しみを謳歌するのはとても重要」と語る。
「実際、不妊で悩む夫婦の中には、単にセックスレスで精子が衰えて、不妊になっているという例があるんですよ。不妊治療は全然うまくいかなかったのに、性生活が活発になったら、今までの治療は何だったのかと思うくらいすぐ自然妊娠できたというのはよくある話。あとやれることは、サプリの服用です。精子の原料となる亜鉛や精子の酸化を防ぐコエンザイムQ10がいいとされている。ピンポイントで精子だけに効く薬はいまだないので、サプリ頼みです」
小堀医師は「健康な生活習慣を心がける以上の解決策はないだろう」と述べる。
「精子の研究は、医療技術が進んだ現代になってもいまだにエビデンスがないという珍しい分野です。精子に良くないであろう行動は諸説ありますが、どれも確証はありません。ただひとつ言えることは、精子の劣化は生活習慣病のようなものであり、アンチエイジングの分野と似ているということ。こう言うと元も子もないかもしれませんが、規則正しい生活が一番なのです」
現代社会が生んだ精子減退を克服する特効薬は、日ごろの努力しかない。
◆精子を殺す“10の生活習慣”
(1)週2回サウナを3か月超
(2)育毛剤を使用している
(3)仕事に夜勤と日勤がある
(4)スマホは常にポケット
(5)ボクサーパンツが好き
(6)3日以上射精しない
(7)ノートPCを膝上で操作
(8)副業がウーバーイーツ
(9)毎日エナジードリンクを飲む
(10)ゴキブリは殺虫剤で退治
◆精子力を高める秘訣
精子にいいサプリを飲もう!
精子に直接効く医薬品は現状ないため、こまめにサプリで摂取。亜鉛やコエンザイムQ10など。
性行為をしよう!
射精で精子を循環させることで精子が新鮮に。オナ禁で精子を溜めて妊活に挑むのは逆効果。
規則正しい生活が一番!
精子減少は健康状態と密接に関わっている。基本的な生活習慣の見直しがものをいう。
【岡田弘医師】
獨協医科大学埼玉医療センター勤務。40年以上、男性不妊治療を研究。「膣内射精障害」など現代特有の男性不妊症のパイオニアとして知られる。
【福元和彦医師】
福元メンズヘルスクリニック院長。TENGAヘルスケア製品を治療に活用し、男性更年期障害やEDなど男性専門の診療を行う「TENGAドクター」。
【小堀善友医師】
プライベートケアクリニック東京の東京院院長。「Dr.小堀のオトコの性の研究所」と称して、射精障害・男性不妊症・更年期障害の治療を行う。
取材・文/週刊SPA!編集部 写真/PIXTA
―[[あなたの精子を殺す]10の生活習慣]―