韓国では合計特殊出生率が「0人台」に突入し、世界最低を更新している。韓国生まれの作家シンシアリーさんは「韓国の社会問題の特徴は、悪化のスピードが他の国と比べて、異常なまでに速いことだ。少子化も同様で、出生児数はこの10年で半数になってしまった」という――。(第1回/全2回)
※本稿は、シンシアリー『韓国の絶望 日本の希望』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■韓国の「合計特殊出生率0.7」の衝撃
少子高齢化は、日本でも大きな問題となっています。「合計出生率(韓国では合計出産率という表現のほうが一般的ですが)」を見てみると、日本は1.2人から1.3人といったところです。人口を維持するには2.1人必要だという話もあります。
一時はこの問題がまるで日本「だけ」のもののように論じられる時代もありましたが、最近はそうでもありません。世界各国で問題になっており、多くの移民を受け入れている米国でも1.5人まで下がっています。
言うまでもなく、各国は出生率対策に多くの時間と税金を使っていますが、そんな中、海外のメディアが韓国に注目するようになりました。累計で300兆ウォン以上を使っても合計出生率が2022年には0.78人まで下がっており、2023年下半期は0.7人にまで下がりました。
韓国の人口は約5000万人ですが、これだけの人口の国で、ここまで出生率が下がった例は、いままでありません。一部の学者たちの間では、「合計出生率0.7人というのは、戦時など大きな混乱がないと出てこない数値だ」という声も聞こえます。
■「大韓民国は完全に終わりましたね」
2023年8月、「わお、大韓民国は完全に終わりましたね」というフレーズが、ちょっとしたネットミーム(ネットでウケて、拡散していくもの)になりました。同じように自国をことさらに卑下する書き込みは、韓国のネット上に無数にあります。
ちょうど本稿を書いている頃には、アジア競技大会のサッカーの試合で韓国が日本に勝ったという理由だけで、「朝鮮人(原文ママ)どもが喜ぶのが気に入らなかった」と国旗を燃やして写真をネットに載せる人もいました(韓国の掲示板で韓国に対して、です)。
ちなみに、当時の日本チームはU-22(22歳以下)で、国家代表とは言えない戦力でした。こういう人たちは、少なくともまともな意味で「日本の味方」とは言えないでしょう。単に韓国が嫌いだから、韓国が嫌う日本を好きだとしているだけです。
■なぜ韓国人は憤怒を撒き散らかすのか
大体、日本の皆さんからして、韓国人がサッカーの試合結果を理由に韓国の国旗を燃やしたと聞いて、「嬉しい」「彼らこそ日本の味方だ」と思えますか? そんなはずないでしょう。「嫌い」の価値観で「好き」を語って、同調が得られるわけがありません。
これは、韓国関連のブログや本を書いている私だからこそ、「日本が好き」と書くたびに、自分で自分に言い聞かせる部分でもあります。帰化した経緯を記した『韓国人として生まれ、日本人として生きる』(扶桑社)という本を書いたばかりなので、特にそうです。
こんなふうに、韓国人が「韓国終わった」「終われ」「死ね」「全員死ね(以前は『~以外死ね』という表現が流行りましたが、最近は例外を置かずに『全員死ね』『国ごと滅べ』が多い気がします)」などと、憤怒を撒き散らかすのは珍しいことではありません。
「ヘル朝鮮(地獄のような韓国)」という言葉はあまりにも有名で、マスコミ記事などにも説明なしに使われたりします。ただ、流行語ならともかく、やりすぎると韓国では反社会的言動がすぎるとされ、下手すれば警察沙汰、裁判沙汰です。ちなみに、この国旗を燃やした人も、国旗毀損(きそん)を禁ずる関連法律で警察が追跡していると聞きました。
■「親韓派」学者の率直なコメントに共感
ただ、先ほどの「わお、大韓民国は完全に終わりましたね」は、そんな類のものではありません。なんと韓国に何の悪意も持っていない外国の社会学者が、つい口にしてしまった「(良くない意味での)驚嘆」です。
日本でいうとNHK・E(教育テレビジョン)のような放送局として、韓国教育放送公社(EBS)というチャンネルがあります。そのEBSの『ドキュメンタリーK~人口大企画、超低出産~』という番組で、カリフォルニア大学法科大学院名誉教授であるジョアン・ウィリアムズ氏の助言を得ようと、番組スタッフが韓国の合計特殊出生率データを教授に見せました。すると教授は、「こんなに低い数値の出生率を見るのは初めてだ」としながら、両手で頭を抱えて、「わお、韓国は完全に終わりましたね」と話しました。
教授は社会学者でもあり、韓国でよく女性問題、労働問題などをテーマに講演会を行っている、韓国で言う「親韓派」の女性です。写真は載せませんが、データを見た教授のお顔(表情)は、絶望と驚きでいっぱいの映画の名俳優のようでした。そのキャプチャー画像がSNSなどで拡散し、一気に有名になりました。「その通りですw」というコメントとともに。
■韓国の社会問題は異常なスピードで悪化する
韓国の社会問題関連記事を読んでみると、いつも二つの共通点があります。自殺率、学級崩壊、ニート(引きこもり)、出生率などなど、ほぼすべての案件での共通点です。
一つ目の共通点は、その過程です。まず「日本ではこんな社会問題がある」と、どことなく嬉しそうに韓国マスコミが積極的に報道し始めます。そして、しばらくすると「日本だけでなく他の国でも似たような問題がある」とされ、「韓国でも同じ問題がある」と報じられるようになります。またしばらくすると、その問題が日本では少しずつ改善され、韓国では悪化し、日本よりひどいと比較されるようになります。
さらにもう一つの共通点は、スピードです。「韓国にもある」とされた社会問題の悪化のスピードが、日本はおろか他の国と比べて異常なまでに速いのです。
合計出生率もそうです。すでに2018年から1人を下回るようになりました。2018年0.98人(出生児数40.6万人)、2019年0.92人(35.8万人)、2020年0.84人(32.7万人)、2021年0.81人(30.3万人)、2022年0.78人(24.9万人)。
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/maruco
■約10年で生まれる子供の数が半減
出生児数は2012年には48万4550人だったので、約10年で半数になりました。2023年になってからの月別出生児数も、1月2万3179人(前年同期比でマイナス6%)、2月1万9939人(マイナス3.7%)、3月2万1138人(マイナス8.1%)、4月1万8484人(マイナス12.7%)、5月1万8988人(マイナス5.4%)、6月1万8615人(マイナス1.6%)、7月1万9102人(マイナス6.7%)です。
2022年9月、これといった理由は特定できませんが、出生児数が前年同月比で13人増えたことを除けば、事実上2015年12月から91カ月間、出生児の減少傾向が続いています。
もうちょっと遡(さかのぼ)ってみましょうか。確認できるデータの範囲では、1970年の出生児数で、100万人を少し超えたことがあります。それから約半分(49万人)になったのが、2002年。100万人から半分になるまで30年以上かかったわけです。
そして、それから10年間は大きな変動がありませんでしたが、2012年(48万4550人)から2022年(24万9000人)にかけて、出生児数が半分になるまで10年しかかかりませんでした。
■韓国で少子化が急速に進んでいる理由
韓国側の記事では、このデータを「約50年で、生まれる赤ちゃんの数が4分の1になった」と表現する文章が、よく目につきます。ちなみに、地域別に見ると、特に首都ソウルの合計出生率が低く、2022年の合計出生率は0.59人という、とんでもない記録を出しました。2023年4~6月期では、0.53人です。
合計出生率の減少について世界的に同じ問題で悩む国が多いのは事実ですが、なぜこんなに韓国だけ「ずば抜けたスピードで」減少しているのか。それには理由があります。多すぎて困るほど、あります。専門家からも多くの指摘が出ていますが、まず、無難な指摘とされるものをいくつか取り上げてみます。
「仕事と子育てを並行するのが難しいこと」「全般的な経済的環境が思わしくないこと」「ソウルなど首都圏への集中がすごいこと」「子供のほとんどが何かの塾に通うなど、不思議なほど高い私教育熱(そのための費用負担)」、そして「住宅が高すぎること」などなどです。
結局、ある程度資産を蓄積できている人ならともかく、若い人たち、青年たちは、結婚したくてもできない、家庭を持つことの難易度が高すぎる、つまり子供をつくることが「無理ゲー」に挑むような状況だから、人口が減少するしかない、というのです。
■首都圏にヒト、モノ、カネが集中しすぎている
これは正論そのものではあります。「そうじゃない」と言うことはできないでしょう。ただ、分かっていてもどうにもならないのもまた事実です。いくつか少しだけ詳しく見てみます。
韓国では、2022年末基準で、全体人口のうち半分を超える50.3%(2605万人)が首都圏に住んでいます。日本では首都圏というとかなり広い範囲を指しますが、韓国は首都圏といっても、ソウルと京畿道(キョンギド)、仁川(インチョン)だけです。
他にも首都圏集中化をめぐって悩んでいる国は多いですが、それでも全体人口において首都圏人口比率は、イギリス(12.5%)、フランス(18%)、日本(28%)に比べて圧倒的です。どれだけよくできている都市でも、人が集中しすぎると、全員の教育、働き口、老後をカバーすることはできません。
全国1000大企業のうち529社がソウルにあり、売上基準で見るとさらに集中が激しく、ソウルが65.4%に上ります。他の首都圏の京畿道(182社・売上基準19.7%)と仁川(40社・同2.6%)を合わせると、1000大企業のうち751社(87.7%)が首都圏に密集していることになります。もうほかの地域には、「大企業は『ない』のが普通」と思ったほうがいいでしょう。
■子供も親も苦しめてきた「私教育」
2020年、勤労所得の年末精算(日本で言う年末調整)結果を基準にすると、上位1%の勤労所得者は19万4953人で、その75%の14万5322人が首都圏に集中しています。家の価格も、ソウル市で家を買うには、平均年収の27.7年分が必要です(東京は12.4年分)。
子供を幼児の頃から様々な塾に通わせる「私教育」もまた、世界的に有名です。軍事政権の頃から大学生(当時、大学生はすごいエリートでした)を家に呼んで子に個人授業を受けさせる、いわゆる「グァウェ(課外)授業」が、社会分裂を招くと問題とされましたが、それから様々な形になり、韓国の子供たちと、その親(の財布)を苦しめてきました。
特に英語関連での私教育はまさに狂風とも言えるレベルで、韓国では以前から舌小帯(ぜつしょうたい)が短い「舌小帯短縮症」の人が多く、英語発音の邪魔になるという理由で赤ちゃんの舌小帯を切断してきました。
■「英語幼稚園」の授業料は月14万円
2002年にはアメリカのロサンゼルス・タイムズが、「韓国では英語教育が宗教的なものになっている」としながら、この件を記事にしたこともあります。(「中央日報日本語版」2002年4月1日など)。ちなみに、詳しくは書きませんが、一部の宗教では体のとある部分を切る儀式がありますので、それにたとえて皮肉ったのでしょう。
シンシアリー『韓国の絶望 日本の希望』(扶桑社新書)
最近話題になっているのは、幼稚園児を対象に1日4~8時間の授業を行う「英語幼稚園」で、ソウルだけで300カ所以上あり、授業料は1カ月130万ウォン(2023年11月時点で約14万円)を超える所も多いと言われています。ソウルの英語幼稚園の授業料の平均を出してみると、4年制大学の平均授業料より高いそうです。
しかも、調査してみたらその講師の7割はライセンスなしの無免許外国人だった、とのことでして。もうどこからどうツッコめばいいのか分かりません。こういう話がニュースになると、韓国ではほぼ例外なく「あ、だからこんなにノーベル賞がたくさんもらえるのか」という皮肉コメントが付いたりします。
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シンシアリー(しんしありー)
著作家
1970年代、韓国生まれ、韓国育ち。歯科医院を休業し、2017年春より日本へ移住。アメリカの行政学者アレイン・アイルランドが1926年に発表した「The New Korea」に書かれた、韓国が声高に叫ぶ「人類史上最悪の植民地支配」とはおよそかけ離れた日韓併合の真実を世に知らしめるために始めた、韓国の反日思想への皮肉を綴った日記「シンシアリーのブログ」は1日10万PVを超え、日本人に愛読されている。著書に『韓国人による恥韓論』、『なぜ日本の「ご飯」は美味しいのか』、『人を楽にしてくれる国・日本』(以上、扶桑社新書)、『朴槿恵と亡国の民』、『今、韓国で起こっていること』(以上、扶桑社)など。
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(著作家 シンシアリー)