ダイハツは3車種「型式指定」取り消しで、今後どうなってしまうのか? 大手自動車会社の元エンジニアが考える

国交省、156件の不正確認

ダイハツ工業のロゴマーク(画像:時事)

 国土交通省は2024年1月16日、ダイハツ工業(大阪府池田市)の立入検査を実施し、新規14件を含む46車種(開発中・生産終了含む)で計156件の不正を確認し、 【画像】えっ…! これがトヨタの「年収」です(計11枚) ・不正行為が特に悪質な3車種の型式指定の取消し手続き開始 ・ダイハツ工業に対する是正命令の発出 ・基準に適合しないおそれのある2車種のリコール届出指導 を行うと発表した。  型式指定の取り消しは一体何を意味するのか、これを正確に理解している人は多くないだろう。  今回は、取り消しの影響、今後の展開、ダイハツとトヨタの対応について、大手自動車会社でエンジンの企画・設計・開発に長年携わってきた筆者(大庭徹、技術開発コンサルタント)が掘り下げていく。

型式指定を取り消された理由

自動車の型式認証制度について。型式認証の申請から新規検査までの流れ(画像:国土交通省)

 まず、型式指定とは、自動車会社が新型車を生産・販売する際に、保安基準に適合していることを国土交通大臣が事前に審査し、指定を受ける制度である。この制度は、新規検査時に1台1台提示する必要がないため、大量生産される同一車種の乗用車に広く利用されている。  わかりやすくいえば、「1式の申請書類が、同一モデル全車を代表する」制度で、指定されると型式指定番号が付与され、自動車検査証(車検証)に記載される。  今回、国土交通省は、3車種の型式指定を取り消した理由について、 「不正加工により量産車とは異なる車で試験をするという、特に悪質な行為が行われたため」 としている。また、不正な加工について、第三者委員会は報告書のなかで 「本来は制御コンピュータ(ECU)の指示により作動するべきエアバッグ等を、ECUの準備が間に合わなかったため、認証試験ではタイマーにより作動させた」 とした。対象車種は、 ・ダイハツ「グランマックス」 ・トヨタ「タウンエース」 ・マツダ「ボンゴ」 の3車で、いずれもダイハツのインドネシア工場で生産されている。2023年1~11月の国内販売台数は、 ・グランマックス:約200台 ・タウンエース:約5000台 ・ボンゴ:約2000台 だった。  当該3車種は日本国内では販売できなくなるが、ダイハツは2023年12月20日をもって全車種の生産・出荷を自主的に停止しており、市場に新たな混乱は生じない。  第三者委員会の報告書によると、国内で生産されている複数の車両で同様の不正が確認されたが、いずれも生産が終了しているため、型式指定を取り消す対象にはならず、こちらも市場に新たな混乱をもたらすことはない。

型式指定再取得への課題

不正行為は、2015年と2022年の件数が多い。2015年についてトヨタ自動車(以下トヨタ)は記者会見で、「(トヨタへの)供給が増えたことが、現場の負担になっていたと認識できず、反省している」と述べた(画像:第三者委員会)

 海外での生産・販売再開については、2023年の記者会見でダイハツが説明したとおり、各国の規制当局との交渉により決定する。  インドネシアとマレーシアでは、ダイハツが第三者認証機関による安全性の再確認結果を両国当局に説明し、承認を得たことから、12月25日に両国工場で生産を再開したことを明らかにしている。  今回型式指定を取り消された3車種はインドネシアで生産されているが、輸入車として型式指定を受けている日本ではまだ販売を再開できない。販売再開のために型式指定を再申請するには、まず国土交通省の是正命令に応じる必要がある。  国土交通省はダイハツに対し、1か月以内に「抜本的な再発防止策」を策定し、四半期ごとに実施状況を報告するよう求めている。  また、国土交通省は現在、道路運送車両法の基準への適合を確認するための試験を実施しており、その結果によって残りの43車種の生産・販売が再開されるか、型式指定が取り消されるかが決まる。

