「この避難所に不審者はいないけど…」「夜は絶対ひとりでトイレに行けない」能登地震被災した女性たちが訴える「本当に困っていること」

どれだけ着込んでいても、刺すような寒さで体がこわばる。暗く、長い石川県の能登半島の冬。 【画像】被災地ではのトイレ問題はこんなに深刻 「君と同じ若い女性の被災者に話を聞いてきてくれないか」  昨年の4月に新入社員として週刊文春に配属されて以来、初めての災害取材。ベテラン先輩記者にまじって被災地を訪れた私はそんな指示を受けていた。  寒さに震えながら、意識は膀胱に集中していた。昼間、水分を口にした我が身を呪う。尿意が頂点に達するころ、膨張しきった膀胱が下腹部に鈍い痛みを走らせる。深呼吸を繰り返して気を紛らわせようとしたが、鈍痛で意識が遠のくような感覚すら覚えた。  トイレに行けないことがこんなにもつらいことだとは――被災地取材の初日、断水の現実を自分自身で思い知らされた。だが、避難を余儀なくされている女性の被災者たちはこんなことを言う。  「夜、トイレには絶対一人で行かない」 ◆◆◆

被災地の深刻な課題

 2024年1月1日16時10分、能登半島を震源として発生した地震は正月気分を一掃した。13日までに220人が亡くなり、安否不明者は26人、重軽傷者は1000人超。  生活への影響も深刻だ。張り巡らされた道路、電気、水道といったライフラインはずたずたになり、避難所に身を寄せる人々に今も不便を強いる。  飲料水は救援物資として行政、ボランティアの手によって迅速に被災者たちの手元に届いた。だが、風呂、洗濯、便所に必要ないわゆる生活用水が足りない。

 被害の大きかった石川県輪島市内では、それぞれの避難所のそばに複数の仮設トイレが建てられたが、絶対数の不足は否めない。トイレへのアクセスは被災地の深刻な課題といえる。 「現在は知人宅に身を寄せていますが、そこも断水してしまって水が流れないから避難所の仮設トイレを利用しなければなりません。でも、夜は怖いので、一晩中尿意を我慢することもあります」(30代女性)

トイレの問題はほかの支援と同じくらい重要

 避難所生活を送る、別の30代女性もこう語る。 「夜、どうしてもトイレに行きたくなったら家族など誰かを絶対に誘うようにしています。夜の仮設トイレは扉を閉めると真っ暗になってしまうので、すごく怖いから」  災害時の女性支援に力を入れて活動してきたNPO法人「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」の代表理事の正井礼子氏が言う。 「被災した女性にとってトイレの問題はほかの支援と同じくらい重要なのです。トイレを屋内の明るい場所に設置することや女性専用スペースを作ることは、避難所で女性の安全を守るうえで、必要不可欠です」  被災者支援に関する国際基準に「スフィア基準」というものがある。支援にあたり、衛生、食糧、住環境や保健状態といった各分野の望ましい水準を定めたものだが、同基準はトイレへのアクセスを整えることも、被災者にとって欠くことのできない支援であると説く。だが、能登で避難生活を送る女性たちにとって、トイレへ至る道は険しくなっているのが現状だ。

ひとりでトイレに行けない――女性たちの悲痛な訴え

 10代の女子中高生らは口を揃える。「夜、一人でトイレには行けない」。ある中学3年生の女子生徒はこんな話をする。 「ここでは不審者を見たことがないけど、他の避難所の周辺では出没したとSNSで出回っていました。不安です」

 ひとりでトイレに行けない――女性たちの訴えは重い。  女性被災者特有の課題はほかにもある。輪島市立中学で避難所リーダーをつとめる市職員の上浜真紀子氏の話。 「トイレットペーパーとおむつは震災発生の1日に、生理ナプキンは2日に自衛隊が届けてくれました。生理ナプキンについては、声をかけてくれた利用者に、場所を案内するようにしています。量が確保でき、仮設トイレもしっかり男女別にできれば、個室内に設置する予定です」

今回の震災で生かされた、過去の教訓

 プライバシーを保護できるような段ボール型のテントが数多く設置されているのが目についた。 「阪神淡路大震災の時、仕切りがなくバスタオルで体を巻いて着替えるほかなかった中学生、そして大勢がいる前で母乳をあげざるを得なかったお母さんたちが『周りの吸い付くような目が怖かった』と、避難生活から何年も経ったあとも話していたことがありました」(前出・正井氏)  過去の教訓は、今回の震災でも生かされているようだ。「女性の避難所リーダーだからこそわかることには配慮するようにしている」と上浜氏が続ける。 「小さい子供を抱えた母親に積極的に声をかけるようにしています。子供はむずがって頻繁に泣きますが、お母さんは我が子がどうして泣いているのかは、すぐにはわからないもの。周囲の目もありますし、泣きっぱなしの子供を抱えた母親ほどつらい思いをする人はいませんから」  震災は老若男女を選ばない。それぞれのニーズに適う細やかな支援が求められている。

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