【高橋 克英】スキーリゾート「ニセコ」の様子がおかしい…ルイ・ヴィトンが出店、72万円のヘリタクシーまで出現でセレブ化が止まらない

ゴンドラまでヴィトン仕様

日本を代表する世界的なスキーリゾートとして君臨する、ニセコのブランド化が加速している。

ルイ・ヴィトンが、2023年12月に期間限定の店舗「ニセコ ウィンター リゾート ポップアップストア」をオープンした。

外資系最高級ホテルとホテルコンドミニアムからなる「パークハイアット ニセコHANAZONO」にあるポップアップストアは、スキーやスノーボード、ゴーグル、ヘルメットなどを中心に、バッグやシューズなどを販売している。

更に、日本初導入のイタリアのピニンファリーナのデザインによるフランス製高級ゴンドラの一部が「ルイ・ヴィトン」仕様となっている。

同ゴンドラは、シートは本革で、サスペンションシステム搭載。ゴンドラのスピードは業界最高水準の秒速5メートルだ。ゲレンデ前には、モノグラムのロゴをあしらった遊牧民の住居「ユルト」が設置され、ラグジュアリーな冬のリゾートを彩っている。

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この先、今シーズンの期間限定店を経て、ニセコに常設店舗が出来ても不思議ではないだろう。参考までに、日本国内にはルイ・ヴィトンは55店舗あり、うち直営店は13店舗ある。北海道には、札幌の1店舗しかない。

ルイ・ヴィトンの本店はフランスのパリにあるが、世界中の最高級スキーリゾートにも店舗を展開しており、欧州では、フランスのクーシュベル1850、スイスのサンモリッツ、グシュタード、クラン=モンタナ、米国のアスペンにも店舗がある。

筆者はコロナ禍前、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか」(講談社α新書)で「ルイ・ヴィトンの店舗がニセコに出来るとき、名実ともにニセコは、世界最高級のスキーリゾートとして認知されるといえるのかもしれない」と指摘した。これが、まさに現実のものになろうとしているのだ。

「ニセコ飛行場」新設の可能性

ルイ・ヴィトンの店舗登場と同時期には、Space Aviationが、新千歳空港~ニセコ間を、最短36分で移動可能となるチャーターフライトの手配を開始している。

6人乗りの中型機での日帰り往復で72万円+駐機代3万円だという。渋滞知らずのヘリコプターでスキー場にアクセスできる、ヘリタクシーの提供が始まったのだ。なお、同社は2023年10月、前澤ファンド代表の前澤友作氏から10億円の資金調達を実施している。

規制当局への認可などを含め、定期便などを飛ばすのは容易ではなく、ヘリポートやヘリコプターの維持整備コスト、パイロット、整備保守要員の確保の問題などもある。

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ニセコの場合、需要という問題はクリア出来ても、天候の問題もある。スキーシーズンには、降雪による視界不良などで飛べない日も多いものの、安全第一で、利益を継続的に挙げようとするSpace Aviationなど民間企業の動きには期待したい。

この先、ニセコにヘリポートが再開されたり、新設されたりすることで、将来的には、フランスのクーシュベルのようにプライベートジェットも離発着できるような「ニセコ飛行場」ができるかもしれない。

富裕層にとって時間はおカネより大切であったりする。ニセコにダイレクトアクセスしたい、新千歳から最短で移動したいといったニーズはありそうだ。

清掃バイトは時給2000円超え

世界最高のパウダースノーに加え、温泉や食事を求め、ゲレンデや街中には、豪州やアメリカ、フランス、香港やシンガポールなど数多くの富裕層で溢れている。モンクレールやボグナーのセレクトショップもあり、全身をモンクレールで揃えたモデルのようなスキーヤーも目につく。

パークハイアットやリッツ、ヒルトンといった外資系ブランドホテルや飲食店などには、外国人スタッフも多く、会話は基本英語だ。

ニセコは、今や世界的なスキーリゾートだ。パウダースノーを求めて「外国人による外国人のための楽園」が形成されてきた。今シーズン(2023年12月~2024年4月)のニセコの主要スキー場は、積雪量にも恵まれ、大盛況で賑わいが続いており、時間帯によっては長いゴンドラ・リフト待ちの列ができるほどだ。

インバウンドの訪問数や宿泊延べ数はコロナ前の賑わいを越えて、過去最高を更新する勢いだ。

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こうした加速するインバウンド需要と人手不足を背景に、ニセコの時給も高騰している。ニセコで最大規模を誇るホテルやコンドミニアムの管理会社であるHTMでは、スキーシーズンの清掃やベットメーキングのアルバイトを、1850円から2050円で募集しており、都内の平均的な水準(1300-1500円)よりも高い。

