松本さん騒動をめぐる報道と世論に見える「風向きの変化」とは?写真は2022年11月、オリックスの優勝パレードを前に行われた「御堂筋ランウェイ」に登場したダウンタウンの松本人志さん(右)と浜田雅功さん(写真:共同通信)
1月17日、文春オンラインが松本人志さんに対する第3報を配信。「6、7人目の告発者が…松本人志『ホテル室内写真』と『女性セレクト指示書』」という見出しで、性加害疑惑の証言者が増え、さらに“指示書”の存在が浮上して、再び物議を醸しています。
ここまでの報道を振り返ると、12月26日の第1報は「《呼び出された複数の女性が告発》ダウンタウン・松本人志(60)と恐怖の一夜『俺の子ども産めや!』」、1月9日の第2報は「松本人志『SEX上納システム』3人の女性が新証言《恐怖のスイートルームは大阪、福岡でも》」でした。
センセーショナルに繰り広げられる文春報道
「俺の子ども産めや!」「SEX上納システム」「女性セレクト指示書」というセンセーショナルかつキャッチーなフレーズは、松本さんにとって間違いなくネガティブなものであり、共演者やスタッフ、スポンサーなど多方面への悪影響から活動休止を決断したことがそれを物語っています。
さらに、これから松本さんを待ち受けているのは、「3~5年。長引けば10年もあり得る」「勝つのは極めて難しい」などと言われる長く苦しい裁判。また、その過程でこれまで以上に「もう松本人志では笑えない」というイメージが広がるリスクもあるのでしょう。
ただ、そんな逆風一辺倒に見える松本さんにも、活動休止の発表から10日あまりが過ぎた今、わずかながら風向きの変化も見えはじめています。いったいそれはどんなことで、どうすれば活路を見出せるのでしょうか。
もちろん、松本さんが本当に性加害を行ったのであれば、活路を見出せる可能性は低いと言わざるを得ません。裁判前の今、ここでは決して誰かに肩入れするのではなく、フラットな目線から現状を見つめ、今後の行方を占っていきます。
「悪手」続きでますます不利な状況に
確かに、第1報から松本さんの言動には、世間の人々に疑問を抱かせ、「ガバナンス不全では?」と思わせるところが少なくありませんでした。
とりわけ自身のXにつづったコメントは、そのすべてが悪手。昨年12月28日の「いつ辞めても良いと思ってたんやけど…やる気が出てきたなぁ~」は、上から目線の上に具体性に欠けて疑惑を深めてしまいましたし、証言者女性の“お礼メール”が報じられた5日の「とうとう出たね。。。」は、証拠としては弱すぎるうえに、「裏で手を回した」という臆測を呼び、8日の「事実無根なので闘いまーす。それも含めワイドナショー出まーす」は、身勝手に出演を宣言する傲慢さを感じさせてしまいました。
(画像:松本人志さんのXより)
(画像:松本人志さんのXより)
(画像:松本人志さんのXより)
また、第1報の直後、所属先の吉本興業が「当該事実は一切なく」などのコメントを発表しましたが、これこそ松本さんにかかわるガバナンスの乱れそのもの。「飲み会」「性的行為」なども一切ないというニュアンスのコメントをさせたのは、会社に恥をかかせたようなものであり、世間の人々にも嘘をついたような印象を与えてしまいました。
さらに、報じられている内容の真偽こそわからないものの、もし勝訴したとしても、「複数の不倫は確実だろう」「大物とは思えないうろたえ方だった」「遊び方がセコイ」などの悪いイメージを払拭することは難しいでしょう。
誰がどう見ても、この手の戦いは『週刊文春』のほうが慣れていますし、多くの情報やノウハウを持っていて、負けづらい方法を選べるし、もし負けても大きなダメージは受けづらいなど、松本さんの不利は否めません。そのうえ、松本さんが第1報から対応を間違え続けたことで、ますます不利な状況になったのは間違いないでしょう。
そのうえでアップされた第3報のポイントは、証言者が7人にまで増え、しかも異なる時期や場所での行為で、当事者たちにつながりがなさそうなこと。松本さんにとっては、さらなる裁判の長期化は避けられず、性加害の信憑性にもつながりかねない危機的状況がささやかれています。
ただそれでも、すべてが逆風というわけではありません。第2報のあたりから松本さんの行動に対するわずかな”成果”が見えはじめているのです。
世間が語りはじめた「週刊誌」への疑問
その“わずかな成果”とは何なのか。それは『週刊文春』をはじめとする週刊誌やゴシップ系メディアに対する疑問の声。松本さんの性加害疑惑は別にして、彼のファン以外からも週刊文春や週刊誌の姿勢を疑問視する声がジワジワと増えているのです。
実際、第三報のあとXには次のようなコメントが書き込まれていました。
「松本人志を庇う気はないんだけど、女性セレクト指示書とかって合コンとかでもあるんじゃないのか? 合コンでもお持ち帰りとか聞くんだが、それとこれと何が違うのか?」
「『システム』とか『指示書』なんてご大層な名前つけちゃってるけど、こんなん後輩に女遊びの相手見繕ってもらってただけでしょ? 松本人志じゃなくても芸能界なら普通なんじゃないの?」
「文春もネタないならもう辞めたらいいのに徐々に文春否定派(松本人志擁護派)が増えてる印象 本当にレイプ被害者(とされている方)を助けたいなら、『セックス上納システム』とか『女性セレクト指示書』とか如何にも大衆受けするような下衆なワード使わないでしょ」
「松本人志騒動の続報を大々的に公開するもあまりにも内容弱くてネットで逆にドン引きされるwセレクト指示書等もはや無関係な話で印象操作しだす」
「文春砲第3弾とやら、文春にアクセス稼がせるのも癪なので読んでないけど、いろいろおかしいね。 ・ネタが20年前(松本人志氏はまだ独身) ・『合意の上の性行為』の話であって、性加害関係ない ・証拠がホテル写真やら指示書やら、いくらでも捏造可能で物証となり得ないものばかり」
決して、週刊文春に否定的な声だけをピックアップしたのではなく、コメントの多くがこのような声だったのです。
さらに、15日に第1報を載せた週刊文春の「45万1000部完売」と「有料会員2万3000人突破」が発表され、編集部から感謝のコメントが報じられた際も、同様に否定的な声が多数派を占めていました。
「45万部完売」に向けた冷静な目線
「週刊文春は有名人の性加害について告発してその雑誌が完売で発行者が大喜びの感想を発信してるけど、性加害の被害者がいての記事であって、その事実が真実と確信するならばよけいに『祝完売』的な発信は軽すぎやしませんか?」
「週刊文春は痴漢を捕まえる動画で荒稼ぎした私人逮捕系YouTuberと同じことをしているだけなのよね。そこに正義は無いけど需要があるから文春は完売したし私人逮捕も大流行した」
「文春はこれで何をしたいのか分からない。 罪を問うには時間経ちすぎだと思う。 誰得?と思うが、白黒抜きに部数売れると得する連中はいるんだよな」
「松本人志の性加害疑惑報道の週刊文春が45万部完売で売上は2億円以上。仮に名誉毀損裁判で敗訴しても慰謝料は200~300万円」
「ある芸人の事で、週刊文春は完売。どれだけの人が読んでるのか?これではメディアハラスメントが改善される訳もなく、長い裁判に突入して、どちらが白か黒かわかった時には皆白けているような気もする。このままでいいのか?本当にいいのか?」
中には、過去に週刊文春と裁判して勝訴した有名人のまとめ記事をアップした人も何人か見られました。
たとえば、2022年12月に、松本さんの後輩である霜降り明星・せいやさんのプライバシー侵害や名誉毀損による訴訟で、週刊文春に330万円の支払いを命じる勝訴。
2022年6月に木下博勝医師がセクハラ疑惑による名誉毀損で、週刊文春に110万円支払いを命じる勝訴。
2023年4月に片山さつき参院議員が名誉毀損で、週刊文春に330万円の支払いを命じる勝訴。
また、自身のXに東国原英夫さんがつづった週刊文春に勝訴したエピソードを引き合いに出してコメントする声も目立ちます。
「肉を切らせて骨を断つ」?
その木下医師は家族のYouTubeチャンネルで、「週刊文春がイコール全部100%正しいというわけではない。中には苦しめられて被害にあっている人もいるんだということを、声を大にして伝えたい」と語っていました。
その他にも、昨年6月から「週刊文春 電子版」がサイト上で取材費の寄付を募っていることを問題視し、「能登の被災地に寄付してほしい」などと訴える声もありました。
その取材力と書き口の巧さ、「結局、気になって見てしまう」という戦略も含め、週刊文春の凄さを認めつつも、「やりすぎではないか」「力を持たせすぎではないか」という声が上がりはじめているのです。もちろん「巨大な人や組織を叩いて引きずり落とし、快感を得たい」という人がまだまだ多いのですが、一方で多くの人々は冷静なのかもしれません。
今回の報道に関しても多くの人々から、「松本さんにも週刊文春にも肩入れせず、フラットな目線から情報を集め、学びながらコメントしよう」という姿勢がうかがえます。おそらく百戦錬磨の週刊文春なら、このように賢くなった世間の人々をあなどることなく、政治・経済などのスクープを交えながら信頼性を担保しようとするのでしょう。
ただそれでも今回の騒動で世間の人々が得た情報や学びは大きく、ズバ抜けた力を持つ週刊文春に限らず、他の週刊誌やゴシップ系メディアも含め、少なからずダメージを受けていることは間違いありません。これは松本さんがどう見ても不利な裁判に挑むという「肉を切らせて骨を断つ」ような選択を選んだ成果ではないでしょうか。
「書き得」「書かれ損」は変わるか
筆者には、松本さんが本当にやりたいのは、自身の名誉回復だけでなく、週刊文春や週刊誌の存在意義や取材姿勢を問うことのように見えてならないのです。
後輩たちのためにも、世間の注目を集めたうえで、できれば負かしたいし、勝てなくてもダメージを与えることで「書き得、書かれ損」の現状を変えたい。もし松本さんの頭にそんな思いがあるのなら、現在、得られた”わずかな成果”をいかに保ち、広げていくかが重要でしょう。
だからこそ松本さんは裁判こそ控えているものの、しかるべきタイミングで女性への対応や不倫関係の有無など、性加害以外の部分で問題があったかもしれないところは認めてもいいのではないでしょうか。
真実はまだわかりませんが、確かなのは、証言者の中に不快な思いをし、怒っている女性がいること。だからこそ、そうした人たちには真摯な対応が求められますし、少なくとも松本さんには名誉毀損の裁判で争う姿とは異なる一面を見せてほしいところです。
一方、週刊文春は今後も性加害の証拠につながる記事を追求するでしょう。ただ、世間の人々はそれ以上に「別のスクープでもその取材力を発揮することで確固たる存在意義を示してほしい」と考えているのではないでしょうか。
(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)