松本人志が“異常な権力”を築くに至った背景。島田紳助引退と「巨大化願望」

週刊文春(昨年12月27日発売号)にて性加害疑惑報道がなされ、記事への対応ならびに裁判に注力するため休業宣言をしたダウンタウンの松本人志。 【画像】松本人志の内面を読み解くうえでは欠かせない作品  週刊誌ではその後、第二、第三の告発が報道されるなど、日々刻々と状況が変化している本件。ともに報道で名前の挙がったスピードワゴンの小沢一敬も活動自粛を発表しました。  今回の騒動について、映画やドラマなどのエンタメ解説で人気の東京大学法学部卒業の芸人・大島育宙さん(XXCLUB)が自身のYouTubeチャンネルで持論を展開。その考察に注目が集まっています。(以下、大島さんの許可を得て大島育宙【エンタメ解説・映画ドラマ考察】で公開の動画『松本人志さんは〇〇の被害者です【切り抜き禁止】』から構成しています)

松本人志の「巨大化願望」説

 松本人志さんについて僕は元々結構自分なりの説を持っていまして、それは「巨大化願望があるのじゃないか」という“陰謀論・都市伝説”なんです。  松本さんが筋トレを始めたのが38~39歳ぐらいだと言われており、そこからどんどんマッチョになって40代前半には「ムキムキだ」といういじり方をされ始めていたと思うんですよね。  松本さんが初めて監督を務めた映画『大日本人』(2007年公開)は、フェイクドキュメンタリーコメディという感じなんですけど、松本さん自身が扮する大佐藤大という、ヒーローが電流で巨大化して怪獣と戦う話です。  で、この映画は構想5年と当時触れ込まれていたので、39歳ぐらいから構想していたことになるんですよね。44歳になる年に公開だったので、筋トレを始めたタイミングと『大日本人』を構想し始めたタイミングと同じなんです。自分の体をデカくしたいという巨大化願望が、まさに『大日本人』になってますよね。  どんどん胸筋が発達してマッチョになって、体がどんどんでかくなっているということは、これはあながち冗談でもなくて、自身の巨大化に気づいていないということでもあると思うんですよね。

松本人志の権力性を検討する機会

 これは、ただの松本人志ウォッチャーとして長年温めてきた論を、今この松本さんに注目が集まってるタイミングでみんな聞いてよ、という形なんです。  現在、多くのYouTube動画で公開されている、松本さんが性加害をやっていた前提で話している論は、基本的にまずいと思っています。それよりは、松本人志という人物、そして現象の権力性というものを検討するタイミングに来ているということだと思うんですよね  松本人志さんの最近の話だけじゃなくて、いかにして今の権力を築くに至ったのかという歴史を話さなければいけないというのは、本気で思っていることなんです。

島田紳助の引退で増した松本人志の需要

 松本さんが、1人のプレイヤーや、最先端でお笑いを開拓する開拓戦士というポジションじゃなくて、ゲームを俯瞰する王様になり始めた時期というのが、2011年の島田紳助さんの引退の本当に直前なんですよね。  2009年に始まった『IPPONグランプリ』は企画自体松本さんが長年やってきた大喜利の形式だし、松本さんがプレイヤーではなくてチェアマンという形式で座ってますよね。『人志松本のすべらない話』(フジテレビ)もそのちょっと前(2004年)から始まってますけど、あれも企画は松本さんだし、松本さんがゲームマスターのパーティーにみんなを招待したというポジションで座っています。  島田紳助さんはゲームメーカーをやっていた人なんですけど、だんだん『ヘキサゴン』(フジテレビ)や『深イイ話』(日本テレビ)など、お涙ちょうだいという“素敵やんモード”に突入していって、ビジネスの人としてどんどん評価されていくようになりました。結果的に不祥事で退場したので、松本さんがお笑いのゲームメーカーとしてのポジションっていうのは2つの意味で空いていたんですよね。  紳助さんが“素敵やんモード”に突入してだんだんお笑いじゃなくなると同時に、物理的にもいなくなってしまったんで、2つの意味でスポーンと空いたところでの松本さんの活動のしやすさは非常にあったと思います。