海外からのバイリンガルスタッフに依存するホテルだけではなく、スキー場、飲食店の人出不足はなおさら深刻だ。

このように海外富裕層を中心としたニセコへの訪問客や宿泊客は増え続けており、不動産への投資や新規開発も続いている。

2020年オープンのパークハイアット ニセコHANAZONO、東山ニセコビレッジ、リッツ・カールトン・リザーブを筆頭に、2024年には、ニューワールドラプルームニセコリゾート、2025年以降には、北海道ニセコSIX SENSES、カペラニセコ花園ヒルズ、アマンニセコ、バンヤンツリーニセコといった外資系最高級ホテルやホテルコンドミニアムなど、香港やシンガポール資本を中心とした国内外の大手による開発計画が目白押しなのだ(マリブジャパン調べ)。

不動産は一瞬で売り切れ

上述した外資系高級ホテルコンドミニアムなどへの海外富裕層による不動産投資も沸騰している。

実際、香港やシンガポール、米国の投資家から直接筆者のスマホにも電話があったりする。開口一番、「(ニセコの)パークハイアットかリッツの購入を検討しているが、出物がない。最近の売買動向とバリュエーションに関する見解を教えて欲しい」「(分譲中の)ニューワールドやMUWAへの投資判断はどうみているか」といったせっかちで、極めて具体的でストレートな内容だ。

参考までに、香港のPCCWグループが手掛け2020年に開業した「パークハイアット ニセコHANAZONO」はホテル棟とレジデンス棟からなり、レジデンス棟の分譲戸数は113室。所有者は、オーナー専用のロッカーやプライベートラウンジなども利用できる。

当初、約1億8000万円で販売された約72平米の半露天風呂付の部屋は、東京都心部にある最高級マンションと遜色ない価格帯だ。メゾネットタイプでは10億円以上、ゲレンデに面した部屋では14億円を超える超高額物件も完売している。

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それからコロナ禍を経て4年。富裕層限定のため滅多に売却物件が「表」に出てくることはないものの、為替の関係もあり、当初販売価格の倍以上の高値で売買されているものもあるといいい、出物があれば瞬間蒸発が続いているという。

日本国内においてここまでのキャピタルゲインが狙える場所はほとんどないはずだ。

まだ世界トップ20圏外

円安も追い風となり、海外富裕層からの不動産投資やインバウンド訪問が加速するなか、倶知安町では昨年10月から、条例施行に伴いホテル新築などを規制している。

こうした開発規制や宿泊税の導入は、無秩序な乱開発を防止し、インフラ整備や水不足の解消のためにも、必要な措置ではあるが、持続的な需要が続くなかで、供給量が限定的となることで、結果的にニセコの不動産価格をさらに押し上げ、希少化・ブランド化が高まることにもなろう。

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世界トップクラスのスキーリゾート地となったニセコは、世界中の富裕層が訪れるようになった。しかしそれでも、フランスのクールシュべル、スイスのアルプスに位置するサンモリッツ、米国コロラド州のベイルやアスペンなどの世界の高級スキーリゾートと比較すると、ニセコの不動産はまだリーズナブルな価格帯といえるため、引き続き世界では割安として投資家の需要が集まることになる。

実際、英国Savillsの「The Ski report」によれば、2023年10月時点の1?当たりのホテルコンドミニアムや別荘などプライム住宅価格(約1億2千万円以上)は、アスペンがトップ、ベイルが3位、クーシュベル1850が5位、サンモリッツが6位となっている。

ニセコは、日本ではトップながら、世界では20位圏外であり、トップのアスベルの半額程度の価格帯に過ぎなかったりする。

ブランド化は加速する

世界の富裕層の需要に応える形で、こうした世界最高級のスキー場は、規模が拡大され、ゴンドラやリフトなどの設備が整備されてきた。さらに、スパなどが充実した5つ星ホテルが誘致されミシュラン店が集まり、高級ブランド店が軒を連ねることで、更に新たなる富裕層を惹きつけるという好循環が生まれている。

冒頭のルイ・ヴィトンやヘリタクシー、外資系ブランドホテルが象徴するように、ニセコもまさに唯一の日本代表として世界最高級スキーリゾートの仲間入りを果たそうとしているのだ。

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ニセコでは、パウダースノーのおかげで、国内外の富裕層顧客がスキーヤー・スノーボーダーとして集まり楽しむことで、良質なホテルコンドミニアムなどが供給され、ブランド化が進み、資産価値の上昇により、更なる開発投資が行われる、という、投資が投資を呼ぶ好循環が続いている。

2027年には、高速道路が開通しニセコにICが出来る予定であり、2030年には、北海道新幹線の新駅がニセコに出来ることも決まっており、札幌や東京からのアクセスの大幅な改善が見込まれている。国内無双「ニセコ」のブランド化はこの先も加速しそうだ。

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