再発防止の実行可能・持続可能性

管理職に対して行った不正の根本原因に関するアンケートの回答結果。厳しい開発日程と順守のプレッシャー、そして人員不足が上位3項目(画像:第三者委員会)

 国土交通省の再発防止要求は次の3分類、9項目だ。 ●会社全体の業務運営体制の再構築 ・「経営幹部」の法規・認証業務に関する理解の徹底、関連業務運営責任の明確化 ・上位者に対する意見具申を抑圧するような「組織風土の一掃」 ・縦方向の報告ラインの機能回復、「部署間のセクショナリズムを廃する仕組み」の構築 ●車両開発全体の業務管理手法の改善 ・人材や試験車両などのリソースを勘案した「開発スケジュールの抜本的な見直し」 ・認証業務に不当なしわ寄せが生じないような「業務管理の徹底」 ・開発・認証に関連する業務についての社内規程の整備・作成と「責任の明確化」 ●不正行為を起こし得ない法規・認証関連業務の実施体制の構築 ・法規・認証関連業務への十分な人員その他「リソースの確保」の徹底 ・法規・認証、コンプライアンス、「技術者倫理に関する教育制度」の導入 ・認証申請プロセスにおけるチェック体制の構築、法規・認証に対する「深度のある監査」の導入 「車両開発全体の業務管理手法の改善」と「不正行為を起こし得ない法規・認証関連業務の実施体制の構築」は困難ではないが、「愚直にやりきる」ことが重要だ。しかし、最も重要な「会社全体の業務運営体制の再構築」の実行は一番難しいだろう。なぜなら、第三者委員会の報告書では 「経営幹部は認証業務の経験がなく、認証プロセスに対する関心も薄い」 と指摘されているからだ。彼らの経歴や年齢を考えれば、再教育は期待できない。抜本的な人材の刷新が必要である。  詳しくは、筆者が以前この媒体で書いた「ダイハツ不正「奥平社長は辞任すべき」 自動車エンジンに長年携わった私が願う“自己チュー組織”再生への唯一道」(2023年12月23日配信)をお読みいただきたい。

ダイハツ・トヨタの今後

経費削減のため2011年から法規認証室の人員と衝突試験用の人員が減らされた。その一方で、2015年以降はトヨタからの依頼業務量が増えた。法規認証室の人員は増員されたが、2011年以前のレベルには戻っていない。また、衝突試験用の人員は減らされたままだ(画像:第三者委員会)

 ダイハツは、 「認証申請業務の見直しにとどまらず、コンプライアンス意識を第一とした企業風土への抜本的な改革を行い、信頼回復に全社を挙げて取り組む」 とのコメントを発表した。また、トヨタの佐藤恒治社長は、ダイハツに 「身の丈以上の負担がかかっていた」 とし、今後1か月後をめどに「ダイハツの事業を整理する」とともに、「ダイハツの開発現場にトヨタの技術者を送り込む」考えも示した。  インドを中心に成長する新興国自動車市場で需要の高い低価格小型車に関するダイハツの開発力と人材・設備は、脱炭素技術開発を全方位で進めるトヨタにとって手放すには惜しい。トヨタが「ダイハツの再生を全面的に支援」するのは当然といえる。  今回の事件は、ダイハツにとっては「不適切な社内風土を抜本的に改革する」機会であり、トヨタにとっては、同社よりも歴史が長く「自己流を修正できないダイハツを再教育する」機会でもある。  消費者を不安にさせ、信頼を損ねたとはいえ、大きな迷惑をかけることはなさそうだ。前向きに考えれば、ダイハツとトヨタは「危機を好機にするきっかけ」をつかんだ。そして、両社の使命は「経済的損失を被ったサプライチェーン各社」への支援徹底であることを忘れてはならない。

大庭徹(技術開発コンサルタント)

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