プレイヤー兼ゲームメイカーとして唯一無二の存在に

 そうして、松本さんに働いてほしい場所がたくさんできていたところから、松本さんが完全に独占状態になっていったという歴史があるわけです。  2009年に『IPPONグランプリ』がスタート。島田紳助さんが作った『M-1グランプリ』がいったん2010年に終了して、2015年に復活したわけですけど、そこで実質審査委員長的なポジションを務めているということは、松本人志さんが言ったことが若手芸人にとってのすべてになるという空間ができ始めたということです。 『キングオブコント』の審査員も2015年以降ずっとやっていくことになるわけですから、コントにせよ漫才にせよ、松本人志の脳を通らないと世に出られないという状況が、若手芸人の中では当たり前になっている。それ以降に芸人を目指した人にとっては、それはもう疑いようのないルールというか、法律みたいになっているということですよね。

『ドキュメンタル』で企画者として世界へ

 2016年からはAmazonプライムで『ドキュメンタル』が始まりますね。“笑ってはいけない”というルールの中で事故的に発生した笑いを評価する。  日本の内輪ノリのカルチャーでしょ、と思われていたけど、まんまと海外に輸出されていて、世界でリメイクされていますから、これはゲームメイカーとしての松本人志の才能っていうのが、映画監督としての評価では超えられなかった国境を超えているっていうことです。

話芸のプレイヤーとしてもバキバキに成果を

 近年は、プレイヤーとしてちょっと身を引きつつ、みんなを統括する担任の先生とか校長先生みたいなポジションになりながらも、それでもなお才能をバキバキに開花させて結果を出しているのが松本人志のすごいところなんです。他の人ではできない唯一無二のポジションを確かに担っているんですよね。  例えば『ダウンタウンDX』(日本テレビ)などで、バラエティに慣れてない人が心もとないトークをした後に、最後の最後に「いや、でもそれ、君さっきから●●やね」と、その番組の序盤に出てきたことを伏線回収して落としたり。圧倒的な名人芸は本当に衰えていないし、年々切れ味を増してるような気さえするところもあります。  自分のことを俯瞰的にいじれるようになったっていう部分も含めて、手数も増えてる感じもするんですよね。

権力・権威がめちゃくちゃ強くなっている

 そういうところで、バキバキに「話芸の人」としての手数も増えている。そして企画者としてゲームメイカーとしての結果もどんどん出しているっていう意味で成長してる人間ではあるんですけれど、同時に権力がめちゃめちゃ強くなってるんですよね。  売れっ子で冠番組持ってるというタレントの立場から、松本さんがいないとまず企画ができない、という状況になっていった。企画を思いついたとしても松本さんの名前がないと人が集まらないっていうところも含めて、いないと成立しない番組とか企画が結構いっぱいあると。  だからといって、“今回の件で松本さんが退場することはお笑い界の損失だから、退場させてはいけない”という安直な論説がX(旧Twitter)で見られるし、それとこれとはまったく別の話で僕は意味わかんないなと思うんですけど、そのぐらい権力がめちゃくちゃ増してきた歴史を語らないと、今回の件を語ることはできないと思います。 <文/大島育宙 構成/るしやま> 【大島育宙】 1992年生。東京大学法学部卒業。テレビ、ラジオ、YouTube、Podcastでエンタメ時評を展開する。2017年、お笑いコンビ「XXCLUB(チョメチョメクラブ)」でデビュー。文化放送「おいでよ!クリエイティ部」、フジテレビ「週刊フジテレビ批評」にコメンテーターとしてレギュラー出演中。Eテレ「太田光のつぶやき英語」では毎週映画監督などへの英語インタビューを担当。「5時に夢中!」「バラいろダンディ」他にコメンテーターとして不定期出演。

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