<ヤマト運輸・現場が大混乱>“業務効率化”で正社員が一斉退職、人員補充は委託業者頼りの本末転倒「実はクール便の品質にも問題が起きていて…」

日本郵便との協業発表に伴い、数万人規模の“委託・パート切り”が明らかになったヤマト運輸だが、ここにきてヤマト側が態度を一変。「クロネコメイト」やパート社員に配置転換を打診しているという証言を#3で報じた。しかし、現場で混乱しているのは正社員も同様のようで、退職も相次いでいるという。

ドライバーの分業制で現場は大混乱

日本郵便との協業により、ヤマト運輸の小型荷物の配送に携わる「クロネコメイト」と呼ばれる個人事業主およそ2万5000人だけでなく、メール便などの仕分け業務に携わるパート社員(契約社員)数千人も”リストラ”の対象に入っていたことがわかったのは、去年10月のこと。

その後、茨城県土浦市にあるベース店(ターミナル拠点)で働くヤマトのパート社員18人が労働組合を結成し、10月16日に団体交渉を行なったところ、ヤマト本社は対応を一転。パート社員の契約終了を見直し、配置転換を含む雇用継続を提案する方針となった。

ヤマト社員に配布された「外部労働組合に対する自衛策」についての通達書(読者提供)

しかし、一度抱いたヤマト本社への不信感は拭えない。それは正社員も同様のようだ。都内の営業所で正社員ドライバーとして働く50代男性はこう語る。

「これは本社の人間から聞いた話ですが、ヤマトは数年前よりセンター(営業所)の集約化をすることで利益率の向上を目指しているそうです。今回の委託、パート切りもその動きのひとつだと思われます。結局のところ、パート社員は配置転換で落ち着きましたが、今後は本社の人員を現場に振り分け、正社員だけで現場を回していく狙いもあるそうです」

しかし、現場はそんなに単純なものではないとも。特にこの男性が迷惑しているのが、都内の一部主管(エリア)で始まったドライバーの「分業制」だという。

「もともとヤマトのドライバーは『SD』(セールスドライバー)と呼ばれ、集荷や配達のほかに営業も行なうのが基本でしたが、分業制により、配達専門の『DD』(デリバリードライバー)やクール便専門の『CD』(クールドライバー)に分かれたんです。

クール便は、7月のお中元、年末年始のクリスマスケーキ、おせちなど通常期と繁忙期で物量がまるっきり変わる予想しづらい荷物。それだけに今回の分業制の導入で『繁忙期に間違いなくパンクする』とドライバーの間でささやかれています」

(撮影/集英社オンライン)

1年前から始まった「CD」の部署に異動した別の社員男性は「業務効率化とはほど遠い」と断言する。

「CDは従業員を苦しめるものでしかありません。ヤマトは営業所を各地に多く構えているため配達員ひとりに対して担当区域が狭く、たくさんの荷物を配れるのが強みでした。しかし、CDで配達範囲を広げたことで、個々の配達に時間がかかってしまう。

分業制によってクール便の鮮度が保たれ、品質がよくなると本社は言ってますが、トラックいっぱいに荷物を積んでいるから荷台を開けるとすぐに荷物が温まってしまい、品質に大問題が起きています。そのうえ、年収も100~200万円下がるから誰もやりたがらない。おもに主管支長がCDを指名していますが、『指名されたら罰ゲームだ』ともっぱらです」

慣れないエリアへの統合で「そのうち事故を起こすよ」と退職者も

こうしてセンターの集約化によって去年6月に引き起こされたのが、都内のある主管で起きた大量退職。およそ20人以上の正社員が一斉に自主退職して深刻な人出不足に陥り、8月には都内全域から応援が駆けつける事態に発展した。

応援に駆り出された首都圏在住の40代の正社員男性は当時をこう振り返る。

「自分は早朝に電車に乗ってヘルプに駆けつけたんですけど、なかにはビジネスホテルに前泊した社員もいました。現場の主管のドライバーに聞くかぎり、やはり一番の原因に挙げられるのがCDだったそうで……。

無理やり異動させられたドライバーが『ふざけんな』と怒り、同業他社や別業種に転職するために大量に自主退職したとのことでした。そもそも同じ主管で一斉に何十人も辞めるなんて聞いたことがないし、その人員を埋めるために今度は委託業者がメインになるらしいです。まさに本末転倒って感じですよね」

クロネコヤマトの営業所(撮影/集英社オンライン)

また、江東区の営業所で正社員として働いている男性からはこんな声が聞こえてきた。

「センターの集約化によって、中央区のほとんどの営業所と江東区の一部の営業所が有明にある大型のセンターに統合したのですが、これが現場からは批判の嵐です。中央区は交通量が多いこともあり、ドライバー全員がトラックではなく台車で荷物を運ぶというスタイルで『台車センター』と呼ばれていました。

しかし、有明のセンターに統合されたことで、中央区までトラックで配送しなくてはならなくなったんです」

中央区のドライバーは長年トラックに乗っていないペーパードライバーがほとんどだったため、本社は千葉県の教習所で講習会を開いたという。だが、現場がそれで納得するわけがない。

「運転に慣れてない人にいきなり『2トントラックを運転しろ』というのは無理があります。中央区は銀座などもあって交通量がハンパないし、パーキングエリアなんて簡単に見つからない。なので、中央区のドライバーは『そのうち事故を起こすよ』と不安を口にしていて、もう4、5人は辞めてますよ」

(撮影/集英社オンライン)

大パニック状態の現場だが、この件についてヤマト本社に問い合わせると、以下のような回答があった。

「いずれのご質問も個別の事案のため、回答は差し控えさせていただきます。当社は、EC化の進展やお客さまのニーズ・流通構造の変化など、社会・市場環境の変化に対応するため、ネットワーク全体の品質・効率性の向上に取り組んでいます。また、『2024年問題』など物流業界が抱える社会課題の解決に貢献し、持続可能な物流サービスの実現に向けて、日本郵政グループとの協業をはじめ、さまざまな取り組みを進めています」

本社に振り回される現場の従業員たち。そして止まらない人材の流出。いくら大手配送サービス会社とはいえ、人材までも他社へ送り届けしまうとは皮肉な話だ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

タイトルとURLをコピーしました