岩手・北上製ニット、英老舗も認めた! サヴィル・ロウの名店ハンツマンで販売へ 顧客は王室やハリウッドスターら

岩手県北上市に工場があるカシミヤ製品製造ユーティーオー(UTO、東京)のニットが今年、英国ロンドンの高級紳士服店ハンツマンで販売される。スーツ発祥地サヴィル・ロウの代表格とされ、各国の王室やハリウッドスターらを顧客にしてきた老舗で、日本製ニットを扱うのは初めて。小さな工場で10人余りの職人が織りなす北上製ニットが世界最高の品と認められた。(北上支局・江川史織)

スパイ映画「キングスマン」の舞台 飛び込み営業で取り扱い決まる

 UTOが用意するのはセーターとカーディガン、ベスト。各25色あり、オーダーメードが主流となる。現地の顧客の体形や希望に応じた製品を北上の工場で仕立てる。今年秋に取り扱いが始まり、既製品も店頭に並ぶ予定だ。

 カシミヤ糸は中国・内モンゴル産の最高級原毛を使用。職人が手作業で仕上げるセーターは1日十数枚程度の生産が限界だ。軽く滑らかな肌触りで、着れば着るほど体になじみ、10年以上愛用する顧客もいる。輸送コストがかかり、英での販売価格は最も安い製品でも国内の1・5倍の9万円前後になる見込みという。

 「世界一のカシミヤ」を目標に掲げるUTOは昨年5月、社員をロンドンに派遣。セーターと資料を片手にハンツマンに飛び込み営業をかけ、商談に応じてもらえた。同店のディレクターは縫製技術の高さに驚き「こんなセーターは見たことない」と絶賛、3日後に取り扱いが決まった。

UTO社長「岩手の人々の仕事ぶりがなせる技」

 ハンツマンは1849年創業で、高級紳士服店が立ち並ぶサヴィル・ロウでも最高峰の名店とされる。顧客には各国の王族や著名政治家のほか、クラーク・ゲーブルやグレゴリー・ペックら往年のハリウッドスター、ファッションデザイナーのココ・シャネルらが名を連ねる。近年は英スパイ映画のヒット作「キングスマン」の舞台にもなった。

 ハンツマンの米ニューヨーク支店や、オーストラリアの老舗紳士服店でも販売する方向で商談が進んでいる。欧米からはオンラインショップでの注文もあり、海外展開を本格化させる。

 UTOは山梨県に工場を構えていたが、職人の高齢化で人手不足に陥った。北上市で高い技術を持つ若手職人たちと出会い2011年10月、生産拠点を北上に移転。東日本大震災後に迎え入れてもらった恩返しとして毎年、被災地に寄付金を贈るなど地域貢献にも努める。

 宇土寿和社長は「手間をかけ丁寧に作る岩手の人々の仕事ぶりがなせる技」と強調。「目指すは世界一。北上をカシミヤニットの聖地にしたい」と夢を描く。

岩手工場の従業員は13人、編み立てから仕上げまで担う

 北上市郊外の田園地帯にある質素な平屋の工場。扉を開けると張り詰めた空気が漂う。少数精鋭の職人たちが神経を研ぎ澄まし、最高級のニットを編み出している。

 岩手工場には30代を中心に13人の従業員がいて、編み立てから縫製、仕上げまで一貫して担う。ニットを注文した顧客の体形や希望などの情報は、巨大な自動横編み機に入力される。駆動部がプリンターのように左右に往復し、サイズに合わせて袖、襟など五つのパーツが編み立てられる。

 工程のヤマ場は五つのパーツをつなぎ合わせる「リンキング」。縫い代を作らずに強く伸縮性のあるニットにするため、各パーツのカシミヤの糸同士を直接縫い合わせる作業だ。

 目を凝らし、無数にあるニットの編み目を一つ一つ指で拾い、針に刺して縫い上げる。最小2ミリ程度の細かい編み目を設計図通りに漏らさず、縫い合わせなくてはならない。一つでも漏れれば全体の縫製が崩れ、やり直しになる。

 「技を磨き、高めるには日々の積み重ねしかない。ただ、目は寄ってしまって肩は凝る。根気が何よりの秘訣(ひけつ)かも」。工場長の玉沢宏美さん(40)は笑う。パーツをつなぎ合わせる工程だけで3時間以上かかることもある。

 丁寧な手作業の結晶が評価され、北上から世界に旅立つ。玉沢さんは「品質の良さを純粋に分かってもらえた。世界で一枚しかないニットを届けたい」と声を弾ませる。